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    しの☆

    @shinoooonxxx

    こちらにはpixivから移動させた松のお話が置いてあります。気になったら覗いて見てください😊

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    酔っ払って可愛くなっちゃった四男のお話。からいちです。ルキラン1位頂いた作品なので思い入れがひとしお。

    酔った四男は破壊力が凄まじい。その日、松野家は珍事の連続だった。
    その一、両親が商店街の福引で当てた温泉旅行に二泊三日で出掛けてしまい、家には六つ子だけが残された。
    その二、これはいつも通りだが勝率の低い合コンに出掛けた末っ子トド松。普段どんなに遅くなっても帰って来るのに、合コン仲間のアツシくんと言う友人の家に泊まってくると先程連絡があった。
    その三、夕方からデカパン博士の所へ遊びに行っていた五男の十四松も、博士の研究の手伝いするから今日は帰らない!と電話を寄越した。
    その四、これが実は一番驚いた事だけれど。四男の一松が友達とご飯食べる、と連絡して来た。家にいた兄三人の脳裏に過ぎったのは、路地裏で猫と一緒に猫缶を食べる一松の姿。恐る恐る聞くと、ちゃんと人間の友達だと言う。何でもいつぞやのクリスマスに絡んだ挙句、家を出た時にはご飯をご馳走になったカップルの彼氏の方とばったり再会したらしい。一緒にご飯でも、と誘われてお断りスキルを発動出来なかったと戸惑い気味に告げる一松の声は、それでもどことなく嬉しそうだった…とは、電話に出たチョロ松談。
    かくして、夜の九時。いつもなら賑やかな松野家の居間は静かだった。
    基本弟に構ってもらいたい時かトラブルがあった時、ギャンブルに負けた時くらいしか口を開かない長男おそ松と、元々寡黙な上に、兄組しかいなければ格好を付けた発言も態度もしない次男カラ松。そして兄弟(主に長男)が馬鹿な事をしなければマシンガントークを繰り広げる事もツッコミの必要もない三男チョロ松の三人が居間でそれぞれの時間を過ごしていた。三人では銭湯に行くのも何となく面倒で家の風呂を済ませ、夕飯は料理スキルの高いカラ松の手料理。あの六人用の布団に三人で寝るのも寂しく感じ、ダラダラと居間に居続けた。会話はあまりない、ぽつりと誰かが落とした呟きに他の二人が返す、そんな程度。それでもこの空間の居心地は悪いものではなく、それどころかこの三人だけに通じる緩やかな雰囲気が漂っていた。
    そこへ、ガラガラと聞き慣れた玄関扉の開く音が響き、ぺたぺたと素足の音が廊下から聞こえ、程なくして居間の襖がそっと開く。帰って来たのは当然ながら一松で、三人は一斉に弟の方へ顔を向けた。


    「お帰り、一松」
    「おか〜えり〜」
    「お帰り…ん?」


    最後に疑問の響きを持たせたカラ松の声は、その姿を捉えてのものだった。ふらふらとした体、耳まで赤く染まった顔、普段よりももっと半目が強くなった目元。そして。


    「珍しいな、飲んで来たのか」


    ふわりと漂うアルコールの匂い。カラ松と一松は酒に弱い。兄弟と出掛ける時しか飲まない一松が、明らかに酔っ払った姿で帰って来たものだから、それはそれは三人とも驚いた。そして更に驚く出来事が降りかかる。


    「…にいさん…」


    そう小さく呟いた一松。ふ、とカラ松はどことなく寂しそうに口元を緩めた。この三人のうち、普段から一松に兄さんと呼ばれていないカラ松に向けた発言ではないと思ったからだ。


    「ん?どーしたあ、一松」
    「…」


    おそ松の声に答える事もなく、一松はカラ松とチョロ松が並んで座る前に行くとペタリと腰を落とした。ああ、今日はチョロ松か、と思ったのも束の間。


    「…にーさん…」


    そう言ってカラ松にぱふん、と抱き着くように寄り掛かった。


    「…え?」


    兄組だけのまったりした空気で素に戻っていた上、珍しく酔った一松を見たせいで咄嗟にいつもの格好付けが出来ない。え、え、と狼狽えるカラ松はそれでもそっと凭れて来る一松を抱き締め、ポンポンとあやすように背中を撫でる。


    「…どうした?一松」


    後に長男と三男が口を揃えて言った。この時のカラ松の声は、甘ったるいホットケーキにメープルシロップとチョコレートソースと蜂蜜をたっぷりかけ、生クリームをてんこ盛りにした上に砂糖を振りかけたくらい甘かった、と。
    それでも一松はくふふ、と可愛く笑うとカラ松の肩にぐりぐりと額を擦り付ける。


    「あの一松が…」
    「カラ松に甘えてる…」


    それは兄二人をそれきり絶句させる程の破壊力だった。瞬時にスマホを構える二人。


    ((オレ(僕)の弟マジ可愛い…!!!))


    四男の気を逸らさないよう口を抑え仰け反りながら無言で悶えまくっていても画像や動画を撮るのを忘れない長男と三男になど気付きもせず、一松はぎゅうっとカラ松に抱き着いた。


    「…からまつ、にいさん…」


    …あの一松が!自分を!兄さんと!呼んでくれた!
    それだけでカラ松の体温は急上昇だ。普段から兄さんどころか名前すらまともに呼ばれた事はない。それでも大事な弟だからと甘んじて受け入れて来たが、やはり兄。兄さんと呼ばれるのがこんなに嬉しいなんて。


    「…ん?どうした…?」
    「にいさん、ぼくのこと…すき…?」


    はっ、と身悶え死寸前だったおそ松とチョロ松の動きが止まり、素早く視線を交わす。もしカラ松がいつものように「もちろん愛してるぜブラザー」なんて答えようものなら殴ってでも全力で止める、その合図だ。こんなデレた一松ははぐれメタルよりレアなのだからと頷き合うが、そのやり取りは杞憂に終わった。


    「ああ、もちろん。大好きだぞ一松」


    なんて、素の甘く心地いいテノールで囁くように答えられては、一松どころかおそ松とチョロ松のハートまで鷲掴みだ。更に。


    「ふふ…うれしい。ぼくも、からまつにいさん、だいすき…」


    そうふにゃりと笑う一松に、長男と三男は呼吸困難で転げ回りながら畳をバンバン叩きたい衝動を必死に堪えていた。気のせいか小刻みに全身が痙攣しているようにも見える。
    甘えられた当のカラ松は幸せそうな顔を隠しもしないし、一松もそんな兄の腕の中で表情を緩ませたままだ。トド松レベルの素早さでスマホを構え直したおそ松とチョロ松は、息絶えそうになりながらもその天使達の動画や画像を撮り続けた。


    -----


    あ、一松寝そう。カラ松の小さな呟きを耳にした兄と弟の行動は素早かった。タッグを組み二階へ駆け上がると重たい六つ子布団を何の示し合わせもなく見事な連携プレーで敷いた。おそ松はカラ松の、チョロ松は一松のパジャマを手に取り並んで階段を駆け下りるとそれをカラ松に差し出す。その間、実に二分。さすが元相棒。息が合いすぎてもう何も言えないカラ松に、おそ松がその腕の中にいる弟の髪を撫でながらニヤリと笑う。


    「せっかくこんなに甘えてくれてんだしさ、もう一緒に寝ちまえよ」
    「そうだな、そうさせてもらおう。…一松、ほら着替えるぞ」
    「んん…おにいちゃん、やってぇ…」


    ビシッ。眠りかけの一松から飛び出た爆弾発言に三人の体が固まる。お兄ちゃん。この兄三人のうち、誰一人として生まれてこの方そんな呼び方をされた覚えはない。年齢差のある兄弟ならともかく、自分達は六つ子だ。子供の頃は名前呼びがデフォだったし、兄さんと呼び始めたのは確か高校に入ってから。それ以来ずっと兄さんと呼ばれて来たから、お兄ちゃんなんて呼ばれた事はなかったはず。


    「お兄ちゃん?んー、一松う、お兄ちゃんにやって欲しいのー?」
    「んん…おそにい、いや…」
    「んんんんっ…!」


    おそにい、なんて珍しい呼び方をされた事に萌えて良いのか、それとも拒絶された事に嘆くべきなのか。複雑な感情でぐちゃぐちゃになりながら、おそ松撃沈。


    「もー、仕方ないなあ。ほら一松、着替えるよ」
    「んぅ…ちょろにい、やだあ…」
    「ぐふっ…!」


    幼稚園児のようにイヤイヤと首を振る一松の幼く可愛らしい仕草にチョロ松も呼吸が止まりそうな程悶絶しながら畳に沈んだ。残るは。


    「…一松。ほら、着替えないと寝られないぞ?」
    「…ふふ…からまつおにいちゃん…やってぇ…」


    一松が寝てるのか起きてるのかすら分からなくなったカラ松は思わず弟以上の半目になり、その目で果敢にも挑戦した末に玉砕して散った兄と弟を見ながらも満足そうに、万歳する一松の服を脱がせていった。お兄ちゃんって自分の事か…そう内心喜びに打ち震えながら。

    しっかりとカラ松のパジャマの背を掴み、カラ松に腕枕されて眠る一松を、すっかり四男専属カメラマンとなった長男三男が激写したのは言うまでもない。


    「なあチョロ松う…これ、どうする?」


    カラ松と一松が眠った後も可愛い四男の破壊力にやられた二人は、居間でビールを飲みながら散々撮った写真や動画を眺めていた。そして、突然のおそ松の質問にチョロ松は少しだけ首を傾げ…それからゆっくりと笑った。


    「そりゃもう大事に保存しとくしかないでしょ、こんな貴重なデレ」
    「保存するだけなんだ…」
    「兄さん何考えてんの。あーでもほんっと、僕の弟超天使!」


    撮った写真をデレデレしながら眺めるチョロ松に、おそ松が小さく笑う。


    「お前がそんだけハート撒き散らすとか珍しいじゃん。そんなに一松可愛かった?」
    「何言ってんの、めちゃくちゃ可愛かったでしょ!普段の一松からは想像出来ないギャップ萌えって言うかさあ」
    「まあねー。普段の一松も可愛いけど。それにしても酔うとあんなにカラ松への気持ちダダ漏れなのね…」
    「カラ松にしか懐かないもんね。いつもああやって甘えてれば良いのに」
    「そりゃ無理だ。カラ松がイタいのやめない限り突っかかるよ」
    「だろうね。…ねえ兄さん、今度一松連れて飲みに行かない?」
    「お、良いねえ。もちろんカラ松も一緒にな」
    「もちろん」


    顔を見合わせて笑う二人はまるで共犯者のよう。
    そんな相談がなされているとは知らない二人は、ぎゅっと密着しながら夢の中を漂っていた。


    -----


    「えー!!兄さん達ばっかりこんな可愛い一松兄さん見るとかズルいー!!」
    「わはー!!一松にーさんめちゃくちゃ可愛いっすね!!!」


    翌日、帰って来た末弟二人に酔っ払い一松のデレ動画を見せるとそんな反応が返ってきた。


    「あーもう、カラ松兄さんすっごく嬉しそうじゃん」
    「そりゃ、そんな甘え方されたらね」
    「天使!天使がいまっする!」


    天使とかお前が言うか十四松、と、その場にいた三人―おそ松、チョロ松、トド松―は揃って内心突っ込んだ。
    当人二人はこの場にいない。二日酔いで寝ながら呻く一松のために、カラ松が薬局まで買い物に出ているからだ。


    「はー…それにしても一松兄さんのこんな姿、初めて見たあ」
    「まあ、十四松とトド松がいるとこんなにはならねえだろうなあ」
    「何でさ」
    「弟達にこんな姿見られたらアイツ首吊るかも知んないじゃん」
    「あー…一松兄さん、ああ見えてボク達には兄さん意識強いもんね」
    「そーゆー事。ま、オレにとっちゃみんな可愛い弟だけどな!」
    「ただいま…ん?何の話だ、楽しそうだな」


    そこへ薬局とコンビニの袋を提げたカラ松が帰って来た。ニヤついた顔を隠さないままトド松が振り返る。


    「お帰り〜。良かったね兄さん、甘えてもらって」
    「ただいま。…ああ、その動画か!一松可愛いだろ!」


    へにゃり、といつもはキリッとした眉を下げて嬉しそうに笑うカラ松はコンビニの袋を差し出した。


    「アイス買ってきた、みんなで食ってくれ」
    「アイス!」
    「ありがと!」


    早速と末弟二人が袋を受け取り、それを確認するとカラ松は二階へ上がって行った。


    「かー、上機嫌だねえカラ松」
    「よっぽど嬉しかったんでしょ。アイス溶けるよ兄さん」


    四人がそれぞれ手に持ったアイスを口に入れた瞬間。
    ドタバタと派手な音が二階から響いた。


    「…おー、やってるやってる」
    「二日酔いの割には元気っすな!」


    しばらく続いた照れたような怒鳴り声が静かになり、顔を見合わせた四人がそっと様子を見に行く。


    「…あらら」


    襖を開けて覗いた部屋の中、しっかりとカラ松に抱き着いて眠る一松の姿。四人に気付いたカラ松は腕枕した手で一松の肩を抱いたまま、空いた手の人差し指を口元に当てた。


    「すっかり手懐けちゃったねえ」


    長男の呟きに頷いて、四人はそっと襖を閉めた。



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