金のしずく これは、私が小さいときに、城の大魔道士のおじいさんから聞いたお話です。
この国のちかくの海岸から船を出した、ずっとずっと南にいったところに魔物たちがすむ、小さな島があります。
むかし、ふしぎなしずくが空からその島にこぼれ落ちました。それは水でも石でもない、誰も見たことがない形のないすがたをしておりました。
それを草のしげみのなかから、はじめてみつけたのは、小さな男の子でした。
「ぼくと、ともだちになってよ」
その日から、ふしぎなしずくはぴかぴかと金いろにかがやき、体はやわらかなおもちのようなめずらしい金属となり、男の子と一緒にどこにでも行けるよううつくしい翼がはえました。
朝に夕に、しずくはぴぃぴぃと鳴き、男の子と野や山をあちらこちらと飛び回ります。
やがて男の子がなかまと島を出るときも、きちんとその背中を追いました。
男の子は運命を背負ったふしぎな子で、たくさんの冒険をしました。しずくは、男の子が嬉しいときは、やはり、ぴぃぴぃと周りをはねるようにとびまわり、悲しいときは、ぴぃ、と一声鳴いてその肩にとまっていました。
そしてついに、男の子は空の上に浮かぶ御殿に昇り、大魔王との大きな戦いにいどみました。勇者となった男の子となかまといっしょに、しずくもたち向かいます。このとき、しずくは男の子となかまを危険から守るたびに、目に見えてわからないほどに、ゆっくりと、ちいさく、ちいさくなっていました。
島を出るときは、男の子の頭の上にのってもはみでるほどの大きさだったのが、しまいにはお姫さまの手のひらにのるほどの大きさになっていたのです。
大魔王はしずくのすがたをみると、たちまちおそろしくなりました。しずくは持ち主のねがいをかなえる「神のなみだ」と呼ばれる伝説のどうぐでした。大魔王はしずくをつかまえると、するどい爪を持つ手であっというまにみじんに砕いてしまいました。
しかし、しずくはもはやどうぐではありませんでした。こころをもった男の子のともだちでした。男の子のこころの中でしずくは人間のことばをはなし、そして目になみだをうかべて「さよなら」と男の子のなまえを呼び、空に飛び立ちました。
しずくは、さいごの力をふり絞り、男の子の願いを叶えるために、金いろのかがやく雨となって世界中にはじけとんでいきました。
男の子はその日の明け方、朝日を浴びながら大魔王をたおしました。そして一振りの剣をのこして、空高くすがたを消しました。
しずくと男の子が出あった南の島では、魔物たちが今もたのしく、笑ってくらしています。
〈おわり〉