おかえり 海を初めて見た時のことを覚えていない。
いつからか海というものは当たり前に地球を侵食しているものだという認識はあったし、この星が青いということも知っている。でも、そういった知識のきっかけを思い出せない。なんだったか。夕陽が燃えよるようで、海のくせに赤いじゃないか、と思った記憶がある。焼き尽くされる水平線の向こうに太陽が沈むと、辺りが途端に真っ暗になった。それが妙に切なかった。
らーめん屋かチビの家に勝手に寝泊まりをして、朝になったら適当に出て行く、を繰り返していた。それに慣れきった二人は、今じゃ何も言わずに寝床を与えてくる。夕飯も勝手に出てくる。なんとも力の抜ける。コイツらは泥など食ったことはないのだろう。草むらの夜露の冷たさを知らないのだろう。こんな話はわざわざしないから、オレ様がそれらを知っていることもコイツらは知らない。
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