マルコBD「なんだかんだこの船って宴多いよな?」
賑やかな雰囲気に少し疲れて甲板の端で煙草を蒸して、楽しそうなクルー達を遠巻きに眺めていた。大分酔いが回っていたのか、突然かけられた言葉に反応が遅れてしまった。
声の方をみるといつの間に来たのかエースが欄干に脚を乗せてこちらをみている。
そんなところに座っては危ないと何度注意すれば聞き入れるのだろうか、少し諦めた気分で今日もまた危ねえと言えば大丈夫だと返ってくる。
「今日はなんの宴なんだ?」
「あぁ…今日は誕生日会だ、てか先月もあっただろい?」
エースが船に乗って半年近くは経つ、毎月まとめて誕生日のクルーを祝う宴は開催されている。先月もたらふく肉を食べていた気がするが、いったいなんだと思っていたのだろうか。
「へェ、飯が豪華だなってくらいしか思ってなかった。まとめてやるんだな…」
「まぁ、大所帯だからねい。誕生日とかこつけてただ騒ぎてえのもあるが…」
いい年をしたおっさんが誕生日をお祝いしましょうって言うのもなんだか可笑しい気がするが騒ぐ口実にはちょうどいい。
「…なんかいいな、こういうの」
葡萄酒をあおり、クスクスと楽しそうに笑っている。
「で、今月は誰が誕生日なんだ?」
「あぁ…今月は俺とイゾウと…」
連々と今月の誕生日のクルーをあげていくと、エースは口をあんぐりと開けて間抜け面を晒す。
口端から溢れた葡萄酒を汚ねぇと注意して指で拭ってやると口に溜まっていた肉を慌てて咀嚼して飲み込んだ。
「マルコ今日の主役じゃんか、こんなとこいていいのか?」
「いいんだよい、誕生日なんて口実だからよ。貰うもんも貰ったしな」
そう言って手に持っていた酒瓶を振る。先日、命知らずにも襲撃してきた敵線から奪ったここあたりでは手に入らない上等な酒。
「お誕生日様は宝物庫から好きな酒を貰えるんだよい。」
誕生日の特権だと笑えばずりぃと返ってくる。
「でもまぁ、この度はお誕生日おめでとうございます」
「ハハッ、やけに丁寧だねい。」
ニカっと笑う顔が眩しくて、まぁ正確にはあと何日かあるんだが言わなくてもいいだろう。素直にありがとよいと返して、新しい煙草を取り出して咥えると目の前にエースの指が差し出される。
「そうだな、お誕生日様だから特別に火つけてやるよ。」
「へェ、ではありがたく…」
楽しそうに笑うエースの指先に炎が灯り、ゆらりと揺れる。ありがたく火を頂戴して肺いっぱいに煙を吸い込むといつもより格段に美味い気がした。
「来年は当日につけてやる。」
「楽しみにしてるよい。」
なんなら今年も当日よろしくなと笑うと前祝いだと返ってきた。
【いつかの10月5日】
並び建つ墓石に酒をかぶせて宴の準備をする。
「やっぱりだめだねい…」
火をつけないまま煙草を咥えていたから、フィルターはすっかり水分を吸い込んでしまった。諦めてエースの墓石の前に座ると死角から指が差し出される。
船を降りてすっかり腑抜けてしまったかと後を振り向くとそこには黒いハットを被った青年がいて、少し困ったように笑っていた。
「なんだか、エースが今日ここに来ないといけないって言ってる気がして…」
「火、いりますか?」
空いた手で頬を掻いて、火がないのかと思ってと差し出された指に炎が揺らめく。
(あぁ…今年もまた…)
「…ありがとよい。」
今年の煙草も格段に美味かった。
【ワノ国編あたりの10月5日】
「鳥のおっさん今日誕生日なのか?!」
なぜそんな会話になったのか忘れてしまったが話の流れで誕生日だと言うと驚いた顔をしたエースの弟は宴だと騒ぎはじめた。
麦わらの船のコックが船長のわがままだから付き合ってくれと笑うのでご相反に預かることにして宴に参加する。
こんな賑やかな誕生日はいつ以来だろうかとどこか懐かしい気持ちで酒を煽っていると隣にエースの弟が座ってきた。
「おっさん、楽しんでるか?サンジの飯はうめぇだろ?!」
ニシシと嬉しそうに笑うので素直に美味いと感想とお礼を述べると満足そうに頷いた。あぁ、そうだ大事なことを忘れていたと大きな声で言うもんだからどうしたのかと思わず咥えていた煙草を口から離す。
「この度はお誕生日おめでとうございます!」
ニカっといつか見た同じ表情で笑うものだから思わず目の奥が熱くなり俯いてしまった。
今日は煙草の煙がやけに目に沁みる。
歳をとると涙脆くなっていけない。
※丁寧なご挨拶はダダンの教育の賜物だと激しく私が萌えるので(ダダンの誕生日は手下たちが"お頭、お誕生日おめでとうございます!"って毎年祝う仲良しダダン一家)