〜兄弟集合「っ…にーさああああん!!!」
「うわわっ!おっ、ちょっ…十四松っ」
「にーさんっすよね?本物のおそ松にーさん!」
「当たり前だろー、本物のお兄ちゃんですよー」
「うあああああああああん!!」
「ひぃぃうるせー…元気そうだな」
「めちゃめちゃ元気!にーさんも!」
「ん、オレも元気。探してくれてありがとうな、十四松」
「見付かって良かった!」
「うん、オレも会いたかったぜー」
じゃあもっと早く出て来いよ、なんて文句は十四松に飛び付かれて尻餅ついた上に後頭部と壁が当たってすっごく良い音してたから今は見逃してやろう。せっかくの兄弟達との再会だし。これで少しは馬鹿も治ると良いんだけど、無理か。物のない兄さんの部屋を意味もなく見回して溜息を吐き出した。
「…おそ松兄さん、やっぱり見付かっちゃったんだ…」
「一松一松う、相変わらず冷たいね!」
「あ、でも馬鹿なとこは昔のまんま」
「もー、少しは素直になったかと思ったのに。…あ、素直な一松はカラ松の前だけとかあ?」
「やっぱり馬鹿でしょ…」
「お、図星ー」
「…兄貴」
「あっ、カラ松ー!お前俳優だって?凄いじゃん、後でサインちょうだい!」
「…ちょっと腹に力込めとけ」
「えっ何で何で?や、ちょっとその笑顔怖いから!待て待てって!カラまっ…、っっっってええええ!!!」
「顔狙わなかっただけ感謝しろよ」
うーわ、めちゃくちゃ良い音した。綺麗に右ストレートが腹に決まって、カラ松は満足気だ。力任せに殴ったからか、まあ見事に大きなアザ。さすがに顔は狙えないよな、この怪力っぷりじゃ。兄さん、良く吐かなかったよなあ。
「何なのアイツ怪力ゴリラ!何でオレ殴られてんの?意味分かんないんだけど!?」
「みんな探してたのにさっさと出て来ないからでしょ、馬鹿長男」
「うわー痛そう…痣…」
「痛いよー…。…トド松」
「え、あ、うん…?」
「元気そうだな」
「あ、うん、元気だよ」
「無理に思い出そうとしなくて良いからさ、何かあったら兄ちゃんに頼れよ?」
「…うん、ありがとう。おそ松、兄さん…」
何となくだけどちょっとずつ思い出してるのかも知れない、と少し前にトド松に打ち明けられた。ぼんやりした映像が頭に浮かび、そしていつも兄弟の誰かが一緒にいるんだって言ってた。もしかして僕達六つ子が揃った事で、トド松の記憶がもっと呼び起こされてるのかも。それでも無理して欲しくないのは僕達全員同じ気持ちだ。
「急がなくて良いから、ゆっくりオレ達の弟に戻っておいで」
「っ…うん、」
頭を撫でる手も口調も、視線も優しい。やっぱりこれが出来るのはおそ松兄さんしかいないんだと、見ていた僕達は全員同じ笑顔を浮かべた。
「それより兄貴、やっと顔見せたと思ったら何なんだ?急に呼び出して」
「ああ、うん、ちょっと見せたいもんがあってさ」
どこに行くのやら、顔を見合わせて着いて行く。兄さんの、と言うか僕達のアパートから目的地はそんなに遠くなかったみたいで、10分程歩いた所ですぐに兄さんは足を止めた。
「じゃーんっ!」
「何ここ」
「新築の一軒家?」
「三階建て?いや、屋根裏部屋もあるのか」
「敷地ひろーい…離れっぽいのもあるよ?」
「にーさん?」
「何とここは、みんなで暮らす松野家でーす!」
「「「「「…はあああ?」」」」」
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「どう言う事だ?」
僕達の疑問を代表してカラ松が口を開く。家建てたとは聞いたけど、こんなに広くて大きい家だとは思わなかったし、何より全員で暮らすってどう言う事?
「だからさ、ここでみんなで一緒に暮らそ?」
「いや、あのな…」
「大丈夫!ちゃんと個々の部屋もあるし、十四松はさすがに新婚さんでオレ達と一緒じゃ彼女が可哀想だからあの離れ使ってもらってさ」
「そうじゃなくて…どうしたの、この立派な家」
「やだなあ一松、オレが建てたに決まってるだろ?」
「え、何担当したの。設計?土木班?建築班?あ、現場監督?」
「お金出したの!オレ達の家なの!」
「一松、話が進まないからあんまり揶揄うな」
「…へーい」
やっぱり兄さんが何かやらかしたこういう場を仕切るのはカラ松なんだなと思う。うん、これが僕達にとって当たり前の光景なんだ。次男は長男になれないし、僕は次男にはなれない。それぞれの役割があるんだと再認識した。心なしか一松も十四松も嬉しそう。
「だからさ、またみんなで暮らそうぜ!」
「…俺達には家があるんだが」
「ふふふーん。キミ達の住んでるアパートのオーナーはオレですう。強制退去にしても良いんだよー?」
「はああ?おそ松兄さんがオーナーとか聞いてないんだけど?」
「言ってないもん。まあ、強制退去は冗談だけどさ。でもオレ、やっぱりみんなで暮らしたいんだよね。楽しいじゃん?」
「聞いてた通り、本当におそ松兄さんは寂しがりの構ってちゃんなんだ。ボクはすぐには来られないからね?受験もあるし、大学入ってすぐとかは無理だし、アツシ先生の事もあるしさ」
「まあ、トド松はまだ未成年だしな。それは無理言うつもりはねーよ、ただお前の部屋もあるって事は覚えといて。…他は?誰か異論あるー?」
多分みんな、言いたい事はあるんだろうけど。兄さんがこうなったら誰も止められないし、そして結局その思い通りになってしまうんだろう。
「にーさんにーさん、いつ越して来たらいーの?」
「いつでもいいぜぇ、もう入れるし。取り敢えず十四松は結婚するまで母屋の屋根裏部屋使ってな。って言っても広くて綺麗だからさ、トド松もこの部屋」
「あいあい!」
「…もう部屋まで決まってんのかよ」
「あ、チョロ松はオレと一緒に三階な。二階は仕事の時間がまちまちなカラ松と、一緒に一松。一階はリビングとか台所とかあるからさ」
「…もうこうなったら何言っても決定事項なんだろ?」
「そうねー、でも本当に嫌なら言ってよ?」
「…嫌な訳ないだろう、兄貴の思い付きに振り回されるのは慣れてる。そうと決まれば…中、見て良いんだろ?」
「もちろん。ようこそおかえり、松野家へ!」
僕はきっと忘れないだろう。それこそ生まれ変わっても。
この時の兄さんの、今まで見たどの笑顔よりも本当に嬉しそうな顔を。