36 鍾魈「魈、〝いけないこと〟をしてみないか?」
鍾離の暮らす家、璃月の城下に呼ばれた魈が告げられたのは、かなり曖昧な提案だった。
時刻はそろそろ日付を変える所まで迫っており、周辺の家々からは灯りが消えていく。この部屋もそうなるはずだが、家主はまだ、灯火を消す素振りは見せていない。
「いけないこと、ですか」
「そうだ、いけないことだ。調理場に行くぞ」
言われ、魈は大人しく鍾離のあとを着いて行く。歩くたびにゆらゆら左右に踊る鍾離の髪を眺めていると、目的地の調理場へはすぐに到着する。調理器具は上下の収納棚の中にあり、食器類はガラスの張られた戸棚に収まっている。数は多くないが、ひとつひとつが丁寧に扱われているだろうことは一目でわかった。
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