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    ametsuji_uz

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    ametsuji_uz

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    2022年ハンマチャンお誕生日おめでとう~!
    幹部軸です。
    これの再録含めて12月11日に何か出せたらなという気持ちはある。

    #稀半
    thinAndHalf

    あなたとならどこまでも 反社特有の誕生日会というのは、単にお祝いだけが目的ではない。ムショ内に服役中の奴らに自分達は元気でやっているからそっちは『お勤め』を頑張ってほしい、お前らのお勤めのおかげで俺たちはうまくやっているから刑期が伸びないよう早く帰ってこいよ、というメッセージも含んでいるという。ただ獄中に伝わるようなニュースになるのは大抵代表クラスの誕生日会だ。つまり幹部の一人である俺の誕生日会なんていうのは、形式ばった義務的な食事会に過ぎない。

     祝われる気のない俺と祝う気のない周りの連中で行われる、形式だけの誕生日会なんて白けたものにしかならない。ぬるくてだるい空気を日本酒で飲み流すだけの時間が過ぎていく。貸し切った料亭は東卍の息のかかった店で、東卍が運営している銀座や六本木のクラブからナンバーワン嬢たちが駆り出されて、代わる代わる俺にお酌をしていく。俺にしなを作ったところで新しい店を任されるわけでもないことはわかっている理解のある嬢たちだ。適度な距離感でビジネスライクに笑顔だけ向けていくところは流石だ。
    「(それにしても……)」
     隣に座る稀咲の機嫌が、ずっと悪い。時計と俺の酒量を見比べては、ため息ばかりついている。帰りは部下に運転させるし、そもそも俺が一応主役なんだから、飲まないわけにはいかないだろう。女にお酌されているのが気に入らないのか。
    「………………ちょっと、いいか」
     ついじっと稀咲を見ていた俺の視線に気が付いたのか、稀咲は眉間の皺をさらに深くして、俺に問うた。招く手に誘われるまま後ろをついて行き、座敷を立ち、廊下に出て、靴を履いて外に出た。
    「…………悪いな、主役なのに」
    「構いません。稀咲さんのお誘いですから」
     ケーキの蝋燭を吹き消すようなサプライズがあるわけでもあるまい。ほぼただの食事会と化した今更、中座したところで誰も気にしないだろう。

    □□□

     ついて行った先にあったのは、銀座の中心にある地下駐車場だった。料亭からはほんの徒歩で五分ほど。ジャケットのいらない気温でよかった。稀咲は苦虫を噛み潰したような顔のまま進んでいく。地下駐車場の低い天井に、消えかけの蛍光灯が瞬いている。
    「…………これ」
     歩みを止めない稀咲が振り向きざまに何か放る。慌てて受け取ると、それは車のキーだった。羽根のついた『B』のエンブレム。運転しろってこと?俺、酒飲んじまったんだけど。しかも結構な量を。そこではたと気が付く。BはBでも、ベンツのロゴはBじゃないんだな、みたいな会話を昔したことがある。稀咲の愛車はベンツで、Bのロゴはベントレーだ。稀咲、ベントレーなんて持ってたか?
    「…………………それ」
     ぶすっとした顔のままの稀咲は言葉少なだ。指さした先は駐車場の一番奥の壁際。確かにベントレーが停まっていた。ベントレーのフライングスパー。確か、都内で一戸建てが買えるくらいの値段のやつ。安っぽい蛍光灯の下に晒すには勿体無いくらいの車体が、艶やかに輝いている。
    「……やる」
    「えっ」
    「やる。誕生日だろ」
     そういう言葉の語尾に、どうにも苛つきを隠せていない。そのままタイヤに入ったBのロゴを蹴り上げかねないくらいだ。稀咲が頭をがしがしと掻く。セットした髪が乱れて数本、額に落ちた。
    「…………ありがと……な?」
     素直に受け取っていいかもわからない態度に、とりあえず礼は伝えておく。稀咲は相変わらず顔を歪めたままだ。眉を顰めて曇った顔を隠しもしない。もう一度車を見る。フロントに輝くエンブレムに、特徴的な丸いライト。左ハンドルのカスタムに、窓はスモークがかかっている。そして何より……
    「すげえ色、な」
    「……………‼︎」
     稀咲の顔が鬼気迫るものになる。ここか、逆鱗。全ての元凶。今日一日機嫌が悪かった原因。稀咲がこれ以上ないくらいの顰めっ面になり、眉間に刻まれた皺がさらに深くなる。こめかみを押さえているということは、奥歯を噛み締め過ぎて頭痛が起きているんだろう。でも触れざるを得ないだろ、これは。

     紫。ボディーが紫なのだ。メタリックパープル、ていうのか?よくある黒が光沢の加減で紫に見えるだとか、紺の派生みたいな紫どころではない。目が覚めるような紫だ。このまま晴海通りにでも出ようものなら、二度見を含めれば十人中、十五人くらい振り向きそうな色だ。安っぽい蛍光灯の下にもったいないくらい輝いているのは、熟練の手業で塗装されたであろう、メタリックカラーの紫なのだ。

    「すげえな。オーダーだろ?これ」
    「…………ああ。納車まで一年近くかかった」
     浮かぬ顔のまま長い長いため息を吐き出した稀咲は、その渋い顔のまま口を開く。
    「お前、乗ってただろ……あの、単車の頃。こういう紫の……」
    「あー懐かしい。三段シートもこういう色にしてたな」
     先輩から譲り受けた単車に、稀咲を乗せるために三段シートを取り付けた。車体がちょうどこんな感じのメタリックパープルで、それに合わせて紫のヒョウ柄のシートにしたんだっけ。
    「……だからッ……この色にし……クソッ」
     怒りがまた込み上げてきたのか、そのままボディを殴りかねない勢いで、ぶるぶると拳を握る。新車納品だろ、これ。最近、身体を鍛える名目でボクシングのスパーリングをやってる稀咲が殴ったら、結構な凹みができるぞ。そしてこういう車はパーツごと交換になるから、修理代はとんでもない額になる。
    「……ディーラーに、三回くらい、確認された」
    「あんまりない色だもんな」
    「でもお前が……」
    「……俺が?」
     そこで、矛先が俺に向くのか?不機嫌な顔を隠さず、稀咲が続ける。
    「お前がッ……あの時……何もいらねえとか……言うからッ……」
     語尾は下を向いた稀咲の口元で消えていく。……言ったっけ、そんなこと。そう言ったら今度は本格的に俺に矛先が向いて、凹むのはボンネットじゃなくて俺の腹になりそうだから、黙っておく。何もいらねえ、何もいらねえ……頭の中で反芻する。何巡かした思考の末、やっと思い出す。

     誕生日か。確かに去年の誕生日、そう言った。

    「俺は……お前が何が好きかとか、何が欲しいとか、未だにわからねえ」
     稀咲はもう乱れた髪を隠さず、こめかみあたりを掻きむしって、車のフロントにもたれかかった。恨みがましい顔。険しさを隠しもせず、こちらを睨む。
    「お前は俺が選んだものしか身につけねえし、物欲めいた話もしねえ」
    「そうだなァ」
    「だから……昔乗ってた単車のこと、思い出して……」
     稀咲が、歯痒さだとか気持ちの置き所のなさだとか、そういう感情を露わにする。こめかみを押さえたまま、ボンネットに肘をつく。怒りを通り越した脱力が合間って、立ってられないって感じだ。
     俺としては笑い出したくてたまらなかった。笑い飛ばしたいわけじゃない。

     純粋に嬉しかったのだ。

    □□□

     稀咲が橘日向にプロポーズして、断られ、その女を殺害するに至ったのは二年ほど前の事になる。十五年の片想いの崩壊は稀咲はとてつもなく疲弊させ、食事も喉を通らないくらい心身に支障をきたした。廃人寸前になりかけた稀咲を既のところで止まらせ、可能な限り引っ張り上げた俺に、
    「最初からお前にしとけば、よかったのか?」
     と、半ば消去法みたいな告白を受けたのが、ちょうど去年の今頃。出会って十二年目にして、晴れて恋人となったわけだ。去年のちょうど今頃だから、今日みたいな俺の誕生日会が数日後に控えていた。その時に稀咲に聞かれたのだ。
    「何か、特別なことを、したほうがいいのか?」
    と。それに、確かに答えた。はっきり思い出した。
    「特にいらない。何もいらない」
     その当時、十五年の片想いが崩壊した稀咲と、その稀咲に十二年片想いしていた俺。晴れて恋人同士となった俺たち。俺が欲しいものなんて、手に入ったばかりだった。

    □□□

     つまり、だ。稀咲は俺の言う『何もいらない』を真に受けた。何もいらないとは言われたものの、稀咲の性格上、何もあげないわけにはいかない。必死に考えて悩みに悩んだ挙句、昔に俺が乗っていた単車のことを思い出した。メタリックパープルの単車。あの色は先輩に譲り受けたままの色だって伝えたら、どんな顔するんだろう。でもあの単車をそれなりに大事にしてたのは、稀咲を乗せるからだ。
     つまり稀咲なりに、恋人になった俺が喜ぶことを考えて、でも俺の昔のことしかわからなくて、それでも今の金銭感覚で贈れるものを考えたわけだ。そして迷走した。ディーラーに三回確認されても、立ち止まれなかった。そして最近になって納車されて実物を見て、あんな苦虫を噛み潰した顔になったんだろう。
     こんなに派手な車に乗ったら、流石に目立ちすぎる。反社会的組織に身を置く者として『ここにいます』と提示しすぎる要素は、なくしておくに越したことはない。それは稀咲が一番わかっているはずだ。それでも恋人である俺に何か贈りたかったのだ。

    「すっげえ嬉しい」
    「……これを、か?」
    「うん。嬉しい。稀咲がくれたってことが、一番嬉しい」
     手元のキーを操作する。ヘッドランプが光って、ガチャリと解錠の音がする。右側の座席のドアを開けて、うやうやしく稀咲を招き入れる。
    「あとは、稀咲とのドライブもついてきたら、最高かも」

     飲酒運転なのは置いておいて、このまま首都高へ走り出したい。単車の後ろじゃなく、隣に稀咲を乗せて。だってこれは恋人からもらったプレゼントなのだ。誕生日くらい、こういうことをしてもいいだろ。
    「思い出の海ほたるにでも流そうぜ。あの時より多分寒くねえし」
    「……そうだな」
     やっと稀咲の頬が緩んで、俺に招かれるまま、助手席に乗り込んだ。



     運転席のドアを開けたら、シートが黒い本革に型押しのヒョウ柄だったから、流石にもう噴き出してしまって、稀咲はまた苦虫を噛み潰したような顔になった。
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    ametsuji_uz

    DONE2022年ハンマチャンお誕生日おめでとう~!
    幹部軸です。
    これの再録含めて12月11日に何か出せたらなという気持ちはある。
    あなたとならどこまでも 反社特有の誕生日会というのは、単にお祝いだけが目的ではない。ムショ内に服役中の奴らに自分達は元気でやっているからそっちは『お勤め』を頑張ってほしい、お前らのお勤めのおかげで俺たちはうまくやっているから刑期が伸びないよう早く帰ってこいよ、というメッセージも含んでいるという。ただ獄中に伝わるようなニュースになるのは大抵代表クラスの誕生日会だ。つまり幹部の一人である俺の誕生日会なんていうのは、形式ばった義務的な食事会に過ぎない。

     祝われる気のない俺と祝う気のない周りの連中で行われる、形式だけの誕生日会なんて白けたものにしかならない。ぬるくてだるい空気を日本酒で飲み流すだけの時間が過ぎていく。貸し切った料亭は東卍の息のかかった店で、東卍が運営している銀座や六本木のクラブからナンバーワン嬢たちが駆り出されて、代わる代わる俺にお酌をしていく。俺にしなを作ったところで新しい店を任されるわけでもないことはわかっている理解のある嬢たちだ。適度な距離感でビジネスライクに笑顔だけ向けていくところは流石だ。
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