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    teasぱんだ

    @nice1923joker

    紅茶とパンダが好き。
    好きなものを好きな時に好きなだけ。
    原ネ申アルカヴェ沼に落ちました。
    APH非公式二次創作アカウント。
    この世に存在する全てのものと関係ありません。
    䊔 固定ハピエン厨
    小説・イラスト初心者です。

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    teasぱんだ

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    2/2🌱🏛️ワンドロ

    #アルカヴェ
    haikaveh

    ワンドロ【いってきます】【星座】 苦手な言葉がある。
    『カーヴェ』
     金色の髪に隠された表情は歳を重ねるごとに曖昧になっていった。顔を見ることは今でもできる。写真に残されているのは、二度と変わることのない笑顔だ。
     父さんは、どんな表情で僕の名前を呼んで、あの日出かけていっただろうか。
    「……夢」
     目を開けて、いつものベッドの感触に息を吐く。スメール人は夢を取り戻した。草神救出が行われ一変したスメールは、先日学院トーナメントを含む学院祭を終えたばかりだ。
     季節は春に差し掛かっている。暖かくなった外では花々が咲き始め、鳥の鳴き声はいつもより機嫌が良さそうに聞こえた。ベッドから窓を見上げたこちらの心境とは真逆の歌声だった。

     部屋の掃除をしているとき、本棚の間から落ちてきた古びたノートに手をとめた。見覚えがなくアルハイゼンの私物かと思って持ち上げると、本の表紙に書かれていたのはカーヴェの名前で首を傾げる。思い出せない内容にページをめくると、まだ幼さの残る自分の文字と絵が描かれていた。
     スメールに生息する鳥の絵に、夜空の星座を思わせる点と線。たまに出てくるコメントを書いたのは父だろう。
    「そういえば……父さんの本を見ながらよく書いてたっけ」
     父の所属していた明論派は星空や天文学を専攻している学派だ。幼い頃は父が話してくれる夜空の物語を聞くのが好きだった。
     パラパラとめくっていくと、一枚の小さなメモが落ちてきた。どうやら二枚の紙を糊付けしてその間に挟まっていたらしい。経年劣化で粘着力が落ち、袋状の紙の間から抜けたのだろう。
     咄嗟に紙を掴み、ノートを置いてから慎重に広げる。薄い紙だ。黄ばんでいて、強く引っ張れば破れそうな程の。
    「…………宝の地図?」
     つぶやいた言葉に反応したのはメラックだった。「ピポ?」と疑問符をつけた音が聞こえて、メラックと一緒に覗き込む。
     紙に書かれているのは砂漠の地形のようだった。所々に避譲の丘やダーリの谷といった地名が書かれていて、目印になりそうな遺跡も書かれている。
     一番目立つところに大きな星マークがつけられていた。その横に書かれているのは大雑把な日付と詳しい時間、それと方角だろう。父が準備したものだとすれば、この日この時間にこの方角を見上げた星空には何かがあるのかもしれない。
    「なんだろう……聞いたこともなかったな」
     いくつか記憶の箱を開けてみたが思い当たるものはない。今日は一日休みだ。疑問は解消するに限る。目星をつけていた掃除をさっさと終わらせて、メラックと共に知恵の殿堂に向かった。

     知恵の殿堂に着いて司書に相談をしながら明論派の本をいくつか抱えて席に着く。テイワットの自転運動の速度、方角、砂漠から見える範囲、それらを元に夜空を調べたが、いまいち真相は掴みきれなかった。
     普段読まない著書に目を通していると、いくつか面白い常識を見つけることができた。
     夜空は日々変化しているらしい。明論派が愛読している雑誌のコラムを書いているのは、占星術師のモナという女性だ。彼女の見解によると、神の目が現れた瞬間に所有者の命ノ星座が夜空に輝き、運命が夜空に映るという。
    「面白いな。じゃあ、僕たちの命ノ星座も……」
    「随分と珍しい本を読んでいるな」
    「うわぁっ!」
     声と共に耳の横から顔が現れて、驚きに座ったまま飛び上がる。顔を向けると、こちらの手元をじっと見ているアルハイゼンの横顔がすぐそばにあった。
    「アルハイゼン!?」
    「君が明論派の雑誌を読んでいるとは、珍しいこともある。学派を変える気になったのか?」
    「はぁ? 根も葉もないことを言うな。他の学派のやつに聞かれてみろ。今はどこも優秀な人材がいないと嘆いているんだから、そんな噂が立ったら大変なことになる」
    「再入学は余裕だろうが、卒業学派として残せるのは一つだけだ。周囲に丸め込まれて明論派の学院に入学したら、君の最終学歴と卒業履歴は明論派のルタワヒスト学院になるだろう」
    「その学歴を引っさげて建築デザイナーの仕事に就けと? それならもう一度妙論派に入るさ。自分の経験と調査以上の成果をこの学校の講義で得られるなら、だけどね」
    「非効率であることは目に見えている。教材が生徒になっても意味はない」
    「ふんっ。というか、なんで君は知恵の殿堂にいるんだ」
    「昼食を取ろうと家に帰るところだ。君は」
    「それなら、この本を持って帰るのを手伝ってくれ! 司書さん!」
     身体を起こして歩き出そうとしたアルハイゼンにテーブルの上に置いていた本を五冊押し付けて、司書を呼びにいく。
     そのまま貸し出しの手続きを終わらせ、さらに十冊ほどの本を抱えて知恵の殿堂を出た。もちろん、そのほとんどを運んだのはメラックだ。

     昼食を食べながら互いの見解を話していれば昼休憩の時間はあっという間に過ぎていく。ノートに憶測を書いていた時、本を閉じたアルハイゼンが玄関へ向かった。
    「いってくる」
     その言葉に、一瞬だけ指先を止める。
    「ああ、いってらっしゃい」
     顔を上げることもなくそう返せば、すぐに玄関の扉の開閉音が聞こえた。閉まった後の静寂に、息を止めていたのだと気づいた。
    「はは、なかなか治らないな」
     誰かが家を出ていく言葉は、十何年経っても苦手意識がついたままだ。
     休日一日目は明論派の勉強をしているうちに終わってしまった。帰ってきたアルハイゼンに「入学願書を希望なら手配しよう」と言われ必要ないと言い合いをした次の日。休日のアルハイゼンに「午後から出かける」と宣言をして、僕は砂漠に行く準備をした。
    「じゃあ、いってくるから」
     アルハイゼンにそう言って、玄関を出る。
     朝手配した荷車はシティの入り口で待っているはずだ。
     父の残した地図を頼りに調べたが、結局どんな星がその方角に現れるのかはわからなかった。地図に書かれていた期間はちょうど今の時期で、ここまで気になったら現地に行くべきだと家を出た。
     手元にあるのは父が書き残した地図と僕の落書きが描かれたノートだけだ。
     シティを出て、乗せていってもらう商人と待ち合わせる。案内された荷台を覗き込むと、そこにはアルハイゼンがいた。
    「は? きみっ。なんで」
    「早く乗るといい。運送人が困っている」
    「なっ……あ、乗りますっ!」
     チラチラとこちらを伺っている運送人の視線に耐えかねて、カーヴェはアルハイゼンの隣に腰を下ろした。不幸にも乗っているのは自分たち二人とたくさんの荷物、それとメラックだけだ。
    「どうして君がいるんだ」
    「昨日の昼に散々推論に付き合わせたのは、君の方だと思っていたが」
    「興味がないような顔をしておいてよく言う」
    「君の持っている地図の存在を知らなければ、興味を持つことはなかっただろう」
    「なんで知ってるんだ」
    「気づかれていないとでも思っていたのか? 君はノートに文字を書きながら独り言を言う癖がある。学生の頃からそうだ」
    「い、家の中だから油断してたんだ! 別にいいだろ」
    「聞いているのは俺だけだ。構わない」
    「せっかくの砂漠調査だって言うのに……まあ別に、いいけどさ」
     視線を逸らして言うと、隣の男が声も上げずに笑った気配がした。
     アルハイゼンは本を読み始め、そこで会話は途切れた。正直、アルハイゼンがカーヴェの個人的なことにここまで首を突っ込むとは思っていなかった。
     いや、そんなことはないと先日の学院祭で知ったばかりだ。
     アルハイゼンは学院祭の裏でカーヴェの父親に関する情報を知り、それを教えてくれたのだから。
    「…………」
    「…………」
     互いに無言の中、荷物に押されて触れている肩が温かかった。学院祭終わりに聞いたことを思い出したからか、それともいってきますで終わらなかったからか。
     理由も名前もわからない感情だが、肩からだけでない温かみに全身の力が緩んだ。

    「この場所だ」
     先行して歩いていた足を止める。後ろを歩いていたアルハイゼンも何も言わず隣に並んだ。
     顔を上げると、幸運にもその日は雲ひとつない満天の星空だった。日時と時間を合わせ、方角を確認して目を向ける。星空に輝く星の中で一番目立っているのは扇のように広がった四つの星と、中央の星の下に二つ並んだ合計六つの星だった。
    「あの星の並び……」
    「君が書いていたノートに書かれていた図形と酷似している。点を六つ並べ、その形からイメージできるものを幼い頃の君が描くという遊びをしていたのだろう」
     そういえばテーブルの上に広げたままだった昔のノートのことを思い出し、思わず頬に熱が集まる。アルハイゼンにあれを見られていたのかと口を閉じると、こちらの表情に気づいたのだろう。
     後輩は口元を歪ませてからもう一度空を見上げ、言葉を続けた。
    「色とりどりの羽を持つ鳥が描かれていた星座のようだ。君の……命ノ星座だろう」
    「……極楽鳥」
     その幻の鳥の名前を口にする。
    『いつかカーヴェに神の目が向けられたとしたら、この時期に……そうだな。この場所なら綺麗に見えるはずだ』
     父の友人が神の目を手に入れた時、彼らは星空に友人の命ノ星座が輝くのを見つけたという。
     友人の誕生日と、命ノ星座、それに星空の年周運動を計算した結果、誕生日の三から四ヶ月前に空に輝くのではないかと彼らは推究した。
     僕の誕生日から逆算して想像に夢を膨らませていた父さんの姿を思い出す。
     神の目が欲しいと言ったカーヴェの想像を、そっと後押ししてくれたあの言葉をなぜ今まで忘れていたんだろう。
     砂漠のゆるい風が髪を揺らす。
     夜になった砂漠は、気温がグッと下がる。肌寒さに肩を両腕で抱くと、メラックが隣にやってきた。誘われるまま振り向けば、いつの間に設置したのか。アルハイゼンが簡易テントを広げ夕食の準備をしていた。
    「今夜はここで明かす。好きなだけ見ているといい」
     言いながら外に出てきたアルハイゼンはランプの下で本を広げた。その隣に座りブランケットを膝に乗せて、背もたれに体重を預けた僕は先ほどよりも格段に楽な姿勢で夜空を見上げる。
    「次に来るのは冬が始まる前だな」
     呟いた言葉に、アルハイゼンが目ざとく顔を上げた。
    「なぜ?」
    「その頃には、君の命ノ星座がみれるんじゃないか」
     空から目を離さないまま言った言葉は、風にかき消されることなくアルハイゼンに届いたらしい。
    「悪くない。二人で家を出れば、旅費も半分で済むからな」
    「……ははっ」
     満更でもないことがわかる返事に、僕は心の底から笑った。

    End
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