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    ジとア嬢が入れ替わる話

    「あ…??」
    「あら……………」

    ────シェアハウスの朝は早い
    それは平日だろうと休日だろうと変わることは無い
    1番最初に目覚めるのはこの家の料理担当、璃瑞
    朝食を5人分作るので早く起きなければいけない
    だが本人は苦痛に思っておらず、寧ろ楽しいとすら思っているらしい

    「早く起きなさ〜い!!朝だよ!」

    大声でダイニングキッチンから叫ぶ
    璃瑞の声はよく通るから上に居てもしっかり聞こえてくる

    のそのそと歩き半分寝ぼけながらおはようと呟くネーヴェ
    仕事が休みだからかラフな格好のまま階段を降りて来る狐雪

    …おかしい
    ジェミニはいつも通り誰よりも遅く来るから心配はない
    だが、璃瑞以外の誰よりも先に起きて下へ珈琲を淹れに来るはずのアリアが来ない
    気になった璃瑞はふたりに問いかける

    「ねぇ狐雪ちゃん、ネーヴェ、おかしくない?」
    「アリアとジェミニ?」
    「そう、ジェミニはただの寝坊だとしてもアリアがこの時間まで寝てるなんてことあったかなって」
    「確かに。心配だから僕はジェミニの様子を見てくるよ」
    「『面白そう』の間違いじゃなくて?」
    「まさか。心配で心配で食事も喉を通らないよ。」
    「しっかり平らげてくれてるけどね」
    「フフ…とにかくだ、ふたりはアリアの様子を見に、僕は彼の様子を見に行ってこよう」
    「「了解」」

    それぞれの様子を確認しに二手に分かれる
    アリアの部屋へ入るため、璃瑞がノックをし、入っても良いか一言添え、狐雪がドアノブに手をかける
    が、何一つ返事がない所か音沙汰すらない
    まさか本当にどこか具合が悪いんじゃないかと心配したふたりは躊躇なく扉を開けた

    「ゔん………………………」

    目の前の出来事に唖然とした
    あの早起きのアリアが毛布を思いっきりかぶり、うるさいと言わんばかりに唸っている

    「えっえっ、アリア?!?」
    「具合でも悪い?今日は休む?」
    「………………いまなんじ」
    「今は7時半だよ!」
    「……ならまだねれんじゃん…おこすなよ」
    「アリア?」
    「どどどどどうしちゃったのアリア?!」

    明らかにいつもと様子が違う彼女に戸惑うふたり
    すると突然ノックの音と共に失礼するよ、と言う声も聞こえてきた

    「どうしたのネーヴェ、血相変えて」
    「どうしたもこうしたもないよ狐雪。説明は後。璃瑞、今すぐそいつを叩き起して」
    「アリアのこと起こせばいいんだね!わかった」
    「今すぐ下に集まって。僕達は3コマ目から、アリアは確か午後からで璃瑞は振替休日、狐雪はお休みだから時間はあるね。状況を整理するよ。」

    先程の異変は的中することとなった
    徐にネーヴェが口を開く

    「みんな揃ったね。じゃあ説明してくよ、まず」
    「ちょっと待て。なんで目の前に僕がいるわけ。」
    「そうね、私も自分の姿が見えるわ」
    「そうだね、多分……ていうかほぼ確実に君たちは…」

    そう、単刀直入に言うと、ジェミニとアリアが入れ替わったのだ
    ジェミニの声でアリアが、アリアの声でジェミニが話すのはあまりにも不思議な気分だった

    「あ…??」
    「あら……………」
    「そんな事あるんだ」
    「えぇ…可哀想に、、なんとかならないの?ネーヴェ」
    「ううん…こういった事例がないから僕からはなんとも。学校行くまでに戻れなかったらもう最悪このままやり過ごすしかないね。」
    「チッ…気付かれたら殺すしかないね」
    「アリアの声でそんな汚い言葉発しないでくれる?」
    「雪…ふふ。良いのよ、大丈夫。突然のことに驚いてるのよね。」
    「逆に落ち着いてるアリア?は凄いね。ジェミニの顔だけど…」
    「お前こそ僕の顔でそんな口調やめろよマジで…」
    「正直キツいものがあるよね、本当に」
    「シバくぞテメェ」
    「コラーーーッ!!またそんなこと言って!!」

    話は大分ズレたがまとめると

    ・いつもの口調で話さない
    ・このままそれぞれのフリをしながらやり過ごす
    ・周りに絶対バレないようにする

    ことを重点的に気をつけなければならない

    そうこうしてるうち、あっという間に大学へ向かう時間になる
    アリアとジェミニにとっては絶望そのものだった

    「本当に気を付けた方が良いよ、アリアの親衛隊たち鋭いからね」
    「いや…ダルすぎでしょ何てもの作ってくれてんのアリア」
    「ちょっと熱烈なだけで可愛い子たちなのよ?」
    「ジェミニ、すぐボロを出すから僕、心配で着いて行きたいくらいだよ」
    「お前はからかいたいだけだろ着いて来んな」
    「えぇ?残念」
    「どこかだよ。丸見えなんだよ魂胆がよ」
    「さっきと同じ会話してる…」
    「ね、仲良いんだか悪いんだか」

    気は一切乗らないがやり切るしかない
    ここまで来たら腹を括るしかない、そう思い家から出た

    「健闘を祈るわ」
    「そっちも」
    「じゃあ行こうか、アリア」
    「ええ、ネーヴェ」

    学校が近付いたら口調をジェミニにすること、それだけは気を付けるようにと叩き込まれた
    通学路を歩くこの時間が、いつまでも続けば良いとすら思うアリアだった

    「アリア…………ジェミニの事は私が車で送ってく。璃瑞は一緒に」
    「行く〜!!帰りさァ、あの駅前のハンバーガー屋さん寄ってこ〜よ!」
    「うん、そうしよっか」
    「おい呑気かお前ら」

    まだ状況を受け入れる事が出来ない自分を差し置いて昼食の話で盛り上がる2人に若干イラつきながらも足を組み替えるジェミニ

    「ねぇやっぱ今日休んじゃダメ?」
    「食べ放題、行きたくない?」
    「………………………約束守れよ」
    「じゃあ頑張って」
    「行ってらっしゃい!後でね!」

    手を振る璃瑞がすぐに小さくなった
    面倒だし気分は最悪だが背に腹はかえられない
    ため息をつき重い足を引き摺って校内に入る
    するときゃあきゃあとどこからともなく声が聞こえてきた

    「アリアさま、おはようございます。ご機嫌麗しゅうございますでしょうか」
    「えっあ……え、えぇまぁ、はいそうね」

    適当にアリアの真似をしているつもりだった
    だがいつものアリアとは打って変わり、早口で尚且つ目を合わせない
    そわそわとしていて早くここから立ち去りたいと心から思った
    すると

    「失礼致しましたアリアさま」
    「は…、?」
    「本日はいつもよりお急ぎになられていらしたのですね、貴重な時間を我々如きが奪ってしまい、誠に大変申し訳ございませんでした」
    「そ、んなことない…わよ…大丈夫…大丈夫だから顔を上げてくれる………かしら」
    「ッッ!なんと慈悲深い…極楽の台の如き心地良いお言葉に感謝致します。それでは」

    なんだあれ…一種の怪しい宗教か……?
    そう思ってしまうほど、やけに慕われていた
    正直気分は悪く無い
    寧ろこのまま自分の思い通りになる駒を操れるアリアを羨ましいとも思った
    疑われ問い詰められるかと心配していたが難無く過ごせそうで安堵した



    一方、アリアは想像以上にうまくいかなかった
    癖というものは自分で思っている以上に厄介なもので中々抜けてはくれなかった
    ネーヴェと分かれたあと、友人であろう人物が近付いて来た

    「ジェミニ〜今日はいつもと違って早ェな〜?珍し!明日槍でも降るんじゃねぇの?」
    「そうかしら?いつも通りだと思ったのだけれど」
    「え」
    「あ、」
    「なんだよそれ……それって……」

    やった、やらかした、完全にやってしまった
    鼓動が早くなり、冷や汗が肌を伝う

    「罰ゲーム?」
    「え?」
    「だから『それ』!口調だよ、その『わよ』口調で1日過ごせってやつ?」
    「そ……うなのよ、本当だるいわね…」
    「ギャハハ!おもしれ〜!ジェミニってそういう罰ゲームとかやらないって思ってたから新鮮だな!でも俺の前でやんなくていいよ、疲れんだろ」
    「あ、ありがとう。本当に助かった。」
    「ジェミニが礼?!熱でもあんのか!?!」
    「普通に失礼だろそれ」

    咄嗟に意図を読み取り勘違いしてくれた友人に感謝し、なんとかその場をやり過ごせた



    時は案外早く過ぎ去っていった
    気付けば時計の針はもう16時を指していた
    ジェミニのほうはここからが問題だった
    最後の授業が終わり、帰り支度をしていた時、名前を呼ぶ声が耳に響いた
    朝の……親衛隊の声だ

    「アリアさま!お疲れ様です!」
    「ん、お疲れ様」
    「では行きましょうか!」

    ………………………行く?
    あいつ…今日に限ってどこかへ行く予定を立てていたのか?
    そもそもなんで入れ替わってんだよ
    悶々と考えていたら心配そうに名前を呼ばれた

    「アリアさま……?」
    「はぁ……あのね、僕今日体調が悪いの。だから帰らせてくれる?てか別に僕じゃなくても良いでしょ行く相手なんて」
    「僕…?あの……、」

    根本的なミスをしてしまった
    感情的になりすぎてアリアは絶対言わないような事をペラペラと口にしてしまったのだ

    「もっ」
    「あ、あのさっきのはその、あー…」
    「申し訳ございませんでした!!」
    「あ、?」
    「体調が優れていないというのに連れ回そうとした挙句、親衛隊として体調不良を察することが出来なかった……私は今日を以て親衛隊を辞めさせ」
    「た、隊長が辞めるのなら…私たちも……ッ」
    「いや、何でそうなるかな。辞めなくて良いよ。そもそも他人の具合なのに分かるわけないでしょ、だから辞めないでよ。お前たち何かと便利だし」

    もう帰宅するし何とでもなれと、隠す気がサラサラ無いジェミニに対し、親衛隊の隊長とやらが泣きながら頭を下げた

    「『便利』と…!言われた………ッ!!…過分なお言葉を頂戴し、汗顔の至りで御座います…こんな私たちでもまだ続けても良いのでしょうか」
    「人に許可取って続けんの?やりたいかやりたくないかなんじゃないの?」
    「わっわた、私は!!続け、たいです…!!」
    「私も!」
    「私もです!!」
    「言えんじゃん」
    「「「アリアさま〜!!!!」」」

    それじゃあ、と言い放ち、その場を後にした
    なんだかんだ楽しんだジェミニはシェアハウスへと向かった

    「帰った」
    「ただいま」
    「アリアとジェミニ!一緒に帰ってきたんだ!」
    「あれ、元に戻った?」
    「途中でぶつかって来たのよ、あのひと。そうしたら元に戻っていたわ」
    「ぶつかって来たのはお前」
    「そんな典型的なんだ、戻り方」
    「ネーヴェ!!何がともあれ!戻れて良かった!夜道暗いし危ないからジェミニが一緒で安心したよ!」
    「早速聞くけど今日どうだった?」
    「そうね…」

    アリアはいつもの口調で話してしまい、バレたと思ったが友人のおかげでバレずにやり過ごせた、ジェミニは最初こそ彼女のフリをし続けていたが放課後は隠すことすら鬱陶しくなりそのまま接した、とそれぞれ説明した

    「は?お前あんだけネーヴェに気を付けろって言われてたよな?」
    「それを言うなら貴方こそ最後まで貫き通して欲しかったわ」
    「やるか?」
    「私に勝てるとでもお思いで?」
    「わー!まぁまぁまぁ!ね!落ち着いて!何とかなったんなら良いじゃん、言い争いなんてしないでさ!」

    止めに入る璃瑞の言葉が、2人には何一つ耳に入っていなかった
    慌てる璃瑞だがその様子も目に入らない

    「どうしよ〜…聞いてくれない…」
    「学校が終わった後だってのに元気だねぇ」
    「声が笑ってるよネーヴェ…はぁ、私が止める」

    「元はと言えばお前がさ」
    「はぁ…喋るだけでは話は成立しないのがまだ分からないの?」

    「ちょっとふたりとも」

    「は?何?今煽った?僕を?」
    「あら、事実じゃない。私、何か間違った事を言ったかしら?話を聞かないジェミニさん」

    「落ち着」

    「言ってる事正しかったらどんな言い方でも良いって?ふざけてんのか?」
    「その言葉そっくりそのままお返しするわ、自身を客観的に見れないだなんて可哀想に」

    「アリア、ジェミニ」

    「うるさいな今僕たちが話して」
    「そうよ、雪。貴方は口を挟まな」

    「静かにしようか、返事は?」

    優しげに問いかける狐雪だったが、その目は全く笑っていなかった。
    その目を見た瞬間、ふたりは一気に凍りついた。

    「!……………チッ」
    「!…ええ…………」

    「璃瑞にもごめんなさい出来る?ずっと止めてくれてたのにふたりが無視するから悲しんでる」
    「………アイツが話してたから」
    「無視してしまってごめんなさい璃瑞…」
    「あっううん、大丈夫だよ!でもふたりがずっとこのまま険悪だと嫌だからふたりもごめんてしようよ…!ね!」

    「血ぃ登りすぎて言い過ぎたかも、って………思ってはいる」
    「私の方こそ…らしくなかったわ」

    「原因は分からないんだし誰のせいでもないってことは分かるよね。言い争って何になるの」
    「う……そうね、」
    「謝っただろ…」
    「フフフ、まぁまぁ狐雪。彼らも互いに謝罪し合えたんだから。許してあげて」
    「そうしようかな。ふたりとも仲直り出来たみたいだから約束通りご飯食べに行こう。皆で」
    「やった〜!!楽しみだね!」
    「腹減ったっつうの」
    「ええ、全くね」
    「誰かさんたちが話を聞いてくれてたらもっと早くご飯食べれてたよ」

    高級車で街を駆ける
    レトロな音楽が車内に鳴り響く
    街がライトアップされていて心温まるのが分かる
    車のエンジンをかける音が、街の風景が音楽が、何気ない一つひとつがいつもとは違って見えた、気がする


    店にある食べ物をジェミニと狐雪のほぼふたりで平らげ、店長らしきひとがもう辞めてください…勘弁してくださいと泣きながら懇願しに来たのはまた別の話で。
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