長夜の静寂「ん?」
ココが脱衣所から廊下に出ると、広間の奥から冷たい風が流れてきた。風呂で温まったばかりの身体に、冬の冷気が刺さる。
誰かが縁側の雨戸を開けたのだろうか。
「まったくもう……あ」
誰にしろこんな真冬の夜に戸を開けるなんて、とその誰かに文句を言いながら角を曲がる。
ココの予想通り雨戸は開いていた。予想外だったのは、そこにいた人物だった。
驚き足を一瞬止め、今度は静かにその人物に近付く。雨戸の外を眺めていた人物、日天はココがそばに来るのに気付かない。
日天の真後ろまで行くと、ココは目の前の身体を抱き締めた。
「寒くない?」
「わっ、……何だ、ココか」
ビックリしただろ、と軽く睨まれるが本気で怒っていないのは分かっている。
「ごめんね。何してるの?」
すっかり冷たくなっている日天の身体に、自分の体温を移すように密着させながら訪ねる。
日天も寒かったのか、ココの体温に擦り寄ってきた。
「雪を見てたんだ」
「雪? ……本当だ」
日天に言われ外を見ると、はらはらと白い雪が降っていた。どうりで寒いはずだ。庭に点々と置かれた灯りに照らされ、幻想的なその景色に思わず感嘆の声を漏らす。
「綺麗だね」
「だろ? 冬の夜ってさ、凄く静かで、その中で降る雪って何か良いよな」
静かに降り続ける雪を見上げ、日天が言う。確かに、夏や秋の夜に聞こえていた虫の声が今はしない。都会のような喧騒も無ければ、昼間の騒々しさも無い。ただただ無音で、まるで時が止まった世界で雪だけが降っている。
この世界には自分たちしかいない、そんな錯覚すら覚えてしまう。けれどもそこに恐怖は無く、空気は冷たいのに心は温まっていく。
愛しさが込み上げ、ココは冷たくなった日天の手を掴むと指先に口付けた。それを日天は擽ったそうにくすくすと笑う。しかし手を振り払う事はせず、掴まれた手を握り返す。
「明日、雪積もるかな?」
「どうだろうね」
「積もったら雪だるま作りたいな。雪合戦も。皆としたら楽しそうだ」
にこにこと楽しそうに話す日天に、ココも笑みを深める。
「じゃあ僕は、遊んだ後に温まる物を作ろうかな」
「良いな、それ。甘酒、甘酒が飲みたい!」