二宮隊の訓練室にはB級以上のシューター、総勢七名がが勢揃いしていた。A級一位の部隊に所属する出水から、A級を目指し破竹の勢いでB級ランク戦を破竹の勢いで勝ち上がっている今注目されている部隊の三雲まで、見る人が見たら目を丸くするような錚々たる顔ぶれだ。
出水と二宮、加古と二宮、蔵内と水上、といったように師弟関係や同年代という、シューター同士ということ以外にも関係がある人たちは、個人と個人では顔を何度も合わせている。しかしこうして全員が一堂に介するということは、これまで一度も無かったと言えるかもしれない。
七人が集まって訓練をしているかというと、そういうわけでも無かった。何をしているかと言うと、言い争いをしている加古と二宮を、他の四人が傍観していた。那須は加古に連れられここに来た時から、加古に腕を組まれていて、なす術なく二人の論争に巻き込まれている。
「俺はお前を呼んだ覚えはない」
「あら奇遇ね。私も貴方に呼ばれた覚えはないわ」
「ならなんでここに来た? 俺も水上も誰かに言った覚えはねぇぞ」
「双葉が貴方たちの話を聞いていて私に教えてくれたのよ。楽しそうと思ってきちゃったの」
「那須を無理矢理連れてか?」
「無理矢理? 人聞きの悪いこと言うわね。無理矢理なんかじゃないわ。ちゃんと同意の上よ。ね、那須ちゃん」
加古は、自分と二宮とのやり取りを困ったような笑いを浮かべ黙って見守っていた那須に、話を振る。突然話を振られた那須は虚をつかれ目を少し見開いたが、すぐに平生を取り戻し口を開いた。
「はい。シューターで集まりがあると加古さんに聞いて、私も参加したいな、と思ってついて来させてもらいました。お邪魔でしたらすぐに出て行きますけど……」
「那須ちゃんに気を使わせて何様かしら? 二宮くんは」
「……那須がいるのは構わない。だがお前がいるのは気に食わないな」
「あら私もよ。二宮くん抜きでシューターの子たちとお話しできたらいいなって思っていたところなの」
一触即発。何かしらの契機が有れば、加古と二宮の手元に、それぞれ三角錐と丸の弾が浮かび、それらは目の前の相手に向かって飛んでいくことだろう。
那須はそれを分かっているだろうに、さっきまでの困ったような笑みから一変、楽しそうに目を輝かせ二人のやりとりを見ている。出水の陰に隠れているが、那須も十分弾バカと呼ばれるに相応しい素質を持っている。シューターとしての大先輩とも言える二人が、目の前で戦おうとしているのに、好奇心が隠せていないのだろう。おそらくあわよくば混ざりたいとも思っている。
「ほら出水。お前が止めんから加古さんと二宮さんが喧嘩始めてもうたやん」
床にあぐらをかき、座り込んでいた水上が、同じように隣に座る出水の二の腕辺りを小突く。シューター同士として顔を合わせたことはないが、学校で何度も顔を合わせたことがあるので、二人の間に気まずさというものは無い。
「えー、おれのせいっすか? そんなに言うなら水上先輩が止めに行ったら良かったじゃないっすか。てかこの会始まったのも水上先輩が二宮さん誘ったからなんでしょ? なら主催者が止めるべきだと思うんすよね」
「アホ。俺があの二人の間入ってて止められるわけないやろ。それにさっきそこであってなし崩しで一緒に訓練することになった俺より、二宮さんの師匠のお前の方が止められるに決まっとるやん」
「いや師匠ってだけで二宮さんがおれの言うこと全部聞くわけないでしょ」
「お前たちまで小競り合いを始めてどうするんだ?」
出水と水上の終わりのなさそうなやり取りに口を挟んだのは、床に座り込むことも壁に背中を預けることもなく、直立していた蔵内だった。
「ほな蔵っち止めてきてやー。生徒会長の手腕見せてほしーわ」
「生徒会長は関係ないだろ。口の上手さなら水上の方が上だから、俺も水上が行くべきだと思うな」
「ほらー、蔵内先輩もこう言ってますから早く水上先輩止めてきてくださいよ」
「いややー。俺あの二人の間に入るのいややもん」
出水に肩を揺さぶられるものの、されるがままで上体をぐらつかせていた水上の目に、蔵内の隣に立つ冷や汗をかいた一人のシューターが目に入る。
「ほな三雲止め……んくてもええからなんか案だし」
「えっ!? ……なんとかしてみます」
三雲は冷や汗をかいたまま、考え込むように顎に手を当て顔を少し下に向ける。そして一分と経たずに三雲は顔を上げ、一つの案を示した。
「突然の攻撃には反応せざるを得ないと思うので、誰かが攻撃してみたらどうでしょうか。言い争いは止まると思いますし、こちらの話も聞いてくれるのではないでしょうか」
「ええやん、それでいこか。じゃあ誰が攻撃するかやな。俺と三雲はトリオン少ないから攻撃してもさして意味ないし論外やろ。蔵っちか出水やりや」
「俺は出水がいいと思うな。俺よりトリオン量が多いし、攻撃のスピードも早い」
「えー、結局おれっすか……」
出水は肩を落としつつも、やる気はあるようでその場から立ち上がった。
出水が両手のひらの下に向けるとキィィィンと大きな豆腐のような塊が出来上がる。アステロイド、と呟くとキン、と音を立てて、大きな立方体が細やかな立方体の集まりに変わる。そして数秒と置かずして、その小さな立方体は未だに言い争いを続ける加古と二宮、それを見守る那須に向かって真っ直ぐに飛んでいった。三人から外れて壁にも被弾したために、白い煙が上がり、三人の姿を覆い隠した。
「相変わらずエグい火力やな」
「おれより二宮さんとか玉駒の雨取ちゃん方がエグいっすよ」
「俺らみたいなトリオン弱者からしたらお前らみぃんな一緒やで。なぁ、三雲」
「はい。とは言ってもうちの千佳は桁違いみたいなところがありますけど……」
そんな会話をしている内に、煙が晴れ、三人の姿が現れる。三人は各々シールドを貼ったようで、三人とも体に欠けた部分は無かった。三雲の狙い通り、加古と二宮は言い争いをやめて、那須を含めて三人揃って四人のいる方を向いている。