わかってるじゃないですか「家を買ったんです」
どうぞ。そう言って渡されたのは、小さくて平べったくて、ギザギザしている金属の塊。
キーホルダーもカバーも何にもついていない、どこかを開けるただの鍵。
「そう」
「ちゃんとそれで玄関から入ってくださいね。これまでのように窓から入るとかされると、あっという間に近所に噂が広まってしまいますから」
「は?まってこれお前んちの鍵なの」
口に出してから自分の返答がおかしいことに気付いた。いや当たり前だろ、これがロッカーの鍵に見えるとでも?
どうやら思いのほか動揺しているようだ。案の定、目の前の後輩は怪訝な顔でこちらを見上げている。
「話の流れ的にそうでしょう。これが高専のロッカーの鍵に見えますか?」
こちらの思考を見透かされたような発言にじわりと掌が湿った。
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