くすぐったいのこの人は自他共に認める通り、一人で何でも出来てしまう。かといって、この人ひとりですべてのことが丸く収まるわけでもない。
私は時間をかけてその事実を自分の中に落とし込んだ。
だからこそ敢えてやらず、振れるところは他に振っているのだという主張も納得している。──だからと言って伊地知君の負担の大きさには目を顰めざるを得ないのだが。
閑話休題。
ならば、今のこの状況は?
この人は今、私に何の役割を求めているのだろうか。
「七海ぃ~、まだぁ?」
声の主は私の膝を陣取り、横目に私を見上げてくる。
これこそ自分でやればいいのに、こんな小さなことでわざわざ人を呼ぶのだ。五条悟と言う男は。
「わかりましたから、じっとしてください」
狭い穴を擦ってやると、この人は両手で口を抑えながらくふくふと堪え切れなかった笑い声を漏らした。
次第に全身がびくん、びくんと跳ねる感覚が短く、大きくなる。
じっとしろと言っているのに。まったくこの人はくすぐったがりで困る。
こういう人は自分でやった方が絶対にいいはずなのに、この人はいつも私にやらせるのだ。
ならば毎度わざわざ高専のこの人の部屋まで来てこんなことしている私は何なのか。
だっていつも私の身体が空いた隙を見計らって呼び出すのだ。
もし私がこの人の呼び出しに応じなかったら、じゃあ次は誰がこの部屋にやってくるのか。
それを問い詰められる関係に、私達はまだ至っていない。
「ほら、反対側もやりますよ。向きを変えてください」
「はあい」
この人は相変わらず無邪気に私の腹に顔を埋め、何がおかしいのかきゃらきゃらと笑っている。
「いつまでも笑ってないで、じっとしなさい」
「ふふ、うん」
私は膝に乗るあなたの髪に指を通す権利を持ち合わせていない。
それでもあなたが私の膝に乗せる時、何を考えているのか、それを問いただす権利くらいはあってしかるべきではないだろうか。