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    sarasara_twst

    トジェ短いの作品箱

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    新刊書き下ろし分のゴーストの子どもを面倒みることになったトレジェイのお話サンプルです。※魔法やゴースト、NRCに関しての拡大解釈あり。
    このあと大食堂で駄々こねる子どもの食事の面倒を見るジェにトレがご飯を食べさせてあげたりする光景があったりする。

    #トレジェイ
    Trey Clover/Jade Leech

    藍より青く青より碧く【サンプル】「週末、近くのマーケットに行かないか」

    そう誘ったのはトレイの方だった。月頭のマーケットは変り種の食材や様々な国から輸入してきた雑貨などが多く並び普段よりも目を見張るものがある。普段の店並びだけでも充分に面白いのにそれ以上に素材が溢れ出すのかと思うと珍しいもの好きのジェイドの胸も逸った。

    「トレイさん、僕あっちの雑貨の方も見てきていいですか?」
    「ああ、俺はもう少し食材見ていくから。そうだな……買い物が終わったらあの青いテントの店で待ち合わせにしよう」
    「承知しました。ついうっかり買いすぎないようにしてくださいね」
    「それはお互い様だろ?」
    「そうですね、では行ってきます」

    ジェイドが足を踏み入れた民芸品の雑貨が多く立ち並ぶエリアには異国のガラス細工や彫刻品、アクセサリーなども種類豊富に売られていて、その狭い道を歩いているだけで様々な国へ旅行をしているような気分になった。
    「(このガラス容器はテラリウム作りに使えるかもしれないですね)」
    値札を見ようと顔を上げるとお目当てのガラス容器の奥にひとつぽつん、と藍色の瓶のようなものがひっそり置かれているのが目に止まった。
    なんの変哲も無いはずなのに妙に心を奪われるそれは、古紙にぐるぐるに巻かれ、かろうじて先端で香水だかインク瓶のような形をしていることが判別できたが中身が入っているのか入ってないのかいまいちわからない。

    「あの、これは一体なんですか? 」
    「ああそれ、わかんないんだよ、家の倉庫にあったんだけど開けようと思っても開かないし……なんか気味悪くって売りにきたんだ」

    若い店主は手作りのガラス細工の中に混ぜれば誰か手に取ってもらえるかなと思い持ってきたらしいが、その狙い通りそのどこか異様な存在感を孕んだ香水瓶は変わりものを好むジェイドの手に取られることになった。

    「少し拝見しても?」
    「いいよ、なんなら持ってってくれても構わないし。このまま置いておいてもまた持って帰るだけになっちゃうからね」

    瓶を手に取り左右に振ってみるが特に液体が入っているような音はしないし、中身は何も入っていないのだろう。古紙を外して蓋をきゅぽん、と外したその時だった。

    バァンッ!!!!!
    爆発のような音がマーケットに響き、トレイもその方向を見る。確かあちらはさっき待ち合わせの場所にしようと言っていた青いテントの店あたりではないだろうか。手に持っていた野菜を戻すと人波を謝りながらかき分けて進む。

    「ジェイド」
    「トレイさん!」

    音は派手にあたり一帯に響いたはずなのに、爆発独特の焼け焦げた匂いも火薬の匂いもしない。だがまるで水蒸気のようなモヤに覆われてトレイにはジェイドの声しか聞こえなかった。
    二人がお互いに伸ばしてやっと掴んだ手はいつもの彼らのものに比べて幾分も小さく柔らかでそれはまるで……


    「「こ、こども……?」」


    ちょうどトレイとジェイドが手を伸ばした先にいたのは先ほどまでいなかったはずの子ども。2歳児くらいだろうか、あたりの光景に戸惑うようにきょろきょろと視線を彷徨わせている。迷子が突然現れてこのモヤの騒ぎに巻き込まれてしまったのだろうかと思ったのだが、目の前で全てを見ていた店主の言葉でそれが違うということに気づかされる。

    「そ、そこに何かいるのか……?」

    トレイとジェイドの間を指差す店主、それに対し隣の店の女店主は「何言ってんだい、何かあるよ! あんた幽霊の瓶詰めでも売ってたのかい」とまくしたてる。どうやら人によって全く目視できないもの、なんとなく存在を把握できるものがいるらしい。
    ただこんなにはっきりと姿形を認識できるのはこの場ではトレイとジェイドの2人だけだった。

    突如現れた子どもはジェイドの足にキュッとしがみついて、眠いのか顔をぐりぐりとこすりつけると唸りながらぐずりだす。お腹が空いているのか、眠いのか、はたまた突然放り出された世界に驚いているのか、子どもは次第にひっくひっく、としゃっくりをあげぎゃんぎゃんと声をあげて泣き始めた。

    「ぅ、ぐッ なんだこれ、ただの泣き声じゃ、ない」
    「超音波のような頭に響く感じ……ッ! なかなかに辛いですね……」

    その音波は姿の見えない者たちにも届いているようで皆一様になんだこの激しい耳鳴りはと耳を塞ぎ蹲る。早くこの子どもを泣き止ませなければならないが、いったいどうすれば……と考えあぐねていると、ジェイドは子どもを抱き上げて背中を叩きながら耳元で囁くように歌を歌った。

    「♪〜♪……Ninna nanna, o mio bimbo,un lieto sole sui verdi monti spande il suo calore ……」

    凪いだ海のように静かで陽の光のようにあたり一帯を包み込む丸みを帯びた柔らかな歌声は、耳を塞いで蹲っていた人々を立ち上がらせてしまうほどに澄んで響いた。超音波のような鳴き声で泣いていた子どもも徐々に力が抜けてきて、パチクリと大きな瞳を数回瞬きさせる。
    よかった、泣き止んだと安心したのも束の間。子どもはジェイドの胸元にすりより唸りながら言った。

    「ぅ〜……まま?」
    「「ママ!!!??」」

    思わず目を見開き口を開けたまま顔を見合わせてしまう。子どものゴーストがジェイドと母親と勘違いしているらしいが母親への未練ゆえに旅立てずにいるのだろうか。瓶を売っていた店主に聞くと瓶は彼が開けようとしても開かなかった代物らしく、どうやら魔力があるものにしか開封ができず魔力があるものにしか見えない存在らしい。

    「それならむしろここのいるより学園に帰ったほうが何か分かるかもしれないな」
    「確かにそうですね。学園長なら何かしらわかるかもしれませんし、文献も揃ってそうです」

    子どもの目線に合わせトレイが少し背を屈めると、しっかり目を合わせてくれる。さすが弟妹がいる兄なだけあって子どもの扱いには慣れているようだが、それはもしかすると単純にトレイ自身の兄妹うんぬんだけの話ではないからかもしれない。

    「これから俺たちとちょっとおでかけするけど大丈夫かな?」
    「う……ぁ」
    「どうした? お腹でも空いたか?」
    子どもはトレイの方に手を伸ばし言った。

    「ぱぱ、だっこ」
    「「パパ!!!」」

    *****

    市場の人には見えない子どもの存在だったがNRCの生徒にはっきりと視認できるようで、トレイとジェイドが外出から戻ってきたかと思えば見ず知らの子どもを抱っこしているものだから皆が二度見して振り返る。

    「(あれ、子ども? もしかして隠し子?)」
    「(二人が付き合ってるってのは知ってたけどまさかそこまで……)」
    「(噂によるともうご両親や親戚縁者に挨拶はリーチが一年の時に済ませてるらしいぜ)」

    待て、どこからそんな根も葉もない噂が生まれるんだ。だらだらと冷や汗を流しながら抱き上げている子どもの背をポンポンと撫でさすった。

    すぐさま事の伝達が施されて緊急の寮長会議が開かれたわけなのだが、一癖も二癖もある寮長たちの反応は様々だ。

    「あなたがママって……ふふっ」
    「アズール、僕がママで何か不満でも?」
    「まぁジェイドはフロイドのかーちゃんみたいな時あるしゴーストの気持ちもわかるかな〜。トレイがとーちゃんっていうのはもっと納得だぜ」
    「トレイがパパ……パパ」
    「リドル、繰り返さないでくれ」

    本気で心配する者、状況を楽しむ者、歓迎会を開こうとしている者……寮長会議に参加させられる羽目になった二人はこれで一体なんの解決ができるのだかとため息をつく。

    「やはり魔法士というのがこの子どもが見える条件なんですか?」
    「いやそうとも限らないらしい。ここに来る前に監督生のところにも寄ってきたが魔力ゼロの監督生にも子どもは視認できていた」
    「そもそもこの学園にはゴーストが当然のようにいるし……どちらかというと特殊なのは子どもの方じゃなくてこの学園の方なのかも?」

    寮長たちが学園長の方をみると彼は生徒たちが優秀な見解を述べて議論している状況ににっこりとしながら、その通りと両手を大きく広げた。

    「監督生くんだけでなくハロウィンの時にNRCにやってきた観光客の皆さんにもこの学園のゴーストは視認できていましたよね? そしてこの学園のゴーストたちは調理をしたりスマートフォンをいじったりもできる……それはこの学園内の霊子結晶が作用しているわけです」
    「学園内には高濃度の霊子結晶が満ちていてその空間にいるゴーストはより実体化されているに近いと言う事でしょうか?」
    「さすがローズハートくん満点の答えです。おそらく市場でこの子どもが視認できなかった人々もこの学園に来ればこの子の姿が見える事でしょう」
    「それにしても子どものゴーストを瓶詰めにして売っていたなんて嫌な話ね。見世物にでもするつもりだったのかしら」
    「瓶を売っていた若い男性は実家の倉庫にあったものを適当に売りにきたという様子だったので、可能性があるとすればその倉庫を管理していた彼の祖父や曽祖父に当たる人物でしょうか」

    その男性には小瓶について何かわかったことがあれば連絡してほしいと連絡先を渡してきたが、何かいい手がかりがつかめるかはわからない。
    それにしてもこの子どもを最終的にどうしたいかによってもこれからの自分たちの行動もだいぶ変わって来るだろう。

    「さて君達はこの子をどうしたいですか?」
    「え?」
    「再び封印するのであればそこまで労力はいらないかもしれませんよ。依り代さえ用意できれば」

    依り代、すなわちこの子どもが宿る事のできる物体を用意するということだ。この学園には絵画の中に宿るゴーストもいるわけで同じような条件で封印してあげれば一番いい。

    「この瓶を再び依り代に使うということはできないんですか?」
    「瓶は可哀想でしょう。ジェイド・リーチくんが見つけてきた時同様に会話もできず動きも封じられてしまうのですから、もう少しいい依り代を見つけてあげてください。できればこの子が満足いくような」
    「は……はぁ」
    「えっと、でもそれまでこの子は……?」
    「お前らが拾ってきたんだから責任持って面倒見りゃいいだろ」
    「それもそうね」
    「いやいやいや! それじゃ授業にならないだろう!」

    会議は踊る、されど進まず。正しく今のような状態を言うのだろう。
    あっちこっちから交わされる意見、時々上がる大きな声、トレイの腕の中でうとうとしかけていた子どもがまた先ほどのようにぐずりだし、二人がいけない、と思ったが時すでに遅し。大きな泣き声と高周波が会議室一帯を覆った。

    「ちょっと、なんなのこれ」
    「あ、頭が割れるようだ……ッ」

    皆が机に伏すように耳を塞ぐがこの閉ざされた空間で泣かれると市場よりも破壊力が大きい。

    「トレイさん、ちょっと失礼しますね」
    「あ、あぁ……」

    再びジェイドの元に移し、また優しく背中をぽんぽんと叩きながら子守唄を歌うと子どもは安心したようにすやすやと眠りについた。

    「驚いた……ジェイド、あんた……歌上手いのね」
    「歌はトレイさんの方がお上手かと思うのですが」
    「ジェイド、それわざとだな? わざと言ってるな?」
    「ジェイドの歌はなんていうか安心する歌だな。心が落ち着くっていうか、ここなら安心って思えるようなそんな感じだ」
    「どうもこの子は歌が好きなようです。引っ込み思案なのでまだあまり会話はできていないですが、パパママ以外にも言葉は喋れるようなので他に何が好きか探っていく必要がありそうですね。依り代の参考にもなりそうだ」

    学園で面倒を見ようにも度々こうなっては仕方がない、子どもはジェイドの歌でなら落ち着きを取り戻せるようだし基本はジェイドが面倒をみる、ただ周りは授業含めサポートをするように。そして全員の視線はトレイへと向く、まるで母親にワンオペさせる気かとでも言いたげな視線だ。

    「わかってるよ、俺ももちろん面倒をみる」
    「よろしくお願いしますね、パパ」
    「その呼び方はまだ待ってくれ」

    かくしてNRC生徒によるゴーストの育児生活が幕を開けるのであった。
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    藍より青く青より碧く【サンプル】「週末、近くのマーケットに行かないか」

    そう誘ったのはトレイの方だった。月頭のマーケットは変り種の食材や様々な国から輸入してきた雑貨などが多く並び普段よりも目を見張るものがある。普段の店並びだけでも充分に面白いのにそれ以上に素材が溢れ出すのかと思うと珍しいもの好きのジェイドの胸も逸った。

    「トレイさん、僕あっちの雑貨の方も見てきていいですか?」
    「ああ、俺はもう少し食材見ていくから。そうだな……買い物が終わったらあの青いテントの店で待ち合わせにしよう」
    「承知しました。ついうっかり買いすぎないようにしてくださいね」
    「それはお互い様だろ?」
    「そうですね、では行ってきます」

    ジェイドが足を踏み入れた民芸品の雑貨が多く立ち並ぶエリアには異国のガラス細工や彫刻品、アクセサリーなども種類豊富に売られていて、その狭い道を歩いているだけで様々な国へ旅行をしているような気分になった。
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    ふむ、とジェイドは思考を巡らせる。人間にはこの気温は寒いので、ベッドで寝る際には基本は布団をかけて寝るのだと陸に上がってからは学んだ。しかしどうしたものか、この恋人はそれでは足りないらしい。何か他に、この人を温められるもの…
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