子供×大人パロなココ日「ぼく、早く大人になりたい」
とは、赤ん坊の時から知っているココの言葉だ。まだ生まれてから5年しか経っていないと言うのに、ココはもう子供は嫌なのだと言う。
「どうして、大人になりたいんだ?」
と問えば、ココはその大きな瞳に涙を浮かべ、小さな顔をクシャっとし、
「だって、大人にならないと日天くんとけっこんできない!」
そう叫んでぐすぐすと泣きだした。元から大人しい性格ではあったが、泣き方も静かでしゃくりあげながらぽろぽろと雫を零す。
「あ~もう、泣くなよ」
言葉ではそう言いながらも、ココが可愛らしくてついつい笑ってしまう。自分の袖が汚れるのも気にせずに、ごしごしと顔を拭いてやる。
「そんなに俺と結婚したいのか?」
「っ……うん」
「そっか。じゃあ、ココが大人になるまで、待ってるな」
勿論、本気だとは思っていない。いや、今のココにとっては本気なのかもしれないが、ココはまだ小さいのだ。結婚の意味も理解していないだろうし、大きくなれば俺の事なんてきっと忘れてしまうだろう。ただ今は、この小さな子には笑っていて欲しいと思う。
「……本当?」
「あぁ、本当だ」
「絶対?」
「絶対だ」
瞳を瞬かせる度にまだ涙は零れるが、さっきみたいに洪水のような涙ではなくなっていた。今さっきまで泣いていた少年は、今度は笑顔を見せると日天くんだいすき!と言って俺の胸元に飛び込んできた。
と言うのが、ココが5歳、俺が15歳の時の話だ。ココとは互いの両親が親友同士で、近所に住んでいた為生まれてすぐに出会った。それから何度も会って遊ぶうちココは俺に懐くようになって、俺も弟が出来たみたいで嬉しかった。だから結婚したいと言われたときは、それくらい好きでいてくれるのだと凄く嬉しかった。
それから5年。俺は成人し、ココは10歳になった。この頃になると子供と言うのは少し見ない間にぐっと成長するもので、会うたびに身長が伸びているココに驚いたものだった。
「ただいまー」
今日も仕事で重くなった体を引きずって、住み慣れた我が家へ帰ってきた。奥からおかえりーと言う声と共においしそうな匂いが俺を迎え入れる。
「兄ちゃん、今日のごはん何?」
台所にいる兄の沙汰に話し掛け、キッチンに足を踏み入れる。エプロン姿の沙汰は、ガスコンロの上に置かれた鍋の中をお玉で混ぜながらニッと笑う。
「今日はシチューだ」
「やった、俺兄ちゃんが作るシチュー大好きだ」
鍋の中を覗き込みニコニコと嬉しそうに言う日天に、沙汰は苦笑を漏らす。
「市販のルー使っただけなんだから誰が作っても同じ味になると思うぞ」
「そうだけど…。良いんだよ、兄ちゃんが作ったって言うのが味噌なんだから」
「嬉しい事言ってくれるじゃないか」
わしょわしゃと日天の髪を撫でる大きな手に、日天はえへへと更に笑みが深くなった。昔から家にいる事の少なかった両親に変わり、家事をしてくれたのは沙汰だった。日天とココの遊び相手にもなってくれたので、日天は沙汰が大好きで大人になった今でも沙汰の前では子供っぽくなってしまう。
「……と、そうだった、そうだった。日天、ココが来てるぞ」