その日息子たちは、共同で夜狩へと赴いた姑蘇の仙師を伴って蓮花塢へ戻ってきた。
今は息子の江澄と魏無羨、姑蘇の藍曦臣と藍忘機が、雲夢の宗主である江楓眠を前に夜狩の報告を行っている。
蓮花塢のもう一人の主であり、宗主夫人である私も同席していた。
そのさなか、ぽんという音と共に、縮んだ。
なにが?息子たちがである。
「はあ?」思わず声が漏れてしまった。はしたない。
三歳だった頃だろうか。小さくて可愛い姿の二人がそこにはいた。
胸がきゅうっとなる。
なっっんて可愛らしいのかしら?
ふくふくほっぺに、紅葉のようなおてて。
零れそうなよっつのおめめがこちらを見ている。
眩暈がする。
「ど、どういうことなの」
「なっななな何故二人が可愛くなってるんだい」
夫も動揺しているようだ。
双璧の二人も固まってしまっている。
縮んだ二人は、はじめきょとんとしていたが、次第にきゃっきゃと声を上げて遊び始めてしまった。
その様子に我に返り、
「阿澄、阿嬰こちらへおいで」と呼ぶ。
素直に寄ってくる二人に思わず笑みが漏れる。懐かしい。
体に外傷はないようだ。毒の気配もない。
「夜狩の途中、妖が作り出したと思われる霧にお二人は巻かれました。そのせいかもしれません。霧が原因ならば、妖は退治したので、時間経過で元に戻ると思われます。」
こわばった表情のまま藍曦臣が、そう口を開いた。
なんて迂闊な。元に戻ったらお仕置きね。
ひとまず胸をなでおろす。
改めて冷静になり、この後のことを思案する。
とりあえず、今日の報告はお開きにした方がいいだろう。
「姑蘇の公子方、本日は蓮花塢にて疲れを癒してください。部屋を用意させてます」
そう顔を向けたところで気づいた。気が付いてしまった。
急な事態に固まっていると思っていたが、藍曦臣は阿澄を、藍忘機は阿嬰を凝視している。
目は見開き、興奮しているのか息が荒い。
藍曦臣は頬を赤く染め、藍忘機は一見わかりにくいが耳を染めている。
「ど、どうかしたのかな?」
同じく気づいてしまった江楓眠が声を掛けるが、聞こえていないようだ。
じりっと足が一歩こちらへにじり寄る。
「ひっ」思わず小さく漏れる。
瞬間体が動く、勢いよく剣を引き抜き、息子たちをひっつかんで飛び乗る。
己の悲鳴を全て喉奥へ押し込み、全力で御剣をして蓮花湖へと飛び出した。
後ろからは双璧の二人が追ってくる。
「すごーい」「はやーい」
腕にはいきなり始まった鬼ごっこに、楽しそうに歓声を上げる我が子たち。
絶対に捕まってはいけない。
本能の告げるままに虞夫人は全力で逃走を図った。