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    waremokou_2

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    waremokou_2

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    三毛縞が黒柳に紅茶をいれるはなし

    ネヤネ:きもちのこもった「うわっ、何これ」
     簡易のキッチンに立った三毛縞は、二日目の茶葉を前にして早速度肝を抜かれることになった。箱の中から簡易の包装を取り出し、花のような洒落た匂いにさあ今日はどんな茶が出てくるんだと袋を破れば、そこには三毛縞が想像したものとはかなり、違った形状のもの――茶葉、であろう何か緑色のものが、短毛を纏って小さく丸められているそれが、コロコロと三粒ほど入っている。昨日のダージリンと比べ香りこそ華やかではあるが、いかんせん見た目は強烈である。三毛縞にとって茶葉とは、乾いた葉が粉微塵になって入っている、というイメージしかなかったが、焦る三毛縞の横でメイド長は〝まあ〟と目を輝かせた。
    「ジャスミン・ティーね」
    「コレって、ヤバい何かじゃないの」
    「ふふっ、確かに昨日の紅茶とは少し違うわね」
     三毛縞にはとても、ウサギの餌か、はたまた〝違法な〟草か何かだと言われた方が納得できるような見た目のそれも、茶葉に詳しい彼女が言うなら間違いないのだろう、と信じる他ない。彼女はその不思議な茶葉の球の香りを楽しみながら、彼女の〝とっておき〟を仕舞っている棚を開けた。一緒になって覗き込む三毛縞に彼女は、ジャスミン・ティーは中国が発祥だ、と説明する。
     余談だがジャスミン・ティーとは、ジャスミンの花や葉から作る茶のことではない。正式には花香茶(ファシャンチャ)という、緑茶をはじめとした白茶、烏龍茶などの茶葉に花の――今回であるならばジャスミンの香りを吸わせたものを指す。茶葉に花の香りを吸わせた茶は消して少なくはない。花香茶には他にも金木犀の香りを吸わせた桂花茶や、玉蘭花茶などが有名だが、その中でもジャスミン・ティーは最も生産量が多く有名で、花香茶の女王と称される。もともとは品質の落ちた茶葉を無駄にせず美味しく飲む為にマツリカの花の香りを吸着させて飲んだのが始まりと言われており 、そのため使う茶葉の種類や優劣により、その味も変化するのである。今、三毛縞が見て驚いた球の様に成形された茶葉はジャスミン・パール(茉莉龍珠)と呼ばれるものだ。短毛が見えるのは新芽に白い産毛が生えているからで、その芽を手もみで整形して作るため丸い形になる。小さな一粒で三から五煎ほど飲めるものではあるが、茶葉のなかでも高価な部類のものである―― 
    「中国のお茶なら、淹れるものも〝それっぽい〟のがいいかもねえ」
    「あら、楽しみ方をわかってきたわね?」
    「そう? 貴女に言われると余計に調子ノっちゃいそうだ」
     これなんてどうかな、三毛縞の指さす先にあるのは柔らかみのある白いティーポットだ。メイド長はいいチョイスだわ、と三毛縞の選んだそのポットを慎重に、そっと取り出した。
    「うわ、すっごい。高そうなの選んじゃったかな……」
     戸棚の奥では見えなかったそれは、まるでパールで作った糸で編んだレースを、陶器の丸みにぴったりと纏ったような繊細な梅の模様である。縁にぐるりとミラノ風のラインをあしらった以外は、ボーンチャイナの柔い白一色であるにもかかわらず、ふくよかな丸みのあるボディに施される意匠は繊細だ。その姿はまるで花嫁さえ彷彿とさせる、華やかさと慎ましやかさに満ちていた。
    「まあ! 高い食器だからこそ、使わなきゃ損だわ!」
    「そ、そうかな…… 貴女がいいなら、使わせてほしいな」
     もちろん、是非使って、と彼女は笑ったので、三毛縞は手に汗握りながらその小さな花嫁を受け取った。またしても余談にはなるが――今三毛縞の選んだこの茶器と、それに合わせて作られたカップとソーサーのセットは勿論、れっきとした有名ブランドの逸品である。ポットは一万四千円以上、ペアデザインであるカップは一万六千円を超える値のつくものであると、幸か不幸か三毛縞は知ることはない。そんな茶器を自らが手にしているとも知らず、さて、今回もできる限り手間暇はかけてやろうと意気込む三毛縞だったが、今回の茶葉は厳密にいうと〝紅茶〟ではない。中国茶に分類されるもので、その飲み方は少し異なる。使用する茶葉が紅茶ではないためである。メイド長はポットに湯を沸かしながら、三毛縞のためにポットとカップ、ソーサーをトレイに乗せると、ついで茶葉と、それから真っ白なクロスを用意した。
    「いいですか、今回のお茶は少し勝手が違います」
     でもとっても簡単よ。ぎょっとする三毛縞に、彼女は茶目っ気たっぷりにウインクしてみせた―― 



    「よ、ちょっと休憩にしな」
     入れ、という黒柳の声は相変わらず彼の書斎の扉越しにひどく冷たく響く。使用人や弁護士事務所の部下などは、彼のそんな声にヒヤヒヤして、ついでにめいっぱい胃をきりきり痛めながら、恐る恐る部屋に入る。が、そんな書斎に気さくにひょっこりと顔を見せる三毛縞清虎はこの家で――いや、この世の中で唯一の人だろう。黒柳は一瞬、部屋に入ってきた三毛縞を見、それから彼の手元にあるポットをはじめとしたトレイの用意されたカートを見て、また書類に目を落とすと〝すぐ終わる、二分待て〟といった。
    「今日のはすごいぜ、俺はまだ飲めるもんだと信じてねえけど」
    「なんだと?」
     三毛縞の軽口も、普段なら声もかけてやることはなかったが、これから自分が口にするであろう茶に対して随分と不安なことを言うから黒柳も顔をあげずにはいられなかった。
    「なんかウサギの餌みたいなやつ」
    「――――私に一体何を飲ませる気なんだ貴様は」
     まあまあ、匂いはいいぜ。三毛縞は黒柳の気を引けたことに人知れず満足しながら、ついさっきメイド長に聞いた通りの手順を脳裏で反芻する。――まずは茶葉を入れたポットに熱湯を注ぎこむ。量はカップに軽く二杯ほど。ポットを軽く温めつつ、その湯をまずはカップに〝移す〟 この時点ではまだ飲むためではなく、カップを温めるためだ。カップも軽く温めれば、その湯を再びポットへと戻す。この工程を二巡、素早く、しかし焦らずに行う。この時には少し湯が冷めてしまっているが、メイド長曰くそこが〝美味しさのポイント〟だそうだ。ジャスミン・ティーの適温は紅茶よりも低く八十度ほど。またジャスミン・パールは一度湯で洗うようにして戻してから煎れるとなお香りや色味が美しく出る。カップは雫をクロスで拭い、湯を戻したポットは三十秒から一分程度蒸らすだけで、もう飲み頃だ。この蒸らし時間の短さも、紅茶と中国茶の違いといえるだろう。そうして蒸らし終えたジャスミン・ティーは透き通った黄色が美しく、その芳しさから〝官能的〟という花言葉さえ冠するジャスミンの香りをこっくりと立たせていた。
    「悪くないな」
     黒柳は用意されたテーブルに着くなりポツリとそう零す。その言葉を、耳のいい三毛縞が聞き逃すはずもなく――思わず動きを止めた。それは時間にしてたった一秒でしかなかったが、三毛縞を動揺させるにはあまりにも十分すぎる時間だった。黒柳にとっては何気ない一言だっただろう、黒柳だって好ましいものは好ましいと言うだろう。ただ、その言葉を何気なく三毛縞の前で漏らしたことが、三毛縞にとっては重要だった。まるで正反対で、だからこそ似通っていて。昔はいがみ合うことが触れ合うことだと思い込んでいた。
    「この淹れ方、知ってたのか?」
    「何故?」
    「だって、俺は最初聞いた時〝お前は絶対怒る〟って思ったから。遊んでんじゃねえ! ってな」
     一度カップに出したものをあっちこっちへ移し替えると聞いた時は、さすがにどう説明したものかとひやひやした三毛縞に、黒柳は少し呆れたように笑いながら〝中国茶とはそういうものだ〟と、さも当然だと言葉に含める。実際、黒柳は自身で茶を立てることこそないが、教養として、そして接待の中で知識として持ち合わせている。三毛縞の手つきがたどたどしいものであると見抜くのにその知識は必要なかったが。それでも、普段粗末と自称する彼が、慣れない手つきで湯をあっちへこっちへ移動させている様は確かに黒柳の気を解した。そんな三毛縞の淹れるジャスミン・ティーはまるで味わう香水そのものだ。黒柳は鼻腔の奥までを満開のジャスミン――マツリカの香りで満たしながら、色鮮やかなひと口を含んだ。白茶の深い甘味が舌にじんわりと広がり、仕事で張り詰めた体にじっくりと染みわたっていく。喉から、腹へ、優しい温度が落ちていくだけで、体中が心地よい温もりに満たされていく。
    「ジャスミンは――」
     カップに恐る恐る唇を寄せる三毛縞は、黒柳の呟くような声に目線をあげる。
    「ペルシャ語で神からの贈り物というらしい。香りのよさとその美しさが由来という説があるそうだが」
     確かに、納得させられるものがあるな。そう言ってまたひと口含みながら、黒柳はずっと機嫌がよかった。花の持つリラックス効果のおかげだとか、そんなものが黒柳誠に通用するだとか、そんな事三毛縞は思ってもいないが、それでも目の前で楽しそうにする黒柳を眺めるのは、ここ最近よく見るようでいて、しかしながら今までのどんな笑顔より新鮮で。
    「もう一杯ずつくらいなら飲めるらしいけど、どうする?」
     三毛縞はほんの少し、答えを期待して問うた。
    「頂こう」
     黒柳は、三毛縞の望んだ通りの言葉を返した。



    「きよとら! あめ! あめちょうだい!」
    「わーってる、忘れてねえからほれ。帰ったら何すんだ?」
     午後二時。三毛縞が照也と業を連れて帰ると、黒柳邸には朝の活力的な騒がしさが戻ってくる。照也は玄関をくぐるなり三毛縞に飛びつき、朝開けたアドベントカレンダーの中身である飴玉をせがんだ。業はそんな照也が自分の後ろをついてきていると思ったのだろう。率先して手を洗いに洗面所へ行ったかと思うと、驚いたように扉からひょっこり顔を出す。駆け寄る照也にホッとした様子を見せながら、二人並んで手洗い、うがいのノルマをこなす。相変わらず何故か照也はシャツまで濡らし、業はタオルを貸してやっている。
    「きよとら!」
    「まーだ。まだ〝ただいま〟言ってない人いるだろ」
     早く早くと急く照也に、腕を引かれた業も満更ではなさそうだ。子供の元気な足音が二人分、黒柳の書斎へと駆けていく。三毛縞もようやく手を洗いながら、バタンッと激しい扉の音と、ノックをしろと叫ぶ黒柳の声に笑った。

     朝、昨日に引き続きアドベントカレンダーを開封した照也、業の前に現れたお菓子は紫色のキャンディーだった。噛んで飲み込めるものなら、と昨日のマシュマロは登園前に食べさせた三毛縞だったが、今日は帰ってきてから、と朝から照也を説得することから始めなければならなかった。照也は渋々、帰ってきたらすぐ食べる事を三毛縞と約束したかと思うと、今度は〝早く帰って食べよな!〟と息巻いていた。この様子だと幼稚園でもずっと楽しみにしていたのだろう。メイド長の用意してくれたオヤツが出てくるまではあと一時間ある。普段なら、決まった時間があるのだからその時間まで待ったらどうだと言う黒柳に任せるところだが、と三毛縞はとっておいた飴玉を二つ用意する。
    「きよとら!」
    「ハイハイ、わかってますよ」
     飴食う時の約束は、と三毛縞は二人の目線にしゃがんで問う。
    「はしりまわらへんこと!」
    「じっとしてたべること!」
     声を揃え、期待で真っ赤になった顔の二人に、三毛縞は小さな包みを手渡す。並んでソファに腰掛けながら、小さな頬を片方ずつ膨らませた子供たちは、喉に詰めやしないかと目をやる三毛縞に、めいっぱいの笑顔でブドウの味だと楽しそうに教えてくれた。
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    waremokou_2

    DOODLE #HCOWDC 2
    お題は「おぼろ月」でした

    登場人物
    ・吉川直幸
    ・中島修一
    「月が綺麗ですね」
     そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
    「曇ってるけど」
     だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
    2725

    waremokou_2

    DOODLE吉川のエプロンについての返歌です。
    その節は大変美味しいスイーツコンビをありがとうございました。
    今日改めて8回読み返し、ゲヘゲヘしています。
    美味しい小説をありがとうございました。

    ※これはスイーツ組のファンフィクションです。
    青空の夢を みんなが各々騒ぐ声を聞きながらする皿洗いは家事の中でも好きなものの一つだった。とはいっても、特に嫌いな家事があるわけでもなく――確かに、排水溝のゴミを捨てるのはいい気持ちではないし、虫の駆除は無理だけど――そんな風に思えるのはひとえに、みんなが分担してくれているからだ、というのが大きいだろう。今日は深津が夕飯作りを担当してくれて、俺が皿洗い。彼の料理は山内さん仕込みだと聞いているから、毎食丁寧で感動する。本人が〝そんなことない〟と謙虚なのもまた好ましいのだから、彼にファンが多いのも頷ける。さらには料理中片付けまでしてしまうのだから、こちらとしては彼の後皿洗いをするのは楽でいい。もっと散らかしていい、というのだが、癖だから、気になるから、と料理の片手間にさっさとキッチンまで整えてしまう。俺はと言えば、そのあとみんなで食べた残りの食器を呑気に洗うだけ。そりゃ、家事が嫌いじゃないなんてのうのうと言えるだろうな、と改めて自分の呑気さに呆れた。残りはグラスを濯いでしまえば終わり、という頃になっておおい、とリビングから呼ぶ声がする。
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    waremokou_2

    DOODLE #HCOWDC 2
    お題は「おぼろ月」でした

    登場人物
    ・吉川直幸
    ・中島修一
    「月が綺麗ですね」
     そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
    「曇ってるけど」
     だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
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    km64_lf

    DONEレノフィが膝枕してるところに晶くんが通りがかるだけのはなしです。
    謎時空。
    ふたりにとってはいつも通りだけど、側から見たら明らかにいちゃついている……というのと、
    甘えたなレノさんを書きたいという欲望をずっと持っていたので、
    すごく楽しかったです。
    膝枕をするレノックスとフィガロ 日が穏やかに照り、風がそよ吹く気持ちの良い午後。晶はキッチンへ行こうと、魔法舎の廊下を歩いていた。窓外に楽しげにはしゃぐ子どもたちの声がして、その穏やかで平和な様子に思わず笑みが浮かぶ。今日は任務がなく、訓練も午前の内に済んで、いまは各々が自由な時間を過ごしていた。
     晶は談話室の前を通りかかって、足を止めた。意外な光景に目を奪われて、思わず凝視した。
     談話室自体の様子は、穏やかな午後といった感じで変わったところはない。だが、そのソファを占有する二人組の様子が、晶にとって意外だったのだ。
     ソファを占有していたのは、フィガロとレノックスだ。彼らはふたりとも本を読んでいた。上着を脱いで、くつろいだ様子。ここまでは、意外でもない。だが、座るフィガロの腿に頭を乗せて、レノックスがソファに寝転んでいた。それが意外だった。
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