切って、落とされる。前回までのあらすじ!
七海がストーカーされてる。
「で何?ラブレターと写真と出待ち?」
「そうですね、今日もいらっしゃいましたよ。まったく律義なことで」
七海がサイドチェストの一番上の引き出しを漁り、取り出したものを僕にポンと投げて寄越した。淡いピンク色の可愛らしい封筒が二つ。ただしその分厚さは全然可愛くない。
オマケにどちらも消印と住所の記載は一切なく『七海建人様へ』の六文字だけ。
昨今防犯上表札出さない家が増えたのに、住所どころかポストまで突き止めるとは中々根性がある。
封筒を逆さにすると中身がボスッと音を立ててシーツに受け止められる。
手紙の内容をざっと見るに、まあ予想通りというか、こいつが任務中に庇ったことでうっかり逆上せあがった一般人らしい。こいつといい傑といい、本当にこいつらそういうの多いよね。
強くて優しくて格好良くて云々、お決まりの台詞から始まり、外で食事してる時の様子やら、その際一緒にいる人物に言及してみたり、よくあるストーカーのお手紙。
写真の方は七海単体の盗撮写真が2、30枚はある。それなりに高層階のマンションに住んでるからか、幸いにも家の中までは盗撮されておらず、どれも外出時のものばかりだ。
そして出待ち。七海がエントランスを抜けるとじっとこちらを観察する視線を感じるのだとか。最近は裏側に位置する住民用出入口を使っているというが、なにせ裏口なので使い勝手が悪い。
「面は割れてんだし、窓にでも見張らせとけば?」
「個人的なことに高専の人間を巻き込む気はありませんよ」
何があなたじゃないんですからだ、失礼な奴め。
高専依頼の任務が切っ掛けなんだから使っちゃえばいいのに、こいつはそれを良しとしない。
潔癖とか真面目とかそんなんじゃなくて、単純に面倒くさがってるだけ。
どうせこれだって、一過性のものだから放っておけばその内なくなるとか考えてるに違いない。
甘い、甘すぎる。僕が今日任務の引率帰りに悠仁達と飲んだキャラメルマキアートより甘い。
その昔、傑が同じ様にスルーした結果刺されかけたの、お前だって知ってる癖に。
非術師相手に負けるわけないって高括ってんだろうけど、明らかに前よりも溜め息の回数が増えてるの、多分気付いてないんだろうな。サラリーマンやってた時もこんなもんでしたよって?やかましいわ。
まったくしょうがない後輩だよ。そういう意外と雑なところも嫌いじゃないけどね。
「ねえ、それ僕が何とかしてあげよっか」
「は?いいですよ別に」
「お前だってこんなん毎日送られて、見ず知らずの人の視線気にして生活するの、普通に嫌じゃん。手っ取り早くお引き取り願おう?」
「…具体的には」
「ここの鍵ちょうだい」
「は?何故」
「こっちがまだ向こうに知られてないことあるよね」
「というと?」
ほら、こんな簡単なことにも気付いてない。
本人も気付かない内に結構参ってたんだろう。
「僕だよ」
七海曰く、不法侵入や盗聴器の設置なども今のところ確認されていないらしい。
玄関ドアの前で住民以外の人間が中の様子を伺おうとうろついてたら、それこ他の住民から通報される。なら恐らくストーカーは七海の部屋の前までは来てない。
エントランス周辺を張ってるってことは、盗撮する際七海の傍にいた人間がマンションに入っていけば、当然気付くはず。
写真ではうまいこと七海だけ写るよう撮ってるみたいだけど、僕や僕の教え子、猪野辺りはもう顔を知られているとみていいだろう。
しかし、七海の自宅までわざわざエントランスを通ってまで来る人間はこの中にはいない。ただし、エントランスを通らず七海の部屋に直接行く人間ならいる。
そう、僕だ。
「いっつもベランダから直接来てたから、向こうも部屋に僕が来てる事なんか気付いちゃいないでしょ。それがある日突然エントランスから入ってインターホンも押さず自動ドア抜けてったらどう思うだろうね?」
「人間らしく横着せず今後も玄関から来てくれませんかね。あなたのせいでいつまでたっても窓の鍵が閉められないんですよ」
七海がまた溜め息を吐きながら、僕の手から写真と手紙を取り上げサイドテーブルに放る。
「…わかりました。鍵が出来たら渡しますよ。でもその後はどうするんです?」
「そこは穏便にオハナシアイでしょ」
なんだその顔は。非術師相手にこの僕が喧嘩するとでも?それとも穏便に『転校』させるとか思ってんじゃないだろうな。するわけないだろ失礼な。僕を何だと思ってんだ。天下の最強五条悟だぞ。
ぶうぶうと膨れ面をしつつ、七海の表情が先ほどより幾分か穏やかになっていることに少しだけほっとする。
「ま、可愛い後輩の為に!ここはひとつ先輩が一肌脱いでア・ゲ・ル♡」
「もう脱いでるじゃないですか」
それもそうね~とけらけら笑う僕を見ながら七海がベッドサイドランプの明かりを絞る。
先ほどよりも薄暗くなったベッドで、今度は僕の上半身がシーツに受け止められた。