たとえばこんな話へらへらとだらしなく笑う男が目の前にいる。
分霊体は失ったものの、まあとっととここから脱出するのは容易いだろう。
だから俺は椅子にふんぞり返って、名前を聞いてやった。
「あ、えと、僕は神在月といいます。本来は吸隊所属なんだけど、出向でVRCに来てて」
耐吸血鬼用強化ガラスの向こうで、やはりふにゃんとした顔をする。
「じゃあ事情聴取、はじめて良いかな、辻斬りナギリさん?」
どれだけ尋ねられても、斬った相手の事など覚えていない。
あれは恐ろしい吸血鬼、辻斬りナギリだと叫ぶ声があるだけで。
斬って吸った血よりも、その恐怖の声こそが、俺を俺たらしめる畏怖だ。
「じゃあ一番最近は、小学生の子供三名を斬った〇〇日の件かな?」
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