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    waremokou_2

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    ネヤネ紅茶

    明日で最後。ハッピーエンドが待ってるぞ。

     十二月二十四日。降り積もった雪を固める子供たちの手付きもどこか浮き足立っている。今日は朝からすごかった。子供たちはまるで監視されているかのように早起きし、きっちりと顔を洗い歯を磨き、朝食作りを手伝い、率先して食器の片付けも自ら行った。きよとら見てる? 食器片付けてあげるね、なにかときびきびやりたがる。それならいっそ、と自分達の食器を洗うようアドバイスした黒柳の提案は大成功だったようで、二人でシャツをびしょ濡れ泡だらけにしながらきっちりとプラスチック製の食器を洗ってみせた。こうも変わるものなのか、と驚いたのは今まで子供と関わってこなかった三毛縞だけではない。業もまた、例年以上にソワソワしているようで黒柳の知らない子供らしい一面を見せていた。三毛縞たちからすれば、照也と業が直前で欲しいものを変えたりしなければ欲しがっているものを既に用意してあるし、今日一日をどう過ごすか、よりも、明日の朝二人が見せる表情の方がずっと重要である。が、子供にとって今日は最終選別日、最後の審判が下される日である。
     牛乳のパックで作ったかまくら用のレンガ型に雪を積めながら、三毛縞は横目で黒柳を眺める。照也と共に丸くブロックを組みながら、かまくらの仕組みや発祥について講釈を垂れている。入口はこう作ろう、レンガはどう組もうと試行錯誤している様子から見るに、照也の興味はひけたようだ。
    「カルマ、寒くないか?」
    「へいき、でも手がつめたい!」
     業は雪遊びがよっぽど珍しかったのか、手袋をぐしょぬれにさせながら無邪気に笑って楽しそうに雪を詰めている。虚弱だ、と聞いていたが三毛縞が想像するよりずっと逞しく遊んでいるように感じたのは、勘違いなんかじゃない。実際照也が来てからの業は昨年よりずっと活動的だ。できたらねむちゃんに見せるんだ、と話す業に、じゃあ立派なのを作らねえとな、と三毛縞も笑い返した。

    「二人とも手見せて」
     小さな手をよっつ眺め、よしと頷くと三毛縞はその小さな手をぎゅーっと握りしめた。あれだけ立派なかまくらを作り上げながら、霜焼けになる様子もなかったので安心だ。まだ赤い鼻の頭を、温かい部屋でいっそう真っ赤にさせた二人に黒柳がホットジンジャー・レモネードを渡してやる。照也ははじめて振る舞われたようで、恐る恐る舌をつける横で、業には飲み慣れたそれを美味しそうに抱えながら、ふうふうと冷ましながら飲んでいた。
    「お前さん、意外と器用だよなあ……」
     その横で紅茶を蒸らす三毛縞に、黒柳は少し自慢げに肩をすくめて見せる。黒柳が子供の頃からあるレシピで、寒い時期になると出てきた、所謂思い出の味でもある。うまい、と照也の驚いたような満足そうな声に、三毛縞はすかさず〝美味しい、だろ〟と口を尖らせる。それでも横で黒柳が、どこかほっとしたような、それでいて心底嬉しそうな顔で笑うから。
    「さ、俺たちもとりあえず休憩だな」
     クリスマス仕様のドライフルーツや花びらが鮮やかに漂い、フルーティな香りが一層楽しい一杯が仕上がった。
    「これ、めっっっちゃおいしい!」
    「それはよかった」
     テーブルに戻る黒柳に、照也は目を輝かせてマグを掲げた。それだけで、黒柳は珍しく柔い笑みを浮かべる。ああ、ずるいな。三毛縞はふと胸の内に浮かぶ甘い棘を自覚した。してしまった。何がずるいのか、笑いかけてもらえる照也が? それとも自分にはそんな笑みを滅多に向けない黒柳に? それとも。ざわつく感情は不快なはずなのに、今はそれさえなんだかとても愛おしく感じる。そんなゾクゾクするような気持ちが心地よいような。ずっと欲しかったものがそれだったような気さえした。
     今日で最後の紅茶だった。明日からはもう三毛縞は、黒柳と二人でティー・ブレイクを誘う口実がなくなってしまう。それは十一月三十日までと何も変わらない日常でしかない。たかが二十四日間の短期習慣だった。それでもなんだか、三毛縞にはほんの少しそれが惜しいと思った。でも、じゃあ、どうすればいい。三毛縞には紅茶を楽しむような習慣も感性もない。ただ二十四日も毎日毎日黒柳に、普通の何倍も手間をかけて丁寧に紅茶を淹れて差し出したのは他でもない、黒柳との穏やかな時間が楽しかったからだ。黒柳は漸く終わったとでも思うだろうか。ほんの少しでも、この時間が終わることを惜しいと思うだろうか。ただ、三毛縞にはどうしてだか黒柳にその心を尋ねることも、明日以降も気まぐれに三毛縞が紅茶を淹れてもいいか、尋ねることもできそうになかった。ああ悪い癖だと思う。今まで集られるだけの人生だった。自分から夢中で掴み取るなんて、そんな事はもう二度とするものかと決めたのに。抱きしめた相手が、腕の中で自らに恐怖し、怯え、逃げ出そうともがいて粉々に砕けてしまうのならば、いっそ。また苦しむのだろうか。自分が苦しむくらいならまだいい。照也はどうなるだろう。黒柳になら安心して任せられるかもしれないが、それでも自分が面倒を見ると言った手前捨てて逃げることもできない。最終日の紅茶はとびきり豪華な仕様だと言うのに、なんだか味もよくわからなかった。
    「気に入ったならまた作ろう」
    「ほんま!? ヤッター!」
    「ぼくも! ぼくも父さんのレモネード、すきです……!」
     リクエストならお応えしなければな。そっけなく言ったくせに耳の縁は少し赤くて。誤魔化すように口をつけたカップの陰で、黒柳の口角はへにゃりと緩んでしまっていて。思わず釣られて緩む表情筋に、三毛縞も慌てて紅茶を飲んだ。
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    waremokou_2

    DOODLE #HCOWDC 2
    お題は「おぼろ月」でした

    登場人物
    ・吉川直幸
    ・中島修一
    「月が綺麗ですね」
     そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
    「曇ってるけど」
     だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
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    waremokou_2

    DOODLE吉川のエプロンについての返歌です。
    その節は大変美味しいスイーツコンビをありがとうございました。
    今日改めて8回読み返し、ゲヘゲヘしています。
    美味しい小説をありがとうございました。

    ※これはスイーツ組のファンフィクションです。
    青空の夢を みんなが各々騒ぐ声を聞きながらする皿洗いは家事の中でも好きなものの一つだった。とはいっても、特に嫌いな家事があるわけでもなく――確かに、排水溝のゴミを捨てるのはいい気持ちではないし、虫の駆除は無理だけど――そんな風に思えるのはひとえに、みんなが分担してくれているからだ、というのが大きいだろう。今日は深津が夕飯作りを担当してくれて、俺が皿洗い。彼の料理は山内さん仕込みだと聞いているから、毎食丁寧で感動する。本人が〝そんなことない〟と謙虚なのもまた好ましいのだから、彼にファンが多いのも頷ける。さらには料理中片付けまでしてしまうのだから、こちらとしては彼の後皿洗いをするのは楽でいい。もっと散らかしていい、というのだが、癖だから、気になるから、と料理の片手間にさっさとキッチンまで整えてしまう。俺はと言えば、そのあとみんなで食べた残りの食器を呑気に洗うだけ。そりゃ、家事が嫌いじゃないなんてのうのうと言えるだろうな、と改めて自分の呑気さに呆れた。残りはグラスを濯いでしまえば終わり、という頃になっておおい、とリビングから呼ぶ声がする。
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    waremokou_2

    DOODLE #HCOWDC 2
    お題は「おぼろ月」でした

    登場人物
    ・吉川直幸
    ・中島修一
    「月が綺麗ですね」
     そう囁く声に、思わず顔を上げた自分が馬鹿らしい。この声らしからぬ標準語じみた発音はどこかぎこち無ささえ感じられるのがゲンナリするのは、おそらくそういった言葉を普段から息をするように無駄撃ちするこの男の自業自得である。ただ――この男がぎこちなく標準語でそう囁いたことにより、かつ見上げた先に薄ぼんやりと輝く朧月に、その言葉が響きどおりの意味だけではないのだという明確な証明になってしまった。と、いうのも――正直にいってこの男に、朧月の美しさなど理解できるとは思えなかったからだ。
    「曇ってるけど」
     だから、あえてそう返事をした。この男が誤魔化すように言葉を撤回すれば、この恥ずかしい言葉は仕方ないから忘れてやろうと思ったのだ。この春休みが始まってから、気がつけばほとんどの時間をこの男と過ごしている気がする。段々と、友人らしい距離感に慣れてしまった。そのままどんどん絆されて、今、重く、熱く、むさ苦しい腕の中に収まっているこの距離感が果たして友情というラベリングを許されるのか、もうわからなくなってしまった。表面上の関係は、契約した以上この男が言うなら俺と中島は恋人だった。中島がそう思っているなら、という不安定な環境下で成り立つ関係性はこちらの感情をひどく乱す。だからなお、一層自分がはっきりと拒絶の意思を示せないことに、自分に腹が立って仕方ない。
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