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    apollo07222

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    apollo07222

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    🐺🦇だけど関係ないです。
    某ヘルシングの何かを目指した結果がこのザマです。
    #MZMart_B
    #MZMart_RG

    #MZMart_B
    #MZMart_RG

    銀は鉄屑『天におわす御父よ、我が魂の導きをお与えください。
     主よ、あなたの十字架の力で、このわが若き身を護り、悪霊の暗黒から我が心を解放してください。
     聖霊よ、あなたの聖なる光を照らし、我が手に力を与え、真実を示し、神の栄光を実現するための勇気を授けてください。
     聖母よ、あなたの慈愛によって、我が身と魂を包み、悪しき者の手から守ってください。
     天使たちよ、あなたがたの力を借りて、我が戦いを支え、悪魔のすべてのはたらきを打ち破り、神の勝利をもたらしてください。
     主よ、私はあなたのためにこの道を歩み、信じる心を持ち、真実と愛に導かれ、悪魔との戦いに身を投じます。
     祈りと信仰によって、我が魂は安らぎを得、あなたの栄光に向かって進みます。
     アーメン。』


    ○○○○


    「そういえばさあ、コーサカあの話知ってる?」
     ガヤガヤと賑わう天ぷらの旨い居酒屋で天開司と飯を食ってる中での何気ない会話でのことだった。
    「あの話?」
    「知らない?最近人外が対象の殺人事件が増えてるってやつ。」
    「え?初耳。怖すぎなんだけど。」
     本当に初耳だった。というのも俺のスケジュールがヤバいからだ。元から走っていた執筆業務と並行で楽曲制作が始まったために自宅で執筆の為缶詰、スタジオで動画収録、自宅で楽曲制作の為缶詰、スタジオで動画収録、以下略とかいう地獄の三角食べみたいな終わってるスケジュールで今ことが進んでいる。今日は執筆業務でゴールを決めれたので仮釈放の許可が下り、ちょうど時間があいていた司と天ぷらを食いに来たわけだ。おおよそ二週間ぶりの仕事以外で吸う娑婆の空気は美味かった。
     今突いてるアスパラの天ぷらはもっと美味い。キンキンに冷えたジョッキのビールがもっと美味く感じる。可哀想に、楽曲作成で煮詰まっているアンジョーは未だ収監されている。アスパラの写真を撮って送信したら恨み辛みがすぐ返ってきた。スマホ弄ってんじゃねえ、がんばれ。
    「なんかちょっと前から海外で起きてるらしくてさ、割と無差別臭いんだよな。イタリアあたりの教会の異教徒狩りが事件起こしてるらしいけど詳しくは知らん。」
    「物騒じゃん、日本に来てんの?」
    「いや〜俺のとこのリスナーが教えてくれたわけなんだけど。そのリスナーも海外ニュースで見た程度らしくてさ。」
    「あーね。」
    「それとおんなじかはわかんないけど、これとか。」
     司は春菊の天ぷらを美味そうにもぐもぐしながらスマホをこっちに向けてきた。
     美味そうだったので俺も店員に春菊の天ぷらとおかわりのビールを追加注文して空いたグラスと皿を下げてもらって、司のスマホの画面を見る。短いネットニュースだ、見出しには『吸血鬼母娘、襲われる。異教徒狩りの仕業か?』とある。なんの捻りもないネットニュースの見出しだ。
    「うわニュースになってんじゃん。」
    「なんか怖いな〜って思って調べたら出てきたんだよ。でもこれ週刊紙だから脚色多くてあんま信用ないな。」
    「実際にあった話なんかもわからんって感じ?」
    「この記事自体はな、でも吸血鬼の家に何者かが押し入って大怪我させたって事件は実際にあったみたいでさ、それが記事になってたのもあったわけよ。」
    「その、海外のもだけどさ、なんかアレしたとか?人襲ったりとか、人間社会のルール守んなかったので成敗されました〜的な?」
    「必殺仕事人的な?仕事人は無差別しないでしょ〜物騒だから気をつけろよ」
    「なんも俺悪い事してねえもん。ちゃんと納税してるし、着服してないし、品行方正な吸血鬼してます〜保健所怖いから狂犬病のワクチンも定期接種受けてるし〜」

     揚げたての春菊とビールが来た。白い衣がカラリと上がっていて、そこから透けて見える春菊の緑色が食欲を誘ってくる。コイツは塩だな。またも写真を撮って締切に追われる狼男に送ってやると数秒で泣いて震えてるちいかわのスタンプが飛んできた。ちいかわがメガネをかけている幻覚すら見える。だからスマホいじるなって。ゴール決めれたら一緒にこような。は〜ビールが美味い。
    「あったあった、被害受けた家族が住んでる地域の地方新聞には詳しいところ載ってる。なんか凶器?がどうの書いてあった。ウェブ版あったから記事送る?」
    「エアドロで送って。」
    「オッケー。ところでさっきから撮ってる写真どこに送ってんの?」
    「今死にかけで楽曲作成してるヤツに送り付けてる。リアクションが可愛いんだよ。」
    「鬼か?心とか家に置いてきた?」
    「司のドヤ顔で天ぷら食ってる写真送ってもいい?」
    「勘弁して!俺お前の彼氏に喧嘩売りたくないんだけど〜」
    「なんでよ、こんなんジョーさんなんとも無いって。」
    「ダメだって!優しいひと怒らせるのがいっちゃん怖いんだから。」

     
     司と解散後、自宅の作業部屋で呻き声を未だに上げている服役中の狼男をほったらかしにしてもらった地方新聞を読む。
     掻い摘むと事件があったのは今日から遡って二週間前で場所は地方、吸血鬼の母娘の家庭に突然男が押し入り、母親に対して金品を要求するような言動もなく突然刃物で重傷の怪我を負わせたところ、自室にいた娘が母親の悲鳴に気付き、近隣の住宅に助けを求めた。男はそのまま逃走。犯人は見つかっていない。母親は左胸を刺突され、背中まで貫通する重傷だったが急所を僅かに逸れていたことと吸血鬼の特性が幸いして死には至らなかった、ただ凶器の刃物が吸血鬼の弱点となる銀製か聖水が塗布されていた可能性が高く被害を受けた母親の怪我の回復は芳しく無いようだ。
     恐ろしいことにこの母娘は極々一般的な家庭であり、近隣の住人とも付き合いは良好で諍いなども一切なかったらしい。何らかの恨みを買ったり、人間社会のルールから逸脱した行いをすることもない善良な市民だったわけだ。

     地方紙の関連記事を覗くと同市内在住の単身吸血鬼の失踪事件が何件か上がっていた。一件や二件じゃなくだ。

     記事のバックナンバーから『吸血鬼 失踪』のキーワードで検索をかけるとその県だけでここ三ヶ月急増している。

     吸血鬼は死ぬと遺骸を残さない。血の一滴も。
     遺骸は三日三晩をかけて風化してごく僅かな灰を残して最後には霧散する。

     少なくとも今の警察の捜査では吸血鬼が死んだと分かっていても殺人や自殺として扱うことができない。僅かな灰を残して『失踪』したとしか処理できない。らしい、と友人の探偵との何かの雑談話で聞いたことがあった。なにそれ面白〜今度シナリオ書くときにパクろ。と思っていたのでよく覚えている。
    「めっちゃ怖いじゃん…」
     どこか他人事な独り言が口元からこぼれ落ちた。どこか被害者の立場になれない。紙面で知ったからだろうか、はたまた物理的距離があるからだろうか、名も知れないが同胞が恐ろしい目に遭っているはずなのだけれど、俺はその被害者側になることはないんだろうという根拠のない感覚だけがあった。

    ○○○○

     あれは存在が悪なのです。

     あれは神から与えられる命を持たない。
     あれは神から作られた魂を持たない。
     あれは神の創造した肉体を持たない。
     あれは神が存在を認めていない。
     あれは神の名のもとに洗礼を受けない。
     あれは神からの祝福を受けない。
     あれは神からの施しを受けない。
     あれは神からの慈悲を受けない。
     あれは神からの愛を受けない。
     あれは神の創造した世界に於いて異物である。
     あれは神の創造した我々を破壊する存在である。
     あれは神の示した真理から外れた存在である。
     あれは神の定めた正義から見て明らかに悪である。

     あれは存在が悪なのです。

     私の命は神から与えられ、
     私の魂は神から宿され、
     私の肉体は神から賜った。
     神にそうあれかしと作られた人間である私。
     
     神の世界に明らかに不釣り合いな異物は消えなければならない。
     あれは存在が悪だから。
     
     私は神の存在を信じる。
     神は常に私を見ている。
     神は常に私に正しい行いを示してくれている。
     神は全能であり、世界の創造主であり、正義。
     私は神の代行者。

     
    『わたしたちはさまざまな議論を破り、神の知恵に逆らって立てられたあらゆる障害物を打ちこわし、すべての思いをとりこにして神に服従させ、そして、あなた方が完全に服従した時、すべて不従順な者を処罰しようと、用意しているのである。』


     祈りを込める。神の祝福を受けられるよう。
     祈りを込める。悪を打倒する勇気を持てるよう。
     祈りを込める。悪を完全に打ち倒せる武器になれることを。

     方儀式を済ませた銀の剣に聖水を降る。
     悪に立ち向かう私に勇気を持てるよう。
     悪を打倒する力を持てるよう。

     一言一句間違えない、祈りは違わない。
     苦悩が、不安が、恐怖が身に降り注ぐたびに欠かさずに祈りを捧げてきた。今までも、これからも。

    ○○○○

    「行きたくねえ〜」
    「んなこと言ってんなよ。一生に一度しかないんだぞ、姉ちゃんの結婚式」
     そう結婚式。アンジョーの姉がこの度結婚する。地元の挙式に参列するためアンジョーはこれから新幹線に乗って実家に帰る。三日ほど家を空ける予定なのだ。
     この狼男は実の姉のハレの日のためにこの三日間を、文字通り捻り出すために前述した地獄のような制作スケジュールが組まれ、三週間自宅とスタジオに缶詰めにされる生活を余儀なくされたのだ。だが、今まさにようやっと掴み取った休み三日分の荷造りをしながら行きたくないと駄々を捏ねている。荷造りの手は止まっていない、動作と言動がチグハグだ。
    「なんだよ急に駄々捏ね始めて。余興でSugar歌うって本腰入れて練習までしてたじゃんかよ〜」
    「そうなんだけどさ、なーんかこう、漠然と嫌な感じするんだよ。」
    「縁起悪いこと言ってんじゃねえよ。考えんな、そんなこと。」
    「何なのかなあ、案件のリテイク来るとか?」
    「やめろやめろやめろ。それは俺も嫌。」
    「コーサカァ、一緒に行こうぜ…」
    「お前こういう式典で人数のイレギュラーがどれだけ大変かわかってんのか?俺はあなたの姉ちゃんにはもうお祝い出してんだから良いんだよ。」
    「だってさ〜」
    「だってもクソもねえよ俺は仕事しないといけないの!良いから行け!」

     最終的にぐずって新幹線に乗り遅れようとしているアンジョーを半ば無理くり車に押し込み駅まで送り、新幹線のホームまで連行して大人しく乗るところまで見届けて自宅に戻る。全くいつものヘラっとしたアンジョーはどこに行ったのか。赤ちゃん?俺は彼氏ではなく母ちゃんだった?


     ガレージに車を停める。シフトをパーキングに入れてサイドブレーキをかけてエンジンを切る。いつもの通り。
     ポケットから家の鍵を取り出して指でクルクル回しながら、ガレージのシャッターを閉めて道を挟んだ自宅とその向こうに広がる海をみる。日没間近の海の空は地平線が茜色に焼けていた。地平線は今まさに太陽を飲み込もうとしている瞬間で、視線を上げていくと茜色の上には青空というには暗い青が迫っていた。いつも通り。

     道路を渡ろうとした。右足から踏み出そうとした。
     不意に左背中に当たった何かが熱を伴って服を、皮膚を、肉を、肺腑を、胸を焼かれるような鋭い熱と激烈な痛みを伴って切り破っていく。

     男だ。

     皮膚が、筋肉が突き破ってくる異物を拒もうと反射で萎縮するがその勢いは衰えずに俺の胸を突き破って横倒しの切先を覗かせた。

     背の高い男だ、いい匂いの木を焚いたような嫌な匂いがする。

     内臓が焼かれるような熱と痛みには似合わず酷く冷たい色をした白銀の刃が先ほどまでぼんやり見ていた夕焼けを反射している。赤黒いドロドロとした血液が刃の上でジュクジュクと泡立っている。間違いなく銀製だ。

     手に持っていた鍵を取られた。家の中まで引きずられていく。

     横隔膜が激しく痙攣して口の中が苦い、喉を登ってきた血のせいだ。抵抗しようにも全身が痙攣して体が動かせない。

     刃物に付いた血を払うようにリビングの床に雑に投げ倒されて刃が抜けた勢いで傷口からドロドロと血が体外に出ていく。
    「あッああッは、つッがぁ」
    『…地はあなたのためにのろわれ、あなたは一生、苦しんで地から食物を取る。地はあなたのために、いばらとあざみとを生じ、あなたは野の草を食べるであろう。あなたは顔に汗してパンを食べ、ついに土に帰る、あなたは土から取られたのだから。あなたは、ちりだから、ちりに帰る。』

     部屋に差し込む日没の残り日が俺を刺した男の顔を照らす。
     若い男だ。日本人の外見ではないが国籍までは判断できない。黒いカソックを着て左手には俺を刺したであろう直刀に似たナイフを握って、ラテン訛りの片言だが、流暢にこちらがわかる言語で何かをブツブツと唱えている。
     油断した。どこかで自分は被害者になることなんてないんだろうと心の底から勝手に思っていた。
    「まっ…じで信じらんねえ。ゴホッ油断してたけど急に背後取って刺してくんのは違ぇだろ」

    ○○○○

     心臓を狙ったはずだ。
     確実に射抜けたはずだ。
     剣は今朝法儀式を済ませたばかりだ。祈りは万全だ。なのに目の前で這いつくばっているソレは何故動いている?
    「まっ…じで信じらんねえ。ゴホッ油断してたけど急に背後取って刺してくんのは違ぇだろ」
     激しく咳き込むたびに口から血を飛ばしながらながらもはっきりと発声している声は恐怖よりも苛立ちの色が濃い。
     剣をにぎる左手が震える。
    「俺が何したってんだよ…ゲホッ、こっちはちゃんと納税してるし、ドラッグもしてねえし、狂犬病の定期接種もこなして、ゥエッ品行方正な吸血鬼だってのによォ、いってェ…」
     肩で荒い息をしながらもグラグラと体をやっと起こすようにして自らの血溜まりの中で膝立ちしたままソレはまた私を睨みつけてきた。左胸からはまだ赤黒い血がとめどなく出続けて血溜まりを広げている。未だ傷口は塞がっていない。
    「お前、少し前に…別んところで同胞狩りしてたやつだろ…なんのつもりだよ。」
     少しずつ、じわじわとだが確実に傷口が治っていく。胸からの出血が止まり、咳き込まなくなり、発声は流暢になっていく。吐いた血で汚れた口から出てくる言葉尻に怒気が強くなる。
     力を込めても左手の震えが止まらない。なぜこの数分で傷口が塞がっていく?銀製の剣は吸血鬼に致命傷を与えるには充分な効果があったと、この国に来てからこなした仕事で証明できている。それなのに目の前の少年のような風貌の吸血鬼は貫通するほどの致命傷に至る傷をものの数分で癒やしてみせた。

    「なんか言ったらどうなんだよ。襲ってきたのはテメェからだろうが。」
     外から差し込む光がなくなり、薄闇の中吸血鬼の両眼だけが鋭く光る。怒気を湛えた紅紫色の鋭い眼光に心臓を握られたように指先一つも動かせなくなった。緊張と恐怖で深く息が吸えなくなり口は渇き舌が喉の奥に張り付く。
     
    『わ、わたしたちは、さまざまな議論を破り、神の知恵に逆らって立てられた、あ、あ、あらゆる障害物を打ちこわし、す、すべての思いをと、とりこにしてし、主に、服従させ、そして、あ、あなた方が、か、完全に服従した時、すべて不従順な者を、処罰しようと、用意、しているので、ある。』
    「コリント人へのラブレターでも暗記してんのか?お勉強の成果じゃなくてお前の意志を聞いてんだよ。ヴァチカン訛りのマンモーニ。」

    『…地はあ、あなたのためにのろわれ「教科書通りの返答なんて俺は求めてねえよヴァッファンクーロ。テメエの意思でものを喋れ。…あぁ、テメエがホンモノでものを言うなら俺も本性晒すのが礼儀か?態々海外からモンスターをぶっ殺すためにここまで来たんだもんなあ?銀の剣にポーズの祈り捧げて自分の意志も持たねえ虚像の勇気で俺をぶっ殺しに来たんだよなあ?本性晒さないってのも無作法だよなあ。俺の首ならくれてやるよ。持ち帰りやすいように持ち手付きでよ。」
     吸血鬼は膝立ちの状態からぐらりと立ち上がる。
     片腕で後ろ髪を払う動作とともに吸血鬼の毛髪がみるみる長さを増していく。真っ直ぐ立ち上がる頃には吸血鬼の腰のあたりまで毛髪はまっすぐに伸び、頭の動きに合わせて赤みを帯びた毛先が揺れていた。
     背後から襲った時、ソレの頭は私の肩の位置にあったはずだ。だが吸血鬼が変貌を遂げた今は目線がほぼ私と変わらない。睨み付けてくる眼光は変わらないが顔つきも大人びた顔つきになっている。
     本性を表した吸血鬼は怒りと笑いを綯交ぜにしたような感情でこちらを挑発してくる。
    「首を持ち帰りやすいように持ち手伸ばしてやったんだからテメエの意志でそのナマクラで俺の首でもねじ切ってみろよ。」
    「…」
     私は、私は一言一句間違えない、祈りは違わない。
     苦悩が、不安が、恐怖が身に降り注ぐたびに欠かさずに祈りを捧げてきた。今までも、これからも。
     祈りなさいと言われてきた。私を守るためにと、聖句を唱える。

    『…もし主を愛さない者があれば、のろわれよ』

     吸血鬼の表情が陰る。挑発的な笑みがストンと抜け落ちたように無表情になった。紅紫色の目は私を見たままだが私ではなくどこか遠い何かを見ているようで目線が合わない。
     吸血鬼は自らの頬を手で撫でる。考え事でもしているようにこちらを無視して、最初から私はいなかったかのように部屋の中を彷徨くと項垂れながら顔を両手で覆った。
    「…わかった。前提が間違ってた、テメエの意思なんて最初からなかったんだな。態々日本に来てバケモンぶっ殺して回ってるような奴だから、明確に意志を持って、正義を持って行動してるもんだと俺ぁてっきり…こう俺が求めていた奴じゃなかったと言うか。」
     吸血鬼は顔を上げて至極残念そうに、釣り上がった眉がへたり込んだ悲しそうな顔で私を見る。
    「ゾンビみたいなもんなんだな。聖職者だったから、もっと頭良くて志し高くて、バケモン許せねえって意志があって自分の言葉で喋れる人間だと思ってたら、お前ゾンビなんだな。」
    「そんな意思も志しもない教科書を丸暗記しかしてなくて応用もできない頭で、碌にものを考えられないようなやつに俺は殺されかけたってことかよ。」
    「ひでぇやつだな。ちゃんと最初から言えよ。話せばわかるやつだと、頭のどっかで思っただろ?時間を無駄にさせんなよ。こっちは仕事が溜まってんだよ。」
     
     ドロリと吸血鬼の足元に溜まった血が動いた。赤黒いソレは量を増し床を這うように四方に広がり床一面を覆わんとしている。
     テラテラとした表面が波打ち私の足元にまで這い寄ってくる。
     コレに触れるとまずい。直感がそう私に訴える間に足元がソレで覆われてしまった。まるで泥濘に両足を守られたように動かない。

     一歩一歩と吸血鬼が近づいてくる。
     殺される。犬のように殺される。葦のように死ぬ。これ以上近寄られたら死ぬ。
     咄嗟だった。左手に握る剣を全身の力を込めて吸血鬼に投擲した。
     
     カンッと乾いた木に打ちつけたような音を立て、剣は吸血鬼の眉間に深く突き刺さる。強く振りかぶりすぎたためバランスを崩し両手までも泥濘んだ足元に取られてしまった。
    「…プラシーボ効果ってあるだろ?信じ込む力とか思い込む力が強いと実際に効果がなくても効くようになるってやつ。祈りが強かったら木の杭でも吸血鬼は死ぬんだよ。」
     突撃を受けてのけぞった上体を戻しながら吸血鬼は抑揚のない声で喋り出す。
    「ちゃんと祈れよ。中身のねえテメエには無理だろうけどよ。中身のねえ天ぷら野郎の銀なんて鉄屑と変わらんけどな。あ、鼻血出てきた。」
     私の顔を覗き込むように吸血鬼はしゃがみこむ。深く刺さった剣をゆっくりと抜いていくと両目と鼻からぼたぼたと血が溢れて私の頬に降ってきた。
    「さっきまでの俺と同じ格好だな。無様でサマになってるよ。」
     胸の傷以上の速さで、瞬きの間に眉間の傷が癒えていく。
    「とはいえ脳天を無粋なものでぶち抜かれたので流石に一回死んじまってるからさ。減った残機はちゃんと増やしとかねえと。」
     
     吸血鬼は立ち上がって一歩離れる。手に持った剣をゴミ箱に放り込んでダイニングテーブルの椅子を引いて腰掛けた。
     まるで自宅でくつろぎつつ宅配を頼むかのようにスマホをいじり始めた。

     視線を感じる。とても近いところから見られている。
     床からだ。床から視線を感じる。
     目だ。無数の目が私を見ている。赤黒く濁った無数の目が吸血鬼の血でできた泥濘の瞼を押し上げて私を見ている。距離をとりたくて腕を抜こうとしてもびくともしない。

    「ジョーさんは、あ俺の彼氏ね。コレ見たことないんだ。見せらんねえだろ?俺コレでも可愛い吸血鬼だからさ。目だけじゃなくて口もあんだよ、ヤツメウナギみたいなやつ。今からソレに頭から食われて死ぬから、せいぜい天国とやらに行けるように祈れば?」

     こんなところに穴が。



    ○○○○

    「コーサカ〜、買ってきた〜。オキシクリーンとウタマロ石鹸〜って血ぃ?!」
    「司〜急だったのにホントありがとう。」
    「何何何?何があった何があった。なんだこの床いっぱいの血?!」
    「これは俺のだから後で回収するから良い。てか聞いてくれよ司〜パーカーとスカジャンとキャップ全部ダメにされた。お気に入りだったのに〜」
    「何もかもわかんないから最初から話して?!」
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    apollo07222

    DONE明確に🐺🦇です。
    事後っぽいな。
    #MZMart_B
    #MZMart_R
    幸福論 たとえ遮光カーテンで締め切っていたとしても、雨雲が朝日を遮っていても、朝日を感じて目が覚めてしまうのは、もともと太陽光に怯える吸血鬼の本能なのかと勝手に思ってる。根拠はないけど。今日は太陽光の気配じゃなくて雨の音で起きたと思う。静かに雨が降る音が遮光カーテンで締め切られた窓の外から聞こえてきていた。
     天敵の日光を遮って完全な安眠を約束してくれる棺桶に比べると、アンジョーと眠るベッドは広くて、寝返りも打てて、スプリングがよく効いていて暖かくて、そして俺をガッチリ抱き締めてアンジョーが寝ているというめちゃめちゃ幸せでデカすぎるリワードがある。寝起きは見えもしない朝日を感じて起きるけど。
     目の前には俺の体を両腕で抱き寄せて未だに深く眠るアンジョーの首筋と鎖骨から肩までが無防備にも露わになっていた。というかほぼ裸だ。お互いにパンツだけ履いて寝たことは覚えてる。昨日夜から今日未明まで相応に求めあった過程で、前後不覚になって縋りついた筋張った首筋に甘ったるく齧り付いたり、爪で引っ掻いたりした痕が薄暗い室内でもしっかり見えてなんだか無性に恥ずかしい。
    4502

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