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    waremokou_2

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    とりあえずかけたとこまで
    ネヤネ こうちゃ まふぃあ

     地中海の中央に位置する島のなかで最大の広さを持つシチリア島。イタリアのブーツの先端のすぐそばにあるその島は、要衝とし様々な時代、様々な人種がその覇権を競い合った美しい島である。古代遺跡や歴史ある礼拝堂、自然も豊かなその島は、故に争いの歴史もまた数多く残っている。今、青い海を臨み漂白されたギリシアの街並みが美しいその島に一人の男が遠路遥々到着したばかりだった。長いフライトを終え、漸く到着した男――三毛縞清虎は彼の秘書である朝日奈らむの大荷物を手配された車に積み込むと、革張りの傷一つない一級品の家具さえ紛うようなシートへ飛び込むように座り込んだ。今この瞬間、運転手が許されるのならば最も残酷な方法でこの無礼な男を葬ってやりたいと睨みつけていることさえ気づかないまま、ネクタイを緩める三毛縞は全身ひび割れそうなほど窮屈でただただ仕方なかった。

     廊下のほうが騒がしい。黒柳はその騒々しさにいよいよかと眉間をきつくも見込んだ。黒柳の隣に侍る凛は相変わらず何を考えているのか読ませない冷めた目つきで、扉の方をじ、っと見つめている。ノックなどないだろう。黒柳の予想は外れることがない。突然はねるようにひらいた扉の前に、黒柳さえ超える大男がニヒルな笑みを浮かべ立ちはだかっている。
    「ノックくらいしたらどうだ」
    「おれとお前の仲だろ?」
     それともソッチのお嬢さんとイケナイことでも? もう何度も繰り返されたやり取りだ。それでも黒柳にとっては何度目だろうが慣れない、心臓に悪い〝アクシデント〟でしかない。そも、三毛縞が黒柳に会いに来るときは大抵〝よくないこと〟がおきたというサインだ。そんな〝災悪の象徴〟でもある三毛縞の来訪は、いつだってできれば回避したいような、悪夢でしかなかった。部下を下がらせ、ついでに凛にも今日はもう帰っていいと下がらせた黒柳に、部下はいつだって半信半疑、三毛縞の来訪に気を張り詰めた鋭い視線が招かれざる客人を睨みつける様に出ていく。三毛縞もまた、朝日奈に今日の宿へ帰るよう指示した。
    「凛、朝日奈譲の護衛を」
    「承知いたしました」
     凛は去り際黒柳に挨拶すると、朝日奈とともに退室した。部屋には三毛縞と黒柳しかいない。窓辺に臨む地中海は静かに水面を闇夜で揺らめかせ、物寂しい美しさに満ち満ちている。三毛縞は部屋をぐるりとまわって物色すると、用意されていたティー・ポットから二人分の紅茶をのなみなみと注ぐと、一つを黒柳に、もう一杯は勢いよく飲み干した。
    「你想见面(あいたかった)?」
     挑発するような目つきはまるで、飢えた虎が獲物を見つけた時を彷彿とさせる鋭さがあった。黒柳には早急に片付けねばならない問題が、三毛縞がシチリア来訪さえ余儀なくされる程度には山積みになっている。それでも、一年はゆうに超えてしまっただろう長い長い年月の間、一時たりとも忘れられなかった、忘れることさえ許されなかった男を前に、彼の厚い理性の仮面がほどけていくのを感じた。
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    waremokou_2

    DOODLE #HCOWDC 2
    お題は「おぼろ月」でした

    登場人物
    ・吉川直幸
    ・中島修一
    「月が綺麗ですね」
     そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
    「曇ってるけど」
     だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
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    waremokou_2

    DOODLE吉川のエプロンについての返歌です。
    その節は大変美味しいスイーツコンビをありがとうございました。
    今日改めて8回読み返し、ゲヘゲヘしています。
    美味しい小説をありがとうございました。

    ※これはスイーツ組のファンフィクションです。
    青空の夢を みんなが各々騒ぐ声を聞きながらする皿洗いは家事の中でも好きなものの一つだった。とはいっても、特に嫌いな家事があるわけでもなく――確かに、排水溝のゴミを捨てるのはいい気持ちではないし、虫の駆除は無理だけど――そんな風に思えるのはひとえに、みんなが分担してくれているからだ、というのが大きいだろう。今日は深津が夕飯作りを担当してくれて、俺が皿洗い。彼の料理は山内さん仕込みだと聞いているから、毎食丁寧で感動する。本人が〝そんなことない〟と謙虚なのもまた好ましいのだから、彼にファンが多いのも頷ける。さらには料理中片付けまでしてしまうのだから、こちらとしては彼の後皿洗いをするのは楽でいい。もっと散らかしていい、というのだが、癖だから、気になるから、と料理の片手間にさっさとキッチンまで整えてしまう。俺はと言えば、そのあとみんなで食べた残りの食器を呑気に洗うだけ。そりゃ、家事が嫌いじゃないなんてのうのうと言えるだろうな、と改めて自分の呑気さに呆れた。残りはグラスを濯いでしまえば終わり、という頃になっておおい、とリビングから呼ぶ声がする。
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    waremokou_2

    DOODLE #HCOWDC 2
    お題は「おぼろ月」でした

    登場人物
    ・吉川直幸
    ・中島修一
    「月が綺麗ですね」
     そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
    「曇ってるけど」
     だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
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