灰簾石と紅柱石 「賢者様!見てみて、こっちに可愛い雑貨があるよ!」
手を繋いで西の国の豊かの街を歩くふたつの影。片方の影の持ち主は髪を風に靡かせ、もう片方はひとつに編み込んでいるようだ。仲良さげにお揃いの、色違いの服を着て、髪飾りを付けた2人はショーウィンドウに並べられるテディベアやブレスレットを指さし興奮気味に対話しながら歩いており、見かけた人々の内数名は穏やかに笑いながら見守ったり、拝む姿が見られたが2人は気付いていない様だった
「クロエ、このお店、ボタンや装飾品も売ってありますよ!」
「本当だ!ねぇ賢者様、このお店……」
「もちろんです!」
クロエが問い終える前に晶が返答すると一瞬びっくりしたような顔をしてから笑い声をあげる
「あはははっ!もう、賢者様ったら気が早いんだから。まだ全部言い終わってないのに〜!」
「ふふっ、だってクロエと2人で楽しめそうなお店だったので。さぁ、行きましょう!」
手を繋いで扉のベルを鳴らしながら店へと入る。店内はキラキラとしていて、ビーズやお菓子、ボタンにハンカチなどが所狭しと並べられていた
「うわぁぁ……!!」
「可愛い……」
ふわふわとした空間にはあまり人はおらず、ゆっくりと中を見て回る
「見て、賢者様。このくるみボタン、ラスティカっぽくない?この小鳥の絵柄と紅茶の絵柄なんて特に!」
「本当ですね!それに、こっちのうさぎ柄はクロエっぽいです」
晶が様々なくるみボタンの中から赤毛のうさぎのものを指さしながらそういうとクロエは笑いながら他のボタンを見回す
「え〜!そうかな〜?……あ、じゃあこの猫とクマのくるみボタンは賢者様かな?」
「猫とクマが私なんですか?」
「うん!だって賢者様は猫が好きだし、部屋の中にはクマのぬいぐるみがあるでしょ?……まぁ、表面的な事だけど……」
頬を掻きながらそう笑うとクロエはパッと立ち上がり、いくつかくるみボタンを取る
「クロエ?」
「ごめんね、賢者様。今すぐお会計済ませてくるから!」
疑問に思い首を傾げる晶を置いて駆けて行く。一方で 晶は少しぽかんとした後、近くのアクセサリーコーナーへと視線を移すと菫をモチーフにしたブレスレットが目に付いた。思わず手に取り、その造りを眺める。クロエの瞳のような紫の灰簾石のように透き通った花弁と電気石のように明るい中心部。その造りに感動した晶はブレスレットを2つ手に取り、会計へと向かったのだった
その後、雑貨屋を後にした2人は近くのカフェで紅茶を楽しみ、坂道を登った
「ねぇ賢者様。なんか大分近くない?寒かったりする?」
手をギュッと繋ぎながら腕に身体をくっつける晶にクロエが若干どぎまぎしながら問いかけると少し目線を足元へと向けてから上目遣いでクロエを見つめる
「いえ、そうでは無いんです。ただ……」
「ただ?」
「ただ、今は女の子同士だからこうして近付きたいなって……ごめんなさい、迷惑……ですよね?」
苦笑いを零しながらクロエから視線を外す。そして、そっと身体を離しかけた瞬間にクロエが口を開いた
「そんなわけないよ」
「……えっ?」
「確かに過去の事もあって女性は苦手だけど、こうして女の子になってお洒落して、賢者様と2人でお買い物やお散歩したり出来て嬉しかったし楽しかった。それに、この姿だからできることもあったから……」
『だから、』と途切れ途切れになりながら一生懸命に思いを伝えるクロエに晶は少し拍子抜けする
「だからね、賢者様!今日はすごい楽しかったからまたこうして2人っきりでお出かけしたいな〜って……」
そう言い終えるとクロエはたちまち顔を赤くして腕をぶんぶんと振り回す
「うわ〜!!ごめんね、賢者様!今のなんか、その、なんて言うか……うわぁぁ!!」
「ふふふっ……もちろんです。そうだ、あのお店、女性限定ですけど、今度は女性カップルで行きませんか?カップルメニューのパフェ、一緒に食べたくって」
イタズラっぽく微笑むとクロエは髪留めが外れてふわふわの髪が乱れるのも構わずに百面相しながら頭を上下左右に振る
「あの、えっと、それって……」
「えぇ、そういう事です」
晶はクロエの肩に手をそっとのせて背伸びをして頬と唇に触れるだけのキスをしてブレスレットをそっと付けると手のひらにもキスをする
「あぅ……」
クロエは思わず可愛い声を漏らすと後ろに一歩下がる。その様子を愛おしげに目を細めながら見た晶は離れた分だけ距離を詰めると優しく抱き締めて、笑いながら耳元で囁く
「ふふっ……くーろえ♪大好きですよ」
その言葉にクロエは耳まで真っ赤に染めることしかできなかった