朝。いつもよりずっと早くに起きたのは子供だけではなかった。三毛縞が起きた頃、黒柳は休日であるにもかかわらず少し早く起きたようで、まだ眠たげな目で洗面所に立っていた。うとうとと彼方此方で船を漕ぎながら、隣に揃った三毛縞と共に歯を磨き始める。お互い朝の挨拶程度しか言葉はなかったが、それでも何を期待しているのか、待ち望んでいるかはわかっていた。それからしばらく、お互い寝ぼけた頭でぼうっとコーヒーを片手に待ち続ける事三十分。子供用の寝室から、わあっともはや悲鳴にも近い歓声が上がった時、目を見合わせた二人が示し合わせたように笑ったのは、子供の知らぬ話である。
サンタへ出した手紙の希望は、結局それ以上のものとして叶えられていた。カルマには彼が希望した本と共に、新しい登山用のジャンバーとハットが。照也には希望に出した人形が二体に、候補の一つであった戦隊シリーズの武器を模したおもちゃが。手紙の返事には、日々の努力を認めその功績としてのプレゼントであるとの旨が記されていたらしく、まるで法廷に提出する書類さながらの堅苦しさの中に、思いやりと慈しみが見え隠れする手紙はたしかに黒柳らしかった。
「よかったねえ、大事にしないとな」
サンタさんありがとう、大事にします。夢中な子供たちの笑顔に、三毛縞も黒柳もようやく目が覚めただその光景を目に焼き付けた。
そんなプレゼントを抱えながら、子供たちはさっさと古谷家へと駆け込んでいく。古谷家主催のクリスマスパーティーは前日から朝日奈らむをはじめ古谷一秋の友人が何人かが集まり飲んで騒いでの大盛況だったようだ。そして今日はその2日目、照也と業を招いてより大人数での(子供がいるため健全な)パーティーが幕を開けるらしい。もらったプレゼントを各々自慢し合い、お菓子とジュースで乾杯し、いくらかゲームも用意されているという。そこに、ねむの友人代表として招かれたのが照也と業だ。いくらか持たせたオヤツに、大きなプレゼントもしっかりと抱えた子供たちを送り届けた黒柳と三毛縞に、古谷の次男・千春は子供たちのプレゼントをめいっぱい褒めちぎりながら、ペコリと頭をさげる。
「お二人はお出かけですか?」
「おー、悪いなガキの面倒見せちまって」
「いえいえ。パーティーは人が多い方が楽しいですし。お二人もまた是非」
お出かけ楽しんで、と微笑む千春は相変わらず人懐こい表情で、珍しく黒柳が睨みつけない相手でもあった。よく知る朝日奈の姉妹もいればなお安心である。二人を預けながら、黒柳は静かにアクセルを踏んだ。
「これを」
一度帰宅した三毛縞に、黒柳はシンプルにラップングされた箱を差し出した。白一色のそれはそれなりの大きさにずっしりとした重さもある。黒柳は何も言わなかった。ただ目で〝開けたいのなら開けたらどうだ〟と言わんばかりに見つめてくるだけ。三毛縞は普段の豪快さを恐る恐る顰めながら、慎重に白い包装紙を丁寧に開いた。
「――うわ、すげえ……」
丁寧に包まれた緩衝材の内側に、慎ましく眠る陶器は美しい丸みを帯びていた。柔らかな白が暖かく、開く花を思わせる緩やかなカーブに沿って金のラインが美しい。そのティーセットはかつてメイド長が三毛縞に見せたどのカップとも違う、全く新しいものだった。
「これは?」
しかし、三毛縞はこれを差し出した黒柳の意図がわからなかった。見上げた三毛縞にしかし、黒柳はお前にだとまるで当たり前のようにそう言った。
「二十四日で随分上達しただろう」
黒柳はそれ以上はもう何も言わなかった。ただそれが、三毛縞にとっての必要な答えであり、このティーセットこそが黒柳の答えでもあった。少し可愛らしい華やかさながらに、上品さもたしかに存在するカップをかかげる。その美しく輝く陶器に、三毛縞は思わずニャハハと笑った。