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    800文字(前後)チャレンジ11
    鍾魈 パスタの話

    #鍾魈
    Zhongxiao
    ##800文字(前後)チャレンジ

    11 鍾魈土曜日、正午を少し過ぎた頃。
    鍾離と共に暮らしているマンションのキッチンで、魈は乾麺のパスタを茹でていた。
    鍾離は用事があるとのことで出掛けていて、夕方まで戻らないと聞いている。夕飯は一緒にできるから、と言い置いて出ていったのは九時頃だった。詳細は聞いていないが、仕事の関係もしくは近隣住人の相談役を買って出ているのだろうと推測する。幅広い知識と圧倒的な記憶力は今世でも健在で、それらに頼る人間もまた後を絶たない。そのことは魈にとっても誇らしいが、一方でどことなく寂しさを感じることもあった。
    誰からも好かれる鍾離の周りには好意を寄せる人も多い。自分もそのうちの一人だが、いつかその群れにのまれて一個体として認識されなくなるのではないかと、薄暗い気持ちになる。
    俯きがちになったところでタイマーが鳴る。またいらぬ想像をしてしまったと切り替え、麺を湯の中から取り出した。余分な水を切ってから皿に盛り、用意していたレトルトのパスタソースをかけていく。今日の味はボロネーゼ。数日前、スーパーの特売で買ったものだった。
    カトラリーを掴みダイニングテーブルにつく。興味はないが音は欲しくてテレビをつけた。さっそく司会の男が今週のエンタメ情報を喋り出し、話題の映画の紹介をしている。
    ぼんやり眺めつつパスタを一口頬張ると、少し濃い味付けが広がった。水を飲んで薄めつつ、黙々と麺を巻いて口に運ぶ。
    一昨日食べた鍾離の作ったボロネーゼ……その味を思い出してしまえばなおのこと、あまり口に合わないなと率直な感想を抱いた。比べることもおこがましいが、なんとなくこの味を選んでしまったのも、今鍾離が家にいないせいなのかもと目を細める。
    女々しいものだ、ともう一口食べ進めようとしたら、玄関の開く音がする。まさかと思って席を立ち、急いで音のした方へ向かうと、そこには確かに鍾離の姿があった。
    「お、おかえりなさいませ鍾離様。あの、ご予定は……?」
    「ただいま、魈。それが思っていたよりスムーズに終わってな。昼も誘われていたが、せっかくの休日だ。お前と過ごすことを優先したくて帰ってきた」
    「さ、ようで」
    全身に喜びが広がっていく。なんとなく落ち着かず言葉も途切れ途切れだった。靴を脱いでスリッパを履いた鍾離がふと何かに気づいて魈をじっと見つめると、その視線に顔をあげた魈が首を傾げる。
    「なにか……?」
    「ん? ほら、ここ」
    「え、……んっ!」
    「ん……ボロネーゼ、の味か?」
    着いていたぞと口端をトントンと指差して、鍾離は朗らかに笑ってリビングへ向かう。一瞬なにが起きたのかわからずにいたが遅れて状況を理解すると、頭が茹って頬まで赤く染まっていった。
    心臓に悪い。口付けられたのかと思って、変な声まで出てしまった……恥ずかしさで混乱しながらも、その心地は悪くないと思える。むしろ嬉しくなってしまって、仕方がなかった。
    鍾離の後を追ってリビングに戻る。先程まで側にあった寂しさの影はすっかり、消えてなくなっていた。
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