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    31415abemochi

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    幻覚に幻覚を重ねすぎてる年の差ogtm その4
    無駄に長め

    #ogtm

    オグリ(概念17~18)×タマおねえちゃん(概念23~24)その4その後話題はタマモのドリーム・トロフィーリーグの話とシチーの仕事の話に移り、タマモが変に焦ることはなかった。別れ際、シチーが念押ししてきたことをのぞいて。
    「あの、タマモ先輩。無理して欲しいわけじゃないんですけど、できたら考えといて欲しいんです。さっきのお願い」
    「いや、だから行けたら行くって」
    「9割行かないのはわかってます。でも、アタシ賭けますよ。残りの1割」
     そこまで本気になるほどのことでもないだろうに、今日のシチーは嫌に真剣だった。単なる合コンの人数合わせのお願いのはずなのに。

     よほど断り切れない相手が主催であるのか、それとも現状を心配されているのか。後者であるならたとえ冗談であっても自虐を言うのは考えものだとタマモは思った。

     後輩に人間関係の向き合い方を心配されるなんて火を吹くように恥ずかしい。相手に失礼なことを言われるぐらいなら、心配されるぐらいなら、先回りして冗談に変えてしまおうとする癖がどうにも抜けない。

    「……わかった。ほなまぁ、ちょっと家帰ってから予定確認するから」

     結局、断り切れなかった。シチーは満足そうに頷き、また夕方から仕事が入っていると言って、タマモにさっと手を振ってから、颯爽と風を切るように人混みに消えていった。細くて高いヒールがもとよりとんでもなく長いシチーの股下を、より一層すらりと見せている。
     自分の足元を見直すと、アウトレットで買った安物のぺったんこのスニーカーが目の端に映る。ウイニングライブと冠婚葬祭以外でヒールのある靴なんて履いたことがない。駅のホームで電車のガラスに反射する自分は、ひどく子どもに見えた。

     携帯の電源を入れ直すと、シチーからいつまでに返事が欲しいか連絡が入っていた。
     たぶんどこの世界行ってもシチーは仕事出来るんやろうな。わかった、と返事を返しながら、そんなことを思った。

     幸いトゥインクル・シリーズの結果が評価され、ドリーム・トロフィーリーグに移籍してからの成績も上々である。けれども自分と似た世代のウマ娘たちが少しずつターフから去って、指導者やまた別の道を歩み始めるなか、自分がどうしたいのかまだわからない。
     体質の弱い己がここまで走り続けられたこと自体が奇跡のようなものだから、それにあやかって限界までレースの世界に身を置いていたいとは思っている。レースの事を考えると、まだ体の芯が電気を帯びたみたいにピリピリして、衝動が抑えきれなくなる。引退するのはまだまだ先で良いと、自他共に思っている。
     けれども、別の世界で折り合いをつけて生きているシチーや仲間たちを見ていると、自分は別の世界で生きていけるだろうか。家族のためにレースの道を選んだのは、自分の長所が脚の速さしかなかったのもあるが、その方が自分を偽らずに生きていけると思ったからだ。

     理不尽なことに頭を下げ、興味のない誘いも参加して、いつも笑顔でいる。
     他の道に進んで、自分もそういられるだろうか。今日のシチーのように。
     昔も今も、しっかりしているとよく言われた。自分でもそう考えていたし、家族のことを思うと、タマモはいつでも早く大人になりたかった。自立して、お金を稼いで、誰にも迷惑をかけない。しかしいざ本当に大人扱いされる年齢になり、自身で金を稼ぎ実家に仕送りをして、一人暮らしを成立させてている今となると、足りないところばかりが目に付く。理由はわかっている。
     本当の自分は、誰よりも臆病だ。

     最寄り駅の改札を出るとひんやりした風が頬に染みた。季節はもう秋の暮れだ。冬になるとまたWDTリーグが始まる。そろそろレースに向けて体を作りこまなければいけない。
     駅からアパートまで歩くだけで冷え始める指先にふっと息を吹きかけながら、先ほどのことは記憶の隅にとどめておくだけに決めた。

    「なんや、えらい疲れたわぁ」
     ひとりごちながらアパートの錆びた外階段を登ると、見慣れた葦毛のウマ娘がじっと自分の玄関先に座り込んでいた。オグリだった。
     今日はオフなのか制服姿で、長い手足を上手いこと折りたたんで体育座りをしている。短いスカートでコンクリートの廊下に座り込むのは、さぞ冷たいことだろうに。思わずタマモがぽかんとすると、階段を登りきる音に気付いてかオグリが顔を上げ、小さく「あ」と声を漏らした。

    「……携帯は」
    「え……、うん。ちゃんと持ってきているぞ」
     オグリが立ち上がってカーディガンのポケットをごそごぞと探り、携帯を取り出して見せる。
    「ちゃう、連絡せぇって話や。……どんくらい待ってたんや」
    「たぶん、そんなには待ってない」
    「たぶんて」
    「……待っていたら、時間を忘れてしまった」
     普段ならば勢いよくなんでやねん!とツッコミを入れるところだ。でも今日はそんな気分も失せていた。彼女のことだから、きっとこれは本当のことなのだろう。
     飼い犬にずっと待たれている飼い主は、いつもこんな気持ちなのだろうか。いざ彼女の行動の真意を知っている身となると、オグリの言葉がいちいちくすぐったい。
    「……豚肉ともやし蒸してポン酢つけるやつしかできへんで」

     ドアノブの鍵を外して上がるように促す。オグリの耳がピンと張り、尻尾が揺れているのが見える。なんやねん、これぐらいのことで。とは言えなかった。
     部屋に上げて茶を入れてやり、腕まくりをして台所で料理をする間中、胸の奥がざわざわとしていた。ただ、部屋に人がいる気配はなんだか気分が良かった。テレビをつけっぱなしにするよりは、ずっと。

     大皿いっぱいの豚もやしと丼いっぱいの白米を持って部屋に戻ると、オグリはテレビをつけるでもなく、静かにコタツ机に向かっていた。覗き込んでみれば、教科書とノートを開けている。
    「勉強しとるんか?」
    「テストが近いからな。最近、宿題が多くて」

     トレセン学園にいた頃の自身の記憶を辿ってみるが、どうも勉強に関することはもはや薄ぼんやりとしていて、あまり思い出せない。テスト勉強しているような年下に迫られて上手く対処できないウチは一体なんやねん。ため息をつきそうになる心を必死に抑え、テーブルを片すように伝えた。

    「どや。言うて蒸しただけやけどな」
    「うん。美味しい。このポン酢が特にいい」
    「せやろ。ウチの地元では有名なポン酢や。もうこれ以外考えられへん」
     雑な料理をオグリは丁寧に口に運び、タマモも会話の合間に小皿を持ってきてオグリと一緒に大皿をつついた。シチーには悪いが、サラダとパンとスープでお札が飛ぶ洒落たカフェのランチより、こっちの方が数倍美味しく感じるから不思議な話だ。

     オグリが丼を食べ終わると同時におかわりをよそってやろうと思って立ち上がる。どうせいつくるかわからんしと考えて、最近常に米は炊飯器容量一杯に炊くようにしていた。しかしオグリが置いた丼を手に取ろうとすると、彼女はタマモの手をとどめて、ゆっくりと首を振った。

    「もうええんか?まだ米あんで」
    「ありがとう。もう大丈夫だ。ごちそうさま」
     オグリがおかわりをしないとは。嘘やん。明日ヤリでも人参でも降るんちゃうか。訝しげに頷きながらもちゃっかり食後のコーヒーは飲むと言うので、タマモは食器を片付けるついでに台所に戻る。
     トレセン学園で先に何か食べてきたのか、それとも吹きさらしの廊下で待っている間、お菓子でもつまんでいたのか。いや、それで食べられなくなるような普通の胃袋の持ち主ではないはずだ。
     はじめて出会った頃も、再会して世話を焼くようになってからも、彼女の食欲はタマモの想像を軽く超えている。だとしたら、本当に食欲がないのかもしれない。あくまで彼女にしては。

     まさか恋煩い。ケトルで湯が沸くのを待ちながらあれこれ考えた最中、またしてもボケた発想が脳裏に浮かび、ぐつぐつケトルが音を立てる中、タマモは勢いよく首を振った。
     大きなバウムクーヘンほぼワンホールを平気で完食したオグリだ。あんなことが、あった日でも。無意識に、額を押さえていた。ちょうど、オグリの唇が触れたところ。
     オグリは、まだ子どもだ。でも、子どもに振り回されて、おかわりをしない原因すら聞けない自分は、一体なんだと言うのだろう。

     安物のインスタントコーヒーを入れて部屋に戻った。いつも以上にオグリに手渡したマグカップにはコーヒーがなみなみと注がれている。無意識にコーヒーぐらいは飲んで欲しいと思ったのかもしれない。
     いつもの調子でテレビをつけ、チャンネルをあれこれ切り替えてみたものの特にめぼしいものは見つからない。話題の切り口をタマモが探していると、オグリはレースを見たいと言いだした。

    「レース?ええけど、何見るんや?」
    「タマのレースが見たい」
    「ウチの?前に何回も見たやろ」
    「うん。でも今見たい」
     オグリがトレセン学園に来たばかりのころ、タマモはよくトゥインクル・シリーズの映像を彼女に見せたものだった。勝ちきれなかったキャリア前半のレースは脇にのけ、連勝街道を突き進んでいた無敵のイナズマであった頃のレースばかりを。
     見てみぃ、アンタもウチみたいになるんやで。そう言って先輩風を吹かしながら。

     今考える思い出すのも恥ずかしい話だ。めっちゃイキッてるやんけ、この調子乗り。自分が見せられる立場ならそう思っても不思議ではない。それでもオグリは毎回興味深げに画面をじっと見つめ、子どものようなまなざしとは打って変わって、核心をついた感想を教えてくれた。
     それが嬉しかったのかもしれない。単に慕って懐いてくれるだけではなくて、レースとなると対等に物言いができる彼女が。

    「そうか、アンタがええんやったら。……ほなまぁ久々に白い稲妻直々にレース見せたろか!」
     テレビと携帯をつなぐケーブルなんて上等なものは持っていない。携帯を取り出して、オグリのそばに寄った。小さい画面を二人して覗き込もうとするにはピッタリ隣り合わせにならなければならない。肩が触れた瞬間、タマモははっとしてオグリの様子を伺ったが、オグリは横顔から伸びた長いまつ毛を瞬かせるばかりで、動揺の影は微塵も見えなかった。

     自分から言うてきたくせに。不満が心をもたげてきたが、じゃあ頬を染めて俯いてほしいかと言われればそれも違う気がして、触れ合った肩先がそわそわしたままなのを隠しながら、タマモは動画を探した。昼間やらかしたブラウザのアプリは決して触らないように注意しながら。

     鳴尾記念、金杯、阪神大賞典。見るレースはお決まりの、タマモクロスの怒涛の連勝街道だ。何度も見たはずのそれを、オグリは真剣そのものの、まるでその場にいるかのような新鮮さで見つめた。天皇賞春、宝塚記念、天皇賞秋。
    「……やっぱり、タマは凄いな」
     ちょうど、レースがジャパンカップに切り替わるときだった。相変わらず真剣に小さな画面を見続けるオグリの横顔に、ふっと長いまつ毛が影を落とした。そしてタマモは、オグリがタマモのレースを通して、別の何かと向き合っていることに気が付いた。
    「……この前のレース、惜しかったな」
    「……うん」
     トゥインクル・シリーズの一大スター、オグリキャップに囁かれている言葉を、タマモも知らないわけがなかった。天皇賞秋、ジャパンカップ。彼女はどちらも掲示板に残ることすらできなかった。怪物伝説の終わり。レースでの覇気が失われた。もっともらしい言葉を、ファンやメディアは書きたてる。
    「一緒に走ってみたかったな」
    「こら、ウチかてまだ現役バリバリに走っとるわ!勝手に引退させんな!」
    「いや、それはわかっているが……。この時のタマと走っていたら、どうなっていたか、すこし気になっただけなんだ」
    「なんや今のウチがまるで衰えたみたいに言いよって」
    「違う、そうじゃない、なんだか……上手く説明できないんだが。このレースのタマを見ていると、走りたくなるんだ。すごく」
     オグリはそれから口を閉じ、中断していた再生ボタンを勝手に押してしまった。もうタマモはレースを見ていなかった。レースを眺める、オグリのまなざしから視線を動かせなかった。

     走りたい、勝ちたい。ウマ娘の根源的な渇望が、オグリのまなざしから、タマモの体に注がれているような気持だった。体の芯がピリピリと熱くなって、いてもたってもいられなくなる。
     オグリの闘志は決して消えてはいない。同じウマ娘として、痛いぐらいにわかる。闘志が己の肉体と伴うかはまた別の話ということもタマモにはわかっていた。けれども、心の奥底から、いまだ燃え続けるウマ娘の本能が叫んでいる。
     追ってこい、追ってこい、追ってこいと。

     気付けば、外は薄暗くなっていた。すべてのレースを見終わると、部屋は急に静かになった。いつの間にか放置されてしまったコーヒーからは、とっくに湯気が失われている。
    コーヒーを一気に飲み干し、オグリが立ち上がる。

    「長居してしまったな、ありがとう。もう帰ることにする」
    「……おう。次こそは、ちゃんと先に連絡せえ」
    「わかった。頑張る」

     連絡を頑張るとは何なのか。すっかりいつものとぼけた調子に戻ってしまったオグリに、かける言葉が見つからない。玄関を開けてやると、袖口に冷えた空気がしみ込んだ。もういくつも寝ない間に、世界は冬に移り変わるだろう。

    「気ぃつけてな。……あ」

     声をかけたとたん、オグリの胸元のリボンが少し曲がっているのが目に付いた。あとはもう走って帰るだけなのだから、そこまで気にする必要もないだろう。それでも、いつもの調子でちょっとだけリボンを直してやった。妹にしてやるのと、何が違うのか。己に自問しながら。

    「よっしゃ、これでええやろ」
     オグリは黙ってされるがままになっていたが、タマモが指先を離そうとすると、そっとその手を掴んだ。まるで名残を惜しむかのように。

     今日は、いままでそんなそぶり一度もなかったくせに。オグリがタマモのマニキュアすら塗られていない爪先をそっと撫でる。息が詰まって、声が出ない。

     おやすみ、その挨拶に返事が出来なかった。いつの間にかオグリは傍から離れて階段を下りており、タマモは慌ててベランダに走って、オグリが背中を向けて駆け足で去っていくのを見つめていた。薄暗がりに、彼女の芦毛が映えていた。

     やがて彼女の姿が見えなくなると、タマモはベランダに干しっぱなしのスポーツタオルをはぎ取って、部屋に戻り、走る準備をした。いてもたってもいられなかった。
     爪にも体温があるのだろうか。すっかり日が落ちた街中を走り抜けながら、そんなことを思った。
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