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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    しょしょドロライ19回目
    童話「鶴の恩返し」

    #鍾魈
    Zhongxiao

    ヤマガラのおんがえし むかしむかし、あるところに、魔神モラクスが住んでいました。モラクスは人間に興味を持ち、もっと知りたいと考え、普段は人間の姿に化けて街の外れに一人で暮らしていました。
     ある雪の降る夜、モラクスが雪を踏み締め散策していると、か細い鳥の鳴き声が聞こえてきました。
     声の主の所へ行くと、声の主は小さな翡翠色をしたヤマガラでした。足枷を付けられ、鎖で木に繋がれておりました。
    「……これは、ただの足枷ではないな」
     他の魔神の気配を感じたモラクスは、足枷をじっくり見ました。ヤマガラはここから動けないように呪詛を掛けられていました。足からは血が流れ、白い雪を朱に染めていました。この寒空の下でこのように放置されていては、そのうちヤマガラは息絶えてしまうだろう。モラクスはそう思い、足枷を手刀で叩き割ってヤマガラを救い出しました。足の治療も施し、自身の加護をつけた後に森へ帰してあげました。
    「悪い魔神に捕まらぬよう、気をつけるんだな」
    「……ぴぃ」
     ヤマガラは一言返事をして頭を下げ、森に帰って行きました。

     コツコツ。
     それから数年経ったある日のこと、モラクスの家のドアを叩く人陰が見えました。
    「何か用か?」
     モラクスの家に来る知人など滅多にいなかったので、少し警戒しながらモラクスはドアを開けました。すると、そこには自分の背丈より随分と小柄な、琥珀色の瞳をした少年が立っていました。
    「あ……旅の途中で……道に迷ってしまったのですが……層岩巨淵はどの方角でしょうか」
    「ほう。一人で旅をしているのか?」
    「はい。我は、兄弟を探す旅をしています」
     層岩巨淵と言えば、一度迷うと出られないといった迷信もある場所です。そのような所へ、もしこの少年の兄弟が行ったのならば、探すのは容易ではないとモラクスは思いました。
    「……今日は夜も遅い。良ければこの家に泊まっていくといい」
    「しかし……」
    「俺も久しぶりの来訪者に嬉しくなっている。良ければ話し相手になって欲しい」
    「……はい」
     モラクスは少年を家の中に招き入れました。少年の名は魈と言いました。モラクスは魈にご馳走を振る舞い、この辺りの地域のことをそれはそれは詳しく話をしていたのですが、魈はずっと微笑みながら頷いてくれていました。それに気を良くし、どうせなら泊まっていけば良いとモラクスは言いました。魈は小さく頷いてくれました。
     魈の寝る部屋を作り、モラクスはそこで旅の疲れを取って欲しいと案内しました。魈はお礼を言い、部屋に入って行きました。
     次の日の朝、モラクスが起きる頃には、魈はもう起きていて、居間の隅に座っていました。手には綺麗な翡翠色の布を持っており、お礼にどうぞとモラクスに差し出しました。モラクスはこのように綺麗な布を見た事がなく、早速自分のコレクション棚に飾り、しばらく眺めていました。
     その日もモラクスは魈と過ごし、良ければ今日も泊まっていけば良いと言うと、魈はまた頷いてくれました。
     次の日も、魈は綺麗な翡翠色の布を持ってモラクスが起きてくるのを待っていました。この布はどこから持って来ているのかと尋ねましたが、魈は答えてくれません。
    「モラクス様、我の寝泊まりする部屋を用意してくださりありがとうございます。しかし、夜は決してこの部屋を覗かないでください」
     モラクスは深く頷きました。モラクスは、寄り添うようにこの家にいてくれる魈に、すっかり心を奪われていたのです。
     魈は日毎に綺麗な翡翠色の布をモラクスに渡してくれます。モラクスは、この布で作った衣服を魈に着て貰えれば、さぞ似合うだろうなと思いました。
    「少し街へ行ってくる」
    「はい、モラクス様。お気をつけて」
     モラクスは魈に貰った布を持って街へ出掛けました。魈の背丈、作りたい衣装などを伝えると、職人はこのような上質な布は見た事がないと、三日三晩かけて衣装を作ってくれました。
    「魈、ただいま帰ったぞ」
     数日ぶりに家に帰ると、家の中に魈の姿はありませんでした。
    「魈……どこへ行ったんだ……魈……」
     仕立てて貰った衣服を抱いて、モラクスは悲しみに暮れていました。すると、家の裏から、か細い鳥の鳴き声が聞こえました。
    「ぴ……」
     それは、翡翠色をした、羽が少々抜け落ちているヤマガラでした。足枷を付けられ、木の枝に逆さ吊りにされています。
    「お前は……」
     数年前に会ったヤマガラにそっくりだとモラクスは思いました。急いで足枷を外し、胸に抱いてやります。ヤマガラは小さく丸まり、息をしていました。
    「モラクス、一度ならず二度も邪魔をしたな」
    「このように小さき生き物に無体を働くとは、相変わらず趣味が悪いな」
     突然闇の中から魔神が現れ、モラクスに話し掛けてきました。
    「そのヤマガラもお前の弱点を探ろうと送り込んだのに全く仕事をしなかった。ヤマガラもろとも、お前を消し去ってやる!」
    「それはこちらの台詞だ」
     魔神の手のひらが光を放ち始めましたが、モラクスが手のひらを握り締めた瞬間、魔神は岩に捕らわれ、圧縮され、あっという間にこの世から居なくなってしまいました。
    「お前は……魈……なのか」
    「……」
     モラクスがヤマガラへ話し掛けると、ヤマガラはしばらく沈黙した後に、少年の姿へと変えました。
    「我は……あの時助けていただいたヤマガラです……」
     モラクスは、なぜ先ほどのヤマガラの羽が抜け落ちていたのかわかりました。なんと、魈の羽から作られていたのです。
    「やはり……お前は、あの魔神に捕らわれていたのだな」
    「はい……しかし、ヤマガラだと正体がわかり、魔神の手先だと知られた以上は、もうお傍にいることは敵いません。層岩巨淵へ行こうとしていたのは本当の話です。ここを離れ、旅立とうと思います」
    「俺も行こう」
    「しかし……」
    「俺も魔神だ。お前が俺のことを信じられないのなら話は別だが、そうでないのならばまた共にいて欲しい」
    「モラクス様……」
    「お前の為に衣服を作ってもらった。せめて着てくれないか」
    「…………はい。ありがとうございます」
     モラクスは魈を家に招き入れ、魈に翡翠色の衣装を着せてやりました。
    「うむ。とても似合っている。これからはもう布を作らなくていい。ただ傍にいてくれないか」
    「……はい」
     魈は小さく頷き、その綺麗な琥珀色の瞳からポロポロと雫を溢れさせていました。
     それからというもの、モラクスと魈は、いつまでも、いつまでも、寄り添うように幸せな日々を送ったそうです。
     ──めでたし、めでたし。
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