無題「は!?お前ふざけんなっ」
人もまばらな駅のホームで思わず素っ頓狂な声をだしてしまった。ちょうど電車を降りたその時我が愚妹から電話がきた。久方ぶりの帰郷だというのに俺は怒りで胃の中がふつふつと煮えたぎるのがわかった。
まばらとは言っても同じようにホームに降りた乗客がちらちらとこちらを窺っている。
『だっておにーちゃんこうでもしないと会ってくんないでしょ!?』
「誰が会うかお前の彼氏なんかと!」
バーカバーカ!とアラサーとは思えない悪口を連発していると、呆れた弥生に後ろから肩を叩かれた。
「落ち着け、言い過ぎだ。色々と」
「……とりあえず!俺が行くまでにそいつ帰らせとけ!」
苛立たしく舌打ちをして通話を切ると、弥生がじっとこちらを見ていた。
「何だよ?」
「いや、お前らは似てるな。さすが兄妹だ」
こんな低レベルの喧嘩でそれを言われても。何も言えず黙った俺を置いて弥生はホームの階段を先に登っていった。
久しぶりの帰郷だった。
妹の茜に「たまには帰ってきてよぉ〜」なんてかわいこぶりっこされて、いい気になった俺は半年ぶりに実家へ帰ってきた。そのぶりっこの理由も今思えば腹がたつ。
駅から歩いて15分。今は茜がひとりで住んでいるこの家を目の前にすると、なんだか随分離れてしまったんだなと思う。
玄関の戸を開けると男物の靴を発見した。見るからに嫌な顔をしたんだろう俺のとなりで弥生は
「いるな」
と一言だけ言った。
ただいま、と言う気も起きなくて靴を脱いで居間へ向かう。ぎしぎしと音を立てる廊下の音を聞きながらなんだか家の中までぴんと張り詰めてる気がした。
「おかえり」
こちらも見ずにこたつに座った茜が言う。さっきの電話をまだ引きずっているというのはすぐに分かった。
その隣には茜の彼氏、と思われる奴が座っていた。何分か前に俺と茜の言い合いを聞いていたのかは知らないが、奴はそこにいるのが自然とでもいうように座っている。くそムカつく。
「はじめまして、聡さん」
「……」
「聡、あいさつくらいはしろ」
弥生は俺のかーちゃんみたいな事を言って、茜の彼氏にどうも、と挨拶する。
「ドーモ」
俺も続けた。しょうがなく。
弥生と俺が座ると小さい炬燵は大人4人でぎゅうぎゅうになった。