アリアドネの糸 夢を見た。
大好きな貴方が、私の知らない人と手を繋いでいる夢。
私の存在になんて気付きもしないで、いつもは私にくれる筈の柔らかい視線を、隣の誰かに惜しげも無く注いでいる。
その場所には私が居るはずなのに、どうして?その人は誰?私はもう要らないの?
声にならない声が、虚しく唇を震わせる。
手も声も届かない。
悲しさ、悔しさ、嫉妬。
そんな苦いだけで、全然美味しくない感情が、目元から溢れて、幾つもの跡を残す。
そっと、誰かに頬に触れられる感触。
その感触はアリアドネの糸のように、私を悪夢の出口へ導く。
目を開けると、心配そうに私を覗き込む青があった。
枕に大きな染みが出来て、触れていた所がひんやりと冷やされている。
「…悪夢でも見たかい?」
赤子をあやす様に頬を撫で、指で雫を掬いながらそう問う貴方。
あれは夢だったんだ。確かに触れられているその感触に、胸のモヤモヤが不思議なくらい、呆気なく晴れていく。
その視線の柔らかさは、きっと私だけのもの。