初めて共に過ごす夜 催眠魔法が切れて、ヒュンケルは目が醒めた。隠し砦の中、隣のベッドにいるはずの奴がいない。
部屋を抜け、門番の目をかわして、少し行くと、森の中で魔槍を傍らに座りこむラーハルトがいた。
「治療は受けたのか」
「何の用だ。無能の従者を笑いに来たのか」
「お前がいないのが気になった」
大魔王は倒れ、勇者は消えた。決して諸手を挙げて喜べない勝利だが、ともかく地上は守られた。砦に帰還後、負傷者の手当が済むと、夜、軽症の兵士には僅かだが酒が振る舞われた。
「命ある者にまずは祝福を」
死力を尽くし、生きのびた兵士たちを配慮した、女王の采配だった。勇者と仲間たちは女王の執務室に入ったまま、長く出てこない。
「人間を守るという竜の騎士の使命を憎む。俺は何故ダイ様を守れなかった。俺を生かしてくださったバラン様にも、申し訳が立たない。明日からでも一人でダイ様を探す」
己を責めるように言葉を口にする。
「あの方こそ、剣を納め、平和を享受すべきなのに」
「ならば部屋で休め。お前も身体を痛めてる」
「一人にしてくれ」
ヒュンケルは、黙って一度ラーハルトに背を向け、自分も少し離れて座り込んだ。
酒が入れば、声はやがて歓声となる。仕方がないことだ。地上は滅びなかったのだから。
「一人にしてくれと言ったはずだ」
「俺だって悔しい。それに、お前。俺が今ここを離れたら、もう戻らないだろう。」
砦からはかすかに、勝利を称える軍歌が笑い声とともに聞こえていた。
《続》