はいはい、かわいいかわいい。~~とある女盗賊のぼやき~~
恋人同士が何かを贈り合うのに理由なんか要らない。けど、まだ顔見知りや友人なら。きっかけにはなると思うんだ。
「けどさ、流石にちょっとは周りを気にしなよ」
この迷惑千万バカップルは、本当にあのお堅い新人騎士くんと疑り深い審問官なのか。
「すみません、この人がどうしてもここが良いというものですから」
「ええ、子羊くんの言う通り。私はここで君と過ごしたいんです」
……もちろん私だって馬に蹴られたくはないし、いつもなら付き合ってらんないんだけど。
この二人が公衆の面前だろうとかまわず熱い抱擁と接吻をした後で近くの高級宿に消える、なんて噂をあらゆる伝手から聴いちゃったら……本人たちに伝えるくらいはした方がいいと思って。
ふー……やめとけば良かった。
人目も憚らず、馬鹿みたいな花束を抱えた子羊クンと一目見ただけで誰もが高級品だとわかる誂えの剣を携えた審問官……こんな白昼堂々聖火神のお膝元でプレゼント交換をしようなんて、あんたらの宗教ってそんなに寛容なの?どう見ても恋人に贈る品なんだって。
「テメノスさん…っ これ、貴方のことを想って種から育てました。一本一本丁寧に棘も落としたんです。貴方に傷一つ付けたくなくて…あっ、本数はちゃんと数えてますよ!もう前みたいな失敗はしませんから…!」
「素敵な花束ですね…いったいどんな意味が込められているのかな?実はね、私も君に似合いそうな剣を見つけてしまったんです。とある異端が大事に抱えていましたが、ちょっと審問したら親切に渡してくれたんです。だから、これは君に…♡」
重い。デルスタ丼の百倍ブーストって感じ。
何?その花、種から育てたの。難しい品種じゃん。
剣を……審問で?神官ってなんだっけ。
「……結婚してください、テメノスさん」
「もちろんですよ。ずっとその言葉を待っていました」
「ねえ、あんたら付き合って何年?」
「「二ヶ月です」」
……帰ろうかな。
式があるなら行くけど、その代わりお酒を樽いっぱいに用意しといて。
END