厄日なコラさん:出会いの日声を掛けたのは気紛れだった。
運よく診療時間内に診察が終わり引き継ぎも滞りなく終わり早く退勤出来た、明日は非番、いつもより早い時間から飲むのも悪くない。
軽く腹拵えをしてからいつものバーに入ると、早い時間だからか店内はまだ客も少なく手前の席に1人だけ。手前の席に座る初老の男性はこの店の常連で確か近くに店があるらしく開店前に寄っていると聞いたことがある。もう少しで開店時間なのかいつも締めに頼むと言っていたお湯割りを呑んでいた。軽く会釈して後ろを抜ける。
気に入っている奥の席が空いている。今日はついてるなと思いながら座ると程なくしてボトルが用意される。【ブッカーズ】マスターに美味しいと勧められていれたボトルだが当たりだった。入荷が未定だと言うので2本キープさせてもらい、普段はいつものボトルを飲んでこちらは少しずつ大事に飲んで楽しんでいた。
今日は自分へのご褒美にこの一杯からスタートしようと濃いめでソーダ割を頼む。喉も潤って2杯目はロックにしようか、またまたソーダ割でもいいなと迷ってるところに入り口のベルが鳴る、席ひとつ開けた場所におしぼりが出される。チラッと隣に視線をやると体格のいい男性が席に着いて早々酒の並んだ棚を眺めていた。
見かけない顔だがこの店ははじめてだろうか、年は自分より少し上くらいか金髪の癖っ毛に隠れた瞳は少し鋭い。ブッカーズと聞き慣れた銘柄が聞こえてきた。
残念そうに肩を落とす男性が少し可愛くみえる、哀れに思い声を掛けてしまった。
普段なら声などかけないと言うのにまだ一杯しか飲んでいないのに酔いが回っていたんだろうか。
(今日はツいてる日だから幸せのお裾分けもいいだろう)
嬉しそうに礼を言う男性に声を掛けて正解だったなと笑みがこぼれた。