「ところで、これは提案なんだが」
「強い衝撃を与えたら記憶消えたりとか」
「その前に死ぬぞ私は。いや待て、先に話を」
「分かった。俺の記憶消すわ。ちょっと待ってろ、壁に頭叩きつけてくる」
「早まるなアホ。そこに止まれ」
「嫌だ。テメエはさっさとソレ飲ませてくればいいだろ。相手が誰だか知らねえけど。……俺なんか放っとけよ」
「気が変わった」
「はあ?」
「たった今、必要が無くなったんだ」
「……」
「いくら君がにぶちんゴリラといえど、流石に察してくれるね?」
「いや、まだだ。信じねえぞ。これで誤解だったら、俺……」
「そう。じゃあ何をしたら信じてくれる?」
「へ?」
「そういうオネダリなんだろう?」
「おねっ……!?」
「ふふ、君ってば存外欲張りじゃないか。さあ、何をしてほしいか言ってごらん」
「……家……」
「家? ……えっ、なにルドくん。家ってなに」
「もし。家、出ていくなら。先に言ってほしい」
「は……?」
「ずっとここに居てくれなんて贅沢言わねえから、だからせめて。飽きてどこかに出ていくとき」
「……」
「黙って行かないで、くれ……」
「そんなことが、好意の証明になるの。……ならないでしょ? 駄目。考え直して。今すぐ。ほら向こう。思いつくまで予備室に篭ってろ」
「……」
「──……もしもし。ああ、ええ……効果のほどというか……例の薬は必要がなくなったというか。代わりにお願いしたいものが」
「ゴリラも余裕で仕舞えるような檻を一基、用意していただきたいのです」
「出て行く気も無ければ、出て行かせる気もないのだと、解からせてやる必要がありましてね」