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    柚月@ydk452

    晶くん受け小説

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    柚月@ydk452

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    オー晶♂短編
    『雨に濡れても待ち続ける』の続き

    #オー晶♂

    ただそばにいるだけで街道に沿って歩けば、甘い香りが漂ってくる。先程降った雨のせいで水溜りが所々にあるけれど、参加者を阻むほどでもない。それよりも空に掛かる虹と、ひっきりなしに打ち上がる花火も相まって、誰しもが笑みを浮かべている。
    オーエンの方をちらりと見ると、つまらなさそうな表情をこちらに向ける。しかし晶が視線を外すと、瞳の奥から僅かな興奮が見え隠れしているような気がした。指摘すると、否定するだろうが。
    人混みが増してきた。その奥向こうには初老の男性がステージに立ち、観衆に向かって語りかけている。あわよくばレノックス達と合流できないかと期待していたが、この人数では難しいかもしれない。大人しく、中央のオブジェで合流するのが無難だ。
    幸いにも、ステージ上での開会式はもう間も無く終わる。あとはテープカットをした後に、ファンファーレに合わせて開催となるらしい。いくつかの露店は既にプレオープンをして客を呼び込んでいたが、その開会宣言を以て本格的にスィーツフェスティバルは始まるのだ。
    会場となっている広場の熱気にあてられて、晶もまた高揚してくる。
    「オーエン、まずはどこから行きますか?」
    「あそこのクレープ。時間かかるから、先に並ばないと。賢者様、走って。」
    「はい、分かりま…えっ、オーエンも走らないと。」
    「嫌。賢者様、先に走って並んできてよ。」
    「理不尽…。」
    上記のやりとりを経て、晶がなけなしの体力で駆けていく。しかしいざ列に並ぶと『割り込み厳禁・一人ひとつまで』が厳命されているらしく、結局はオーエンに急いで来るよう呼ぶ羽目になった。
    晶はネロに聞いた範囲でしかフェスティバルを知り得ないが、大抵の露店販売はこのような規約が定められているらしい。お陰で開催直後も各店舗で行列は出来るものの、さしてトラブルは発生していないようだった。
    無事にクレープを受け取った二人は、店舗脇の飲食スペースで見せ合う。
    「んー、ベリーの酸味と生クリームの甘さが最高ですね。オーエンはどうですか?」
    「普通。もっとクリームは甘い方がいい。」
    超がつくほどの甘党の彼はそう返答するが、その表情は不機嫌ではなかった。
    ぱくりと食べ始めたかと思えば、瞬く間にクレープが消えていく。口周りについたクリームの残りをぺろりと舐めとると、晶の視線に気づいたオーエンは「何?」と問う。
    「あ、いえ、美味しかったんだなぁと思いまして。」
    「普通って言ってるでしょ。賢者様、耳遠いの?」
    「至って正常ですよ。俺も、これ食べちゃいますね。」
    重なったクレープ生地の隙間から覗く瑞々しい果実が、宝飾品のように煌めいている。オーエンは甘さが足りないと評していたが、晶の場合は、ベリーの味を邪魔しない控えめな味付けが程よく合っていた。
    さぁもう一口と意気込んだ晶だったが、それを遮るかのように別の手が割り込む。
    「それ、僕にもちょうだい。」
    「え。」
    拒否も同意もする暇なく、目の前にオーエンの顔が近づく。晶がそう認識した時には既に、手元のクレープの大部分は齧られていた。
    「…あ!オーエン!俺、まだ一口しか食べていないのに!」
    「こっちの方が、クリームの甘さ足りないんだけど。」
    勝手に奪っていったにも関わらず、酷評される始末だ。やるせ無さに、晶はがっくりと肩を下げる。

    (まぁ…オーエンが楽しんでるならいいか。)

    気を取り直して、残りを放り込む。
    「じゃあ、次は…って。」
    オーエンの方へと向き直る晶が見たのは、ドン、と大きな音を立てて通行人にぶつかり地面に倒れる彼の姿だった。
    「オーエン!?大丈夫ですか!?」
    ぶつかってきた通行人はオーエンよりも大柄で、すまなそうに短く謝るも、すぐに立ち去ってしまう。慌てて彼の近くに駆け寄ると、左右の色の異なる瞳がゆっくりと瞬く。
    それが、晶の視線と重なると。
    「けんじゃ、さま…いたい、いたいよ…!」
    「オーエン、まさか…!」
    厄災による奇妙な傷の方のオーエンだった。ぶつかった衝撃で、いや通常のオーエンならば避けるか、あるいは相手の方から退かせるだろう。きっかけは不明だが、運悪く傷オーエンになった瞬間にぶつかり、今はその痛みで涙をこぼしていた。
    道端でなかったのが幸いだ。飲食スペースの端の方へと導くと、その目元にハンカチをあてがう。
    「痛かったですね。俺が近くにいたのにごめんなさい、オーエン。」
    「…ううん、けんじゃさま、わるくない。ねぇ、僕のそばにいて、てをつないでくれる?」
    「もちろんですよ、俺でよければ。」
    ぎゅっと絡められたそれは、もう離さないとでも言うような強い力を感じた。まだ数えるほどしか傷の方のオーエンには会っていないが、その数回の逢瀬でも、彼は晶に心を許してくれていると思う。希望的観測かもしれないが、晶はその信頼を裏切りたくない。

    (元に戻ったら、この状況、絶対舌打ちするだろうなぁ。)

    そう心の声で思うも、その時はその時だと開き直ることにした。舌打ちくらいなんだ、嫌味ならとうに慣れている。
    「えへへ…けんじゃさまとてをつなげて、僕、うれしい。」
    こんなあどけない表情と声で笑いかける彼を無視出来るほど、晶は強くなかった。
    ご機嫌で笑みを浮かべる彼は、周囲を見てさらに歓声を上げる。
    「うわぁ、おかしがいっぱいある!なんで?これ、たべていいの?」
    「…もちろんです!好きなものをたくさん食べましょう!」
    正直に言うと賢者の収入は、決して多いとは言えないが、今ここでそんなことを議論するのは無粋だ。頭の片隅で『副業』の二文字をちらつかせながら、早くはやくと晶を引っ張るオーエンについていった。



    露店を片っ端から巡り、ほぼ全てを網羅したと言っても過言ではないほど、晶と傷のオーエンはフェスティバルを満喫していた。
    もちろん、オーエンは食べる時以外ずっと晶の手を握っている。この人混みで逸れたら絶望的なので、それはありがたかった。
    「あまくておいしいものがいっぱい。けんじゃさまもいっしょだから、もっとうれしい。」
    「俺もオーエンと一緒だから、嬉しいですよ。」
    そう返すと、オーエンは不思議そうにきょとんとしていた。てっきり喜ぶかと思ったが、どうやら違うらしい。
    「オーエン?」
    「……けんじゃさまは、僕といっしょだと、うれしいの?」
    小さな声で、彼は問いかける。舌足らずで、幼子のように、それでいて何かを懇願するかのようなそれは、街頭の騒めきに消されてしまいそうだった。
    不安で震える瞳から、何故か目を逸らしてはいけない気がした。きっとここで答えを間違えたら、彼は二度と晶に会ってくれないような、そんな予感がする。
    だから晶はそっと、握られた手に力を込める。
    「はい、オーエンが俺のそばにいてくれると、嬉しいです。」
    誠意を込めて、誠実さを精一杯。
    嘘偽りない、晶の本音を伝えていく。
    それを聞いたオーエンは、顔を伏せたが。
    「…えへへ、そんなことをいわれたの、はじめて。」
    次の瞬間には、とても嬉しそうに破顔していた。そして晶に飛び込んでくるかのようにして、ぎゅうっと抱き締める。白いコートがふわりと舞い、お菓子の甘い匂いが鼻をくすぐった。
    「みんな、ぼくからはなれていっちゃうの。だからぼく、ずっと、騎士様をまってたんだ。」
    「俺は騎士ではないけれど、オーエンからは逃げませんよ。」
    「ほんと?じゃあ、またぼくとあそんでくれる?」
    「えぇ、もちろん。オーエンが、望むなら喜んで。」
    寂しげに揺れていた瞳は、これからの楽しみを想像して、すぐにきらきらと輝く。晶を逃すまいと回された腕に重ねるようにして、その細い体を抱き締めた。
    一人じゃないと、伝えるために。
    寂しさを感じさせないように。
    晶の抱擁に、オーエンも安心したのか、その身を軽く預ける。
    そうして数秒とも、数分とも言えるような時間が過ぎた後。
    「…………何してるのさ、賢者様。」
    「あっ、オーエン、戻ったんですね!」
    チッと盛大な舌打ちが、これ見よがしにされる。半ば予想していたとは言え、晶はあははと力なく笑った。
    「で、何で賢者様は僕に抱きついているわけ?」
    「いや、どちらかと言うと、オーエンの方から抱きついているんですがいたたたたつねらない、つねらない!」
    道ゆく人は露店に夢中だったため、道端で抱き合う青年二人はさして注目されなかったのが幸いだ。慌てて抱擁を解こうとして、「ん?」と晶は首を傾げる。
    腕を外しても、オーエンはその場を動かない。絡められた手も解かれず、距離を取ることもできない。
    「……オーエン?」
    「………うるさい。」
    帽子の影が、その目元を隠す。表情を窺い知る事はできないが、機嫌が悪いわけでもなさそうで。
    ただそばにいる事を許された晶は、そっとその背に手を回す。母が幼子にするように、トン、トン、と優しく叩く。

    『みんな、僕からはなれていっちゃうの。』

    傷のオーエンの言葉が、何故か今にして頭に引っ掛かっていた。彼のこれまでを、晶は知らない。だからこそ、歯痒く思う。
    彼の孤独を、彼の心を、ほんの少しだけでも触れたいと思うのは、悪い事だろうか。

    周囲の喧騒から切り取られた空間で、二人はしばらく互いの温度を感じていた。
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    りう_

    DONE11/14逆トリオンリー「月よりのエトランゼ」で展示していた作品です。
    逆トリで晶くんの世界にやって来たフィガロと晶くんが買い物デートして二人でダーツをしています。
    ご都合主義なので、厄災がどうにかなって、二人はお互いの世界を行き来出来るようになっている…という想定です。
    ※ちょっとだけフィガロ親愛ストのネタバレがあります。
    勝者の願い そこそこ人の多い、昼下がりの商店街。自分と同じく買い物に出ている人や外食に来ている人が多いのだろう。
     彼と連れ立って歩くとちらちらとすれ違う人たちの視線を感じた。その視線は、俺では無く隣を歩く人へと一心に向けられている。それはそうだろう、俺の横にはこの国では見かけない珍しい色彩と、頭一つ飛びぬけた長身、それに整った顔立ちを持った麗人が居るのだから。
     そっと斜め上を見遣ると、彼は珍しそうに立ち並ぶ建物たちを眺めているようだった。色とりどりの看板がひしめき合うように集まり、その身を光らせ主張している。建物の入り口には所々のぼりがあるのも見えた。
     その一つ一つに書かれた文字を確認するように、時折フィガロの唇が開いては、音もなく動く。どうやら看板に書かれた文字を読み取っているようだ。
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