Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    waremokou_2

    @waremokou_2

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 39

    waremokou_2

    ☆quiet follow

    全然間に合ってないアドベントカレンダーネタです。

    ネヤネ:ほんのきまぐれ「これ買ぉてやあ」
     くい、とジャンバーを引かれる感覚に、三毛縞はなんとなく眺めていたワインの紹介ポップから力の方へと目線を下ろす。小さな赤と黄色の目が二対、ジッと三毛縞を見上げながら、なんとかこの交渉を成立させようと強い眼差しで訴えかけていた。
    「なァに二人して持ってきたんだよ」
    「これなあ、おかしはいってるねん!」
     ずい、と差し出されたクリスマス仕様の大きな箱は、この店の中でも一番目を引くディスプレイで陳列されていたものだ。三毛縞はもちろんその商品が何であるか知らなかったが、カレンダーじみたデザインになんとなく、どういったものかは理解できた。小さな手に握られた大きな紙箱をぐるりと眺め回し、再び二人に向き直る。この子供たちが、この商品が普段買ってもらっているようなお菓子でないことを正しく理解しているのか確かめておかねばならない。まあ三毛縞は黒柳誠と違い、こういった物事に大らか――黒柳誠曰く、杜撰である。財布の出どころを黒柳誠に頼り切っているとはいえ、たかがお菓子の箱一つずつくらいと言ったところだが、黒柳誠はけしてその限りではない。ケチくさい、というより生真面目なのだろうと三毛縞は思う。やれお菓子を夕飯前に食うなだとか、ルールには従えとか。弁護士としての職業病というより、黒柳誠の性質が弁護士としてちょうど良かった、という方が正しいほど、彼はルールに忠実だった。これで三毛縞が今、ろくな説明もなしに買い与えてしまえば、文句を言われるのは三毛縞当人である。しょうがない、とは思いながら小さな目線を受け止めるため、よいせとしゃがみ込み二人の子供に向き合った。
    「これ、どういうモンかわかってんのかい?」
    「おかしちゃうの?」
    「お菓子だよ。でも一日一個しか開けちゃダメなの。それに今日はまだ食べちゃダメだし、明日からじゃないと使えないよ」
     三毛縞の説明は正しかったが、一日ひとつ、今日はダメという言葉を聞くと、ム、と照也の顔が歪んだ。まあそうなるだろうな、と三毛縞はその隣で一緒になって箱を抱えている業を見た。おそらく、彼はそのルールもわかっておねだりをしに来たんだろう。それか業が欲しそうにしていたのを、照也がいっしょにねだりに来たか、だ。三毛縞にも、誠にもあまり欲しがる姿を見せない業の数少ないおねだりなら、ますます買ってやりたい気持ちはある。が、そのために三毛縞は、不満そうにする照也にこのルールを理解させる必要があった。
    「なんでなん?」
    「これは十二月に、クリスマスまで毎日一個ずつ、その日の数字が書いてあるところを開けていくものだから。まあお菓子ってよりカレンダーだな」
     きっと買ってもらえないと思ったのか、不満そうに唇を尖らせた照也に再び箱を返してやる。意地でも離すもんかとギュッと抱えられたそれに、三毛縞は思わず口を緩ませながら、小さい頭を二つ、くしゃりとかき混ぜた。
    「他のお菓子は食べてもいいけど、これは明日から、一つずつ開けていくのが約束。できる?」
     パッと見開くキラキラした瞳に、甘やかしてしまうのもしょうがないなと脳裏にチラつく呆れ顔をはらいのける。元気いっぱいな照也に返事の横で、嬉しそうにする業の笑顔を見せてやりたい男は生憎今はいない。これ見て、と相変わらず掴みやすい位置にあるのかジャンバーの紐をギュッと引かれながら、来る日に向けて盛大に飾りつけられたクリスマス一色のディスプレイの前へと連れ出される。子供にとってクリスマスなんて楽しみなイベントは、こんな装飾だけでも胸躍るものなのだろう。大小、値段も形も様々なアドベントカレンダーがずらりと並ぶ。子供向けのオモチャなのかと思いきや、大人向けに作られたのだろう化粧品や少し値の張る焼き菓子の入ったものから、パッケージだけでも十分に立派な飾りになりそうなものまでがずらりと並ぶさまは確かに壮観だった。
    「こりゃまたすごいな…… 種類はたくさんあるけど、お前さんたちはそれでいいのかい?」
    「おん! カルマっちといっしょにするねん!」
    「そりゃ仲良しでいいねえ。カルマは? それでいいのか?」
     ニコニコしている照也の答えに、欲しがったであろう張本人に向き直れば、業も興奮気味に頷いて返す。普段、三毛縞が想像し得るよりもはるかに大人びた業が、こうして年相応な感情を露わにするだけで、三毛縞はどうしても業を甘やかしてしまう。照也は確かに甘え上手で、三毛縞の感情をうまくくすぐっては自らの〝おねだり〟をうまく通すのに対し、業はどうにもまだ照也のように目一杯甘やかされると照れくさいのか困ったような顔をする。それももう見慣れたとはいえ、やはり三毛縞は、どうにも誠ほど理性的な子育てはできそうにないなと悟った。
    「ほぉん、面白いことするもんだなぁ……」
     三毛縞が今、ふと思考をめぐらせた相手はしかし、昔からこういった催しを楽しんでいる姿は見せてこなかった。いつだって、どれほど歪みあったところで、なんだかんだ揃った顔ぶれで青春は彩られている。が、片やイベントのどんちゃん騒ぎを苦手とする人嫌い、片や異国の宗教などに疎い神道の跡取りだ。三毛縞が何度となくごねてはようやく、長い学生生活の中で最後にはそれらしい催しができたものの、未だに騒がしいイベントには見向きもしない友人兼育児協力者である黒柳誠に、果たして今年も彼自身が満足するようなクリスマスを贈れるものだろうか。
    「きよとら、これも買おてや」
    「何ぃ? なあんでそんなお菓子ばっかり買ってもらえると思ってんだ」
    「だってこれは今日たべへんのやろ! じゃあ今日のおかしがないやん!」
    「その理屈で通用すると思ってんのかあ? せめて一個にしなさい。カルマも一個な、好きなの選びな」
     両腕いっぱいのお菓子をせびる子供を小突きながら、ふと目に止まった箱を拾う。赤や緑のカラーリングの中で、白を基調としたシンプルなそれは紅茶パックが隠されているらしい。価格的に上質な高級茶葉というわけではないだろうが、果実や花、ハーブのフレーバーを加えられ、二十四日全て違う香りを楽しめるとある。さあどうするものか、三毛縞の脳内で計算が始まる。もちろん、三毛縞自身はそも紅茶を毎日楽しむような性格ではない。あるならばビールだのウイスキーだのを詰め合わせくれれば大満足だし、さらに言ってしまえば二十四種もなくたっていい。紅茶が嫌いなわけじゃないが、茶葉の違いは理解できても、その味の優劣にこだわるタイプでもない。緑茶も紅茶もお茶はお茶だし、それ以上でも以下でもない。が、今三毛縞がこれを贈ってやろうかと思案する相手は、三毛縞の真逆を生きる男だ。やれこの茶葉はどこ産で、この味がどうだのやけに詳しく、故にこだわる。それにとびきりの高級志向だ。いや、舌が肥えているだけかもしれないが。買ったところで飲まないものなら無駄にしてしまうし、三毛縞が飲むわけでもない。メイドにきている若い女の子にやってもいいが、それでもなんだか腑に落ちない。クリスマスに似つかわしくないだろう四十五の男が、真剣に箱を睨みつける様はなかなかに目を引くようで、若い店員の女が、見かねたのか三毛縞にニコリと愛想良く声をかけてきた。そちら毎年売り切れるほどの人気の商品なんですよ、とか。プレゼントにも喜ばれますよ、とか。そりゃ若い子相手ならきっと喜ばれるだろうな、ということは三毛縞にも理解できる。例えば、業や照也が仲良くしているという朝日奈のところのお姉さんなら、きっと喜ぶだろう。が、三毛縞を悩ませているのは一筋縄ではいかない相手だ。愛想笑いで聞き流そうにも、彼女が随分と楽しげに勧めてくるもので。気がつけば、買う予定もなかったアドベントカレンダーを3箱に、お菓子を二つも持っている。こりゃ間違いなく呆れられるな、と覚悟を決め、それでも本来の目的であるワインの一本で、何卒機嫌が良くなります様にと祈った。

     さて、そんな三毛縞は今、子供二人を引き連れ十二月に備えた買い出しに来ている。一つはクリスマス用のツリーを買うこと。黒柳邸に三毛縞、照也が転がり込んではじめてのクリスマスを前に、この家にクリスマスツリーがないと知った三毛縞が、それではダメだと黒柳誠を説得したのが十一月の半ばだった。説得に応じた黒柳誠が実際にもみの木を取り寄せることもできたが、毎年使い回せる組み立て式の擬木の方が勝手もいいだろう、と三毛縞が調達にきたのである。ツリー用のオーナメントもいくつか買うため、飾り付けを任せる子供達に選ばせよう、という名目がひとつ。だが子供を連れてきたのには本当の意図があった。三毛縞に課された重大な役目、クリスマスプレゼントの調査である。オモチャ売り場にまずはツリーを買いに行きながら、それとなく探ってこいと黒柳誠に命じられている。これに関してはそう難しい話でもない。何と無く候補をみせておいて、あとは〝サンタさんへの手紙〟作戦で確定してしまえばいい。案の定、この時期のおもちゃ売り場は子供にとって普段以上に重要な意味を持つようだ。照也なんかは三毛縞の腕を振り払ってすっ飛んでいき、戦隊ものの新しい武器を模した玩具にかじりついている。一方の業はここより本屋の方が興味をそそられるのだろう。楽し気にする照也の後ろを追いかけるも、自分から何かを探すようなそぶりは見せなかった。せめてまだあと少しくらい、魔法みたいな存在を信じていてほしいものだと清虎は小さな背中を追いかけながらぼんやりと思う。とにかくうちも、黒柳家も、烏丸家も当時はこんなイベントにはしゃぐような家系ではなかったから、夢を見る間もなく大人になってしまった。
    「照也さんや、サンタさんもそんなに山ほどプレゼントしてくんないんじゃないかな」
    「なんでよ!」
    「だってサンタさん、照也にばっかりオモチャ買っちまったら、他の子の分、袋に入んなくなっちまうかもしんねえよ」
     それは困るな、と真剣な表情で両手の人形を見比べる瞳は、まだ三毛縞が照也を引き取ってすぐにはなかった生き生きとした活力に満ちている。出会ったばかりの業にはなかった柔い笑みも、随分と〝あたりまえ〟になってきた様に感じる。その〝あたりまえ〟をこうしてふとした瞬間感じ取るたび、三毛縞は自分の内側をむず痒い喜びで満たされていくのをはっきりと感じた。子供も、家族も、自分の人生には無縁だと決めつけていた頃では考えられない温かな幸せは、時折三毛縞に気づいてもらおうと胸をくすぐる。
    「まあ、まだ時間はあるんだし。二人ともゆっくりじっくり選びな」
     それよりツリー買わにゃいかんのよ、と三毛縞は小さな頭を引き寄せる。真剣な表情で唇を尖らせ〝レッドがほしいんやけど、ブラックもすてがたいなあ〟なんて吟味する照也に、業まで真面目な顔で〝ツユクサソードは大きいけど、レッドとブラックならふたつでも大丈夫なのかな〟なんて言う。三毛縞がついさっき言ったサンタさんの袋の容量を気にしているのだろう。まだ信じてくれている純粋さを喜びつつも、その純粋さを利用してしまった小さな罪悪感に三毛縞は小さく笑みを噛み締めた。

     その後、ツリー選びとオーナメントの買い揃えは恙無く終了し、さもついでですよと言ったていで三毛縞は業を併設された書店へと連れていった。オモチャ屋とは打ってかわって真剣な顔で本を選ぶ業と、そんな業を眺めるくらいしか楽しみがないのかつきっきりでそばを離れない照也を眺め、おおかたの予想をたてていく。業もまた、目移りする様な興味深い本を前に、お願いひとつを決めようと随分真剣な様子だった。主に図鑑が欲しいのか、山に自生する植物の図鑑と、鳥類図鑑のどちらかにまでは絞り込めたようだ。父親である黒柳誠と休みの度に山へ出かける二人なので、そこでの知識が欲しいのだろうし、最近では烏丸の家で使っているカラスが黒柳邸のあたりを飛び回って照也、業と遊んでいるらしく――余談だが彼らは半獣ではなく、使役されているカラスのようだ――その生態をもっとよく知りたいというチョイスだろう。三毛縞の心はある程度定まっており、おそらくだが黒柳誠も三毛縞の案に賛成するだろうと仮定しても、クリスマス当日、照也は人形二体を手に入れているだろうし、業は植物図鑑と鳥類図鑑を2冊贈られることだろう。結局、あの堅物も子供には甘いのだと三毛縞は思う。というより、そもそも愛想がないのだろう、たとえばクライアントであれば愛想笑いもしようが、我が子や照也には、気を許しているからこその〝無愛想〟なのだろうなというのが三毛縞の予想だ。だから、プレゼントにおねだりできるのは一つずつだとか、あれもこれも節操なく欲しがるのはダメだと言いながら、自分はまるで興味もなかったイベントに託けて甘やかすのが黒柳誠なのだろう、と。そんな黒柳誠を三毛縞が揶揄えば、いつも通り眉間の皺を濃くしてじろりと睨むのだろうか。想像してまた笑みを噛む三毛縞は、もう戻れないなと諦める他ない。ほんの少し買い物に来ただけで、これだ。気付けばつい、考えてしまう。それはけして子供の存在があるからだとか、業がかつての黒柳誠と瓜二つだからだとか、そんな程度を遥かに超えたもはや〝執着〟というに相応しいもののように思える。友情だとか、家族愛だとか。そんなものさえ何が正しいのか三毛縞にはわからなかったが、それでも、この感情はもっと俗っぽいような愛や、恋なんかに似ている気がする。それが、たった一度の恋しか知り得なかった三毛縞の、その一度とはあまりに何もかもが違うものだとしても。家族、としては、この関係はうまく機能している様に思う。なら、夫婦――夫夫としてはどうだろうか。無論、家族の在り方は様々だ。それでも、三毛縞と黒柳誠の関係はいつまでも家庭共同経営者であり、それ以上でも以下でもないままの関係が続くのだろうか。今はまだ時期尚早として三毛縞の胸の奥へと仕舞われたこの感情も、いつか、彼に話せる日が来ればいいと。そう夢を見るくらいはいいだろうと思うのだ。
     そうして目当ての買い物も終え、大きな荷物をなんとか車に積み込めば、ショッピングモールを出て暫く走らせただけで、後ろの席はあっという間に小さな寝息だけが聞こえてくる。飾り付けは明日か、夕飯の頃に帰ってきた黒柳誠も巻き込んでの大仕事になるだろう。凝り性な黒柳誠が、もしかしたら誰よりも真剣な表情で飾り付けをする様はあまりにも想像に易く。三毛縞は小さく笑った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭👏❤💯🎄😍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    waremokou_2

    DOODLE #HCOWDC 2
    お題は「おぼろ月」でした

    登場人物
    ・吉川直幸
    ・中島修一
    「月が綺麗ですね」
     そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
    「曇ってるけど」
     だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
    2725

    waremokou_2

    DOODLE吉川のエプロンについての返歌です。
    その節は大変美味しいスイーツコンビをありがとうございました。
    今日改めて8回読み返し、ゲヘゲヘしています。
    美味しい小説をありがとうございました。

    ※これはスイーツ組のファンフィクションです。
    青空の夢を みんなが各々騒ぐ声を聞きながらする皿洗いは家事の中でも好きなものの一つだった。とはいっても、特に嫌いな家事があるわけでもなく――確かに、排水溝のゴミを捨てるのはいい気持ちではないし、虫の駆除は無理だけど――そんな風に思えるのはひとえに、みんなが分担してくれているからだ、というのが大きいだろう。今日は深津が夕飯作りを担当してくれて、俺が皿洗い。彼の料理は山内さん仕込みだと聞いているから、毎食丁寧で感動する。本人が〝そんなことない〟と謙虚なのもまた好ましいのだから、彼にファンが多いのも頷ける。さらには料理中片付けまでしてしまうのだから、こちらとしては彼の後皿洗いをするのは楽でいい。もっと散らかしていい、というのだが、癖だから、気になるから、と料理の片手間にさっさとキッチンまで整えてしまう。俺はと言えば、そのあとみんなで食べた残りの食器を呑気に洗うだけ。そりゃ、家事が嫌いじゃないなんてのうのうと言えるだろうな、と改めて自分の呑気さに呆れた。残りはグラスを濯いでしまえば終わり、という頃になっておおい、とリビングから呼ぶ声がする。
    6097