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    nekoruru_haya

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    nekoruru_haya

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    【くわまつとヒール】
    本丸の作りは弊本丸参照、ちらっと一瞬だけ審神者も出ます。

    ##くわまつ

    「郷義弘が作刀、名物、松井江。歌って踊るよりは流し流されの方が得意かな。何をって? ……フ、血に決まってるだろう?」
    鍛刀部屋で薄桃色の花びらを手に受けながら、僕は顕現の口上を述べた。血に塗れた僕だというのに舞う花弁は真っ赤ではないらしい。
    「久し振り、松井」
    僕を喚んだ審神者の横に立つ刀剣男士が僕の名を呼ぶ。
    聞いた事がない筈なのに聞き覚えのある声。
    見た事がない筈なのによく見知った姿。
    「桑名?」
    「うん、そうだよぉ」
    目の前の男士の体躯を頭の先から足の先まで眺め、へえ、桑名って人の身を得るとこんな風なんだ、などと独り言ちる。不思議そうに小首を傾げた桑名に対して、なんだか胸の辺りがふわりとした。
    では松井江を頼みます、そう云って審神者が退出し、鍛刀の為に充満していた神気のような張り詰めた空気が一掃され、部屋の中は穏やかな雰囲気に包まれる。
    「じゃあ、行こうか」
    「血を流しにかい?」
    「着替えに、だよぉ」
    「着替え?」
    改めて自分の姿形を見渡した。とは云え、両手を開いたり腰を捻って背中側を振り返ったりしてみても、いまいち自身の様子が把握出来ない。
    「顕現された時はみんな、戦装束を着てるよ。僕が今着てるのも、そう」
    「血を流す為に顕現したのだから、戦装束のままで良いのでは?」
    「戦以外もしなくちゃいけない事はあるよ。まず松井は人の躯に慣れるところからだね」
    ふうん、と適当に相槌を打ち、鍛刀部屋を出る桑名の後ろについて本丸の中を歩き始めた。
    三和土を踏んで、庭へと出る。硬い土や軟らかい土、砂利の感触が履き物の底から足の裏に伝わってきた。
    「……平気、なんだね」
    先を歩いている桑名が振り返って僕に訊ねる。前髪で隠れていて定かではないが、一瞬視線が下を向いた気がした。
    「何が?」
    釣られて僕も足元を見る。特に変わったものはないように思えた。
    「ううん。別に」
    「変な桑名」
    「そういう風に顕現したのだから平気なんだろうねえ。あ、ここだよぉ」
    鍛刀部屋や母屋が見渡せる場所にある小さな離れ。桑名が先立って沓脱石で履き物を脱ぎ、縁側へと上がった。
    「ちゃんとした入口はあっちにあるけれど、僕は大概ここから上がっちゃうかな」
    畑がこの先だからここの方が便利なんだよねえ、とその畑が在る方を見やり、それから僕を手招きする。
    「後で畑も案内するよ」
    「……畑には用事は無いかな」
    「そんな事云ってられないからね。当番だってあるし」
    戦う為に顕現したのに畑当番とは一体どういう事なんだろうか。首を捻りながら縁側の端へと腰掛け、履き物に手を掛ける。桑名は沓脱石の上でするりと履き物を脱いでいたが、僕の靴はどうやらそういう訳にはいかないようだった。
    脱いだ靴を桑名のものの横に並べる。色や形だけじゃなくて大きさもかなり違う。
    「はい」
    まじまじと見比べていた僕の目の前に桑名の手が差し出された。広げられた手のひらと桑名の顔を交互に見て、それからそっとその手の上に僕の手を乗せる。ぎゅっと握られた手は何故がとてもあたたかい。
    「松井の手は冷たいねえ」
    「桑名が熱いだけじゃないか」
    「そうかなあ。まあ、とにかく早く立って。着替えるよ」
    「ああ」
    握った手で引き上げられて立ち上がる。正面、少し上に桑名の顔。
    「?」
    おや?
    何かが違う。
    さっきまで桑名の視線は真っ直ぐに僕に向かっていたし、僕は桑名の前髪に隠れた目を真っ直ぐに見れていた筈だ。いや、もしかしたら見れてなかったのか?
    「どうしたの?」
    「いや、え、ちょっと……」
    思わず視線を逸らして顔を背けてしまった。
    「僕の身体、どこかおかしくないか?」
    「おかしくないと思うけど……鏡、見る?」
    桑名はいきなり僕の背後に回り、肩を押しながら部屋の中へと押し進む。奥の物入れの前の大きな姿見の向かいへと立たされた。
    「え……」
    鏡の中には細く華奢な体躯の僕と、僕より少し背の高い桑名の像が写っている。
    「さっきまで少なくとも背の高さは変わらなかったのに」
    「背?」
    僕の小さな声を拾って桑名が首を傾げた。そして「ああ!」と一人納得して縁側へ出ると、沓脱石の上に置かれた僕の靴を掲げた。
    「この踵、ひーるって云うらしいんだけれど、これの所為じゃない?」
    確かに僕の靴の踵は細く高くなっていて、桑名の靴にはそれが無い。
    あたらめて鏡を覗き込む。桑名と鏡の中の僕とではどこもかしこも全然違った。
    「なんか、狡い」
    「なんか云った?」
    「なんでもない」
    口惜しいからずっとひーるの靴を履いていたいけど、そういう訳にはいかないんだろうか。


    ‥了
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    nekoruru_haya

    PROGRESSくわまつですが書き手以外誰も幸せにならない予定のお話の下書きというか荒書き。ちゃんとしてから後日支部に上げます。
    完結に向けてぼちぼち追記していきますので現状は途中経過の進捗見て見て構ってちゃんなので注意。
    .5や独自設定盛り込んでます。
    biotope歴史は大河の流れのようなもの。
    何れかのサーバーの何某という本丸の誰彼という刀剣男士がそう例えたと云う。果たして事実、そうなのだろう。世界が始まり時間が動き出したのを起点に歴史は流れ始め、時の政府が管理している現時点まで一筋の大きな河として流れ着き、この先へと恐らくは流れ続けていく。歴史の流れは大きく緩やかであった為、その道筋は逸れる事もましてや氾濫する事もなく、ただ過去から現在、そして未来へと流れていくものと思われていた。
    その時、までは。
    ある時、後に歴史修正主義者と呼ばれる未知の存在が現れた。彼等は過去から未来へと流れるだけだった時間を遡り、歴史という過去に起こった事実の改変を開始する。それは水面に小石を投げ入れて波紋を浮かべる程度で済むものから、巨大な岩で流れを堰止め、流れる方向自体を変えてしまうような改変となった。波紋程度であれば歴史という事実認識の強固さ故、自浄作用が働き、大勢に影響はない。だが、流れる方向が変わってしまえば今日までの道筋が違えてしまう。
    2031