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    柚月@ydk452

    晶くん受け小説

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    柚月@ydk452

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    ミス晶♂短編
    自分だけを見て欲しいミミちゃん

    #ミス晶♂

    真夜中の涙今日は、駄目だ。
    何がどう駄目かと言うと、もう全て。
    朝は寝坊するし、そのせいでせっかくのネロの朝食を食べ損ねた。優しいネロは依頼先まで持っていけるように、サンドイッチを作ると言ってくれたが、わざわざ手間を掛けさせるのも申し訳ないし、本当に一分一秒を争っていた手前、泣く泣く断った過去の自分が憎らしい。
    慌てて辿り着いたエレベーターでは、北の魔法使いがこれでもかというくらい、不機嫌な様子で立ち並んでいた。昨日なんとか頼み込んだにも関わらず、やっぱり彼らは逃亡しようとしたらしい。オズの制裁の名残か、何かの焼け焦げた匂いが充満していた。
    そうしてやっとこさで到着した依頼先でも、散々だった。
    これ以上は振り返りたくないので、割愛する。

    (疲れたな…)

    ぼすん、と倒れ込むようにして、ベッドに身を投げ出す。ここのところ、休んではいるはずなのに、疲れが取れない。やるべき事、しなければならない事に振り回されて、心が悲鳴を上げているのが分かる。だが、分かった所で、賢者にはどうする事もできなかった。
    だってここは、異世界なのだから。
    見知らぬ常識、相容れない価値観に、行き場のない感情。些細な事でも積もれば、それは賢者を蝕んでいく。
    「ひっく…。」
    時刻は大いなる厄災が煌々と輝く深夜であり、せめて心配は掛けたくないと、嗚咽を呑み込んだ。一人でいたいのに、一人でいると、孤独と寂しさが募っていく。
    視界が涙で滲み始めた頃、バタン、と扉の開く音がした。思わず音のする方へと見遣ると、大きな影がゆらりと落ちた。
    「こんばんは、賢者様。」
    緊張感のかけらもない、ぼんやりとした声に、その正体を悟る。
    「ミ、ミスラ…。えっと、今日は…うわっ。」
    こんなぐちゃぐちゃの感情と、鏡を見なくても分かる酷い顔を見せたくない。暗にそう伝えようとした賢者だったが、言い終わらぬうちに勢いよく布団を捲られた。外気が容赦なく温もりを奪い、慌てて身体を抱きしめる。
    賢者の様子など見向きもしないで、ミスラは当然のようにベッドへと入り込んだ。
    「はぁ、あなたもうちょっと、そっちに寄ってくださいよ。狭いです。」
    手加減なくグイグイ壁際へと押され、なす術もなく賢者は身体を縮こまらせた。ようやく納得のいく体勢になったのか、ごろりと寝返りを打つと、こちらに向き直る。
    「ミスラ、あの今日は俺、寝かしつけ出来そうになくて…。」
    「はぁ?あなたの都合は関係ないです。俺は、俺のしたい時に、したい事をします。」
    「ミスラ…。」
    賢者の情けない声に、ミスラはどこ吹く風だ。自由で、何者にも縛られることのない彼らしい。思わずため息を溢したが、そこでようやく彼は賢者の常ならぬ様子に気付いたようだった。
    「あなた、泣いていたんですか?」
    改めて指摘されると、恥ずかしい。しかも、ただ今日ほんの少しだけ、不幸が続いたと言うだけだ。取るに足らない、些細な事でしかない。慌ててグイッと目元を雑に拭うと、賢者は布団を被り直す。
    「……大丈夫です!なんとも、ないので。」
    「そうですか。」
    興味なさそうに返事をした割に、視線が痛い。そろりと顔を上げると、暗闇の中で目が合った。月の光が差し込み、翡翠の瞳に引き込まれそうになる。
    「…今日、なんとなく、嫌な事が続いたんです。」
    するりと口から自然に、言葉が溢れた。中身が溢れないよう蓋をして、限界まで溜めていた心に、ヒビが入る。
    「俺、このまま、やっていけるかなって、不安になって。」
    一度溢れたそれは、堰を切ったかのように、流れ出ていく。涙が浮かび、声が震え、またあの惨めな気持ちが顔を出した。
    「駄目ですね、皆を導かなければ、いけないのに。」
    「…あなたが何を言っているかは分かりませんが、ただ、あなたが泣いているのを見ると苛々します。」
    「…え?」
    不快げに眉を寄せた彼は、シーツの波を彷徨っていた賢者の手を握った。長く優美な指先が絡められ、温もりが広がっていく。
    「誰か殺して欲しいなら、殺してあげましょうか?」
    「いやいやいやいや。」
    突如物騒な提案をされ、速攻で否定する。面倒くさがりで短絡的な彼らしさに、思わず笑ってしまった。
    「賢者の仕事が不安なんですか?だったら、他の事はやらなくていいです。俺の事だけ考えて、真剣に取り組んでください。」
    「ミスラの事だけを考えるんですか?」
    「そうです。毎晩俺を寝させてください。この世界で、どんなものより価値のある仕事ですよ。」
    他の仕事より、他の魔法使いより、自分を優先しろと迫る彼は、北で恐ろしい魔法使いには見えなかった。眠そうに愚図る、ただひとりの男は、唯一の手段として賢者を求める。
    「あなたにしか、出来ない事です。」
    「…俺にしか、出来ない事…。」
    不思議とそれが、耳に心地よい。いつのまにか涙は止まり、騒ついていた心が凪いでいく。重ねられた手は引き寄せられ、抱き枕のように力強く抱きしめられた。
    「俺には、あなたが必要なんですから。」
    ふわりとミスラの匂いが鼻を擽り、身体全体で温もりを感じる。この匂いは、この温もりは、自分を傷つけない。孤独に震えた心は、安心したかのように落ち着いていく。
    規則正しい呼吸と鼓動は、どちらのものか。
    閉め忘れた窓から風が入り、ふわりとカーテンが舞った。
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