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    tonight_trmk

    @tonight_trmk
    刀剣乱舞 つるみかを書きます

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    tonight_trmk

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    タイトル、未完 になってたけど出来てたっぽいのであげちゃう
    ワンドロのお題「プロポーズ」からでした

    「この戦がおわったら、きみがほしい」

     戦場だ。共に並び立ったおとこにふいにそう言われて三日月宗近は目を瞠った。なにせここは戦場なのだ。意を問う前に、回り込んできた敵短刀を宙から叩き折った。甲高い声をあげて短刀はばらばらと砕けて戦場の土となった。これで最後だろうか。見渡すとほうぼうに散って戦っていた仲間たちが戻ってくるようで、ひとまずこれでいったん息をつけるようだ。
     己の刀身にへばりついた敵の血を払い、鞘に戻す。敵の血は不思議なことに刀身にべったりとついたとしても瞬く間に乾いて塵となって消えていくが、なんとなく三日月はいつも血払いをしてしまう。穢れを振り払うように。

    「それで」

     三日月は未だ本体を鞘にも戻さず立ち尽くす鶴丸を振り返った。

    「戦場で冗談はどうかと思うが。時と場合によるかもしれんが、今はその時ではないだろう」
    「いやいや、すまんすまん」

     鶴丸は笑った。金の瞳はいつものように戦場でらんらんと光を放っているがどうにも乾いている。三日月は眉をひそめた。なんだかいつもと違うように感じるのだ。そも、この男はいつもふざけてはしゃいだように見えるが、その心中は常に冷静で一線を見極めている。三日月は鶴丸のそういうところに一目を置き、信頼してきた。本丸に顕現しはや数年、ともに戦場を駆ける鶴丸は三日月にとってかけがえのない戦友だ。

    「調子でも悪いのか、鶴丸。ならば戻ろう。今日はただの資材集めだ。大将を斃さず戻ってもなにも言われやしないだろう」

     熱でもあるのかと、遠慮がちにその白い頬に触れたが生憎戦衣装の皮手袋越しではなにもわからない。少し考えて、頬に当てた手はそのままに己の前髪をかき分け、少しだけ首を曲げてされるがままの額に己の額を合わせてみた。目を閉じて温度を計ってみるが、やはり熱いようには感じられない。

    「熱はないようだが、熱だけが不調ではあるまい。どれ、山姥切に言って本丸に戻るゲートを」

     三日月は隊長である山姥切国広を呼ぶために鶴丸から離れようと目を開け、口をつぐんだ。目前にどこまでも乾いた瞳がある。金色はじっとこちらを見つめ、これから捕食する獲物をじっと伺い目を離さまいとする肉食獣のような視線だ。静かで、苛烈。三日月はその視線に呑まれ立ち尽くしてしまった。

    「もう飽いた」

     獣が静かに言葉を吐き出す。それは喉奥でぐるぐると唸るように低く聞こえた。

    「この戦いはいつまで続く? こんな、生ぬるい、資材集めのために戦場に? 敵は一太刀で折れるくらいに弱くて、だというのに俺たちは折れないようにまじないのかかったお守りを持たされて。なんなんだ? 顕現してもう何年も経つが、戦況はまったく変わらないじゃないか。俺たちはいつまでこんな風に、惰性で振り子のように敵を斬って、砕いて、」

     そこまで言って鶴丸は大きく息を吐いて、もう一度飽いた。と言った。

    「顕現した頃はなにもかも楽しかった。己の足で歩き、五感を味わい、己の手で敵を斃す。それだけで楽しかったのに、人の身というのは、罪深いなあ」
    「鶴丸」
    「三日月宗近」

     白い頬に当てたままだった手のひらに、指抜きの皮手袋をした手のひらが重なる。ゆっくりと手の甲を撫で、ぎり、と爪がたてられた。

    「この戦いが終わったらきみが欲しい」

     乾いた獣の瞳はまっすぐにこちらを見つめている。三日月は息を詰めたが、思い直してゆっくりと呼吸をした。まず、鶴丸の言っていることがよくわからない。

    「俺がほしい、というのは」
    「そのままの意味さ。戦いのあとの余生をきみと過ごしたい。きみの時間がほしい」
    「…戦いが終わったら我らは本霊に戻される。また宝物庫のなかで眠りにつくだけだ、お前にやれる俺はどこにもないぞ」
    「その場ですぐに本霊に戻されるわけじゃないだろう。少しくらい猶予はあるはずだ。そこで、その時だけでいい」

     鶴丸の言っていることの意味がわからず、三日月は首を傾げる。その幼い仕草に鶴丸はちいさく目を細めて笑ったようだ。

    「きみは美しい。強くて、澄んだ水のような心根を持っている。よく笑い、よく食べ、時に諭し、時に慈しみ、人やものに寄り添っていっそううつくしく生きている。俺は、きみのそういうところがすごく好ましいんだ」
    「……熱烈だな。俺もお前のことは好ましく思っているが、つまりそれはお前の求めに喜んで応えて接吻でもすればいいのか?」
    「は」

     鶴丸はぽかんと口を開け、少しなにか考えたようだ。考えて、眉をひそめ、そしてぶはっと息をふきだして笑った。己の物言いが、ずいぶんであると気付いたようだ。

    「ばかいえ」
    「俺がほしいだの、好ましいだの、お前がばかをいえだ」
    「いやあ、はは、そうだ、すまんすまん、気鬱がすぎたな」

     重苦しかった空気が霧散していく。くっくと腹を抑えて笑う鶴丸は、一歩三日月から離れ

    「惚れた腫れたの話は人間に任せよう。俺は別にきみを抱きたいとか、きみに心を傾けてるとかそううつもりはまったくない。ただきみが好きだから、戦のあとにきみと過ごすのを楽しみにしたいってだけだ」
    「んん、それは光栄なことだが。つまり俺はお前の褒美か?」
    「はは、褒美か! たしかにそうだな、これじゃまるで戦の褒賞にきみが欲しいと言っているようなものだが……いや、まあ、その通りだな」

     鶴丸は照れくさそうに笑った。

    「馬の鼻先に人参を垂らして走らせるようなものさ。いつかきみとの時間が手に入るなら、俺は最後までこの戦場を走りぬこう」
    「ははは、鶴が馬になるか」
    「それはそれで驚きだな。首が長いのは一緒だが、さて、翼はどこから生える? 蹄はどこについている?」

     鶴丸のふざけた物言いに、三日月は鶴と馬の合体した謎のいきものの姿を想像して思わずふきだした。一度笑ってしまうと笑いの波は引かず三日月はそのまま腹を抱えて鶴丸が若干引くくらい笑った。

    「う、馬面の鶴丸……ぶふっ……」
    「ちょっとまてなにを想像しているんだきみは」

     笑いをなんとか収め、三日月は浮かんだ涙をふきふき顔を上げた。一度笑ってしまえば先ほどの混乱や困惑はどこかにいってしまった。鶴丸の言いたいことは、結局つまりはよくわからないが、まあ三日月にとっても悪いことではない。三日月とて、鶴丸と過ごす時間はかけがえなく楽しい時間なのだ。

    「よいだろう、この戦が終わったら、最後の別れまで俺はお前のものになろうか。お前を喪うのはこの本丸にとってとてつもない損失だ」
    「本丸だけかい?」
    「友人としても、惜しいな」
    「はは、そうだろう。じゃあ約束だ」

     鶴丸は辺りを見渡し足元にあった雑草を引っこ抜くと、恭しい手つきで三日月の左の薬指に結んだ。

    「んん、これはあれだな。この間あるじと見た映画に出てきたやつだ」
    「そうだな。プロポーズじゃあないが、何か形式をとったほうが約したものは破れにくいだろう」
    「未来の時を予約するという時点では一緒か」
    「はは、そうさ、予約だ。最後の日まで俺はきみの隣で戦い抜こう。だから」
    「…病める時も健やかなるときも、というやつか?」

     そういうと鶴丸は少しだけ変な顔をした。

    「そうなると、やっぱりこれがプロポーズみたいになっちまうが」
    「ううん、そうか、少し違うか」
    「ま、いいさ」

     鶴丸はにんまりと笑った。

    「楽しみが出来た。これで最後まで、やりきれる」
    「そうか、それはよきかな」

     遠くでおおい、と呼ぶ声がする。次の戦場まで跳ぶのだろう。
     じゃ、行くか、と鶴丸が声をかけ、三日月もまた頷いて、ふたりは隣り合って戦場を進んだ。
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    Replies from the creator

    tonight_trmk

    DOODLEつる♂みか♀
    現パロ、転生(要素はあんまりない)
    清光が巻き込まれているようないないような
    国民栄誉賞は辞退されました ほい、と渡されたプラスチックのボトルを鶴丸はまじまじと見つめた。
    渡した張本人は、「それでは頼む」とばかりに背をこちらに向ける。
    真っ白な裸の背である。華奢な肩、細い首。短く切りそろえた青い髪と項から下、すうとうつくしい背骨が腰まで通っていて、思わず指で辿りたくなる。衝動をこらえてため息をついた。

    「きみな」
    「うん?」

    今日はこの背中の主とデートの予定であった。
    朝10時に駅前で待ち合わせて、電車に乗って海近くまで。そこそこおおきな水族館でゆっくり魚やクラゲやイルカのショーを楽しむ。昼は館内のレストランでよいだろう。魚を見た彼女が「魚料理が食べたい」と言い出すことは目に見えているのでもちろんそこも視野に入れてレストランのメニューもチェック済みだ。時間があれば海沿いの公園を散歩がてら歩いてもいいし、近くにおおきなショッピングモールがあるからそこに立ち寄ってもいい。夜は以前彼女が食べたいと言っていた小籠包が美味しい中華料理屋を予約してあるし、その次の日の予定は何も入れていない。彼女の予定もなにもないはずだ。どこかで泊まるもよし、鶴丸の自宅へ行くもよし、なんなら彼女の部屋に行くのも吝かではないという万全の状態である。今朝は朝6時には目を覚まし、軽く体を動かしてシャワーを浴び身支度を整え、天気予報を確認し手荷物をチェックし、さて少し時間が出来たから早めに駅前のコーヒーショップで時間でも潰すかとスマホを手に取ったところで「少し困ったから、家に来て欲しい」と彼女から連絡が来ていたことに気がついた。
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