出かける前に 夜が明ける少し前。
毛皮、塩漬けの肉、葉物の野菜と干した果物が少し。広げれば店代わりになる敷布。それから小銭。
ヒュンケルは背負籠に詰めた荷物を確認しながら言った。
「本当に行かないのか」
「今日はいい。刃物の手入れをしたい」
ラーハルトは机に短剣と鉈をならべ、刃こぼれの確認をしている。
「じゃあ、早めに切り上げて日暮れ前までには帰る。たくさん売ってくるから」
「ああ、今日は冷えるから持っていけ」
差し出したのは丸い玉が連なった長いマフラーだ。黒、茶色、灰色と様々な色の毛玉でできている。
「作ったのか」
「鍋にしたウサギたちからの贈り物だ。試しに巻いてみろ」
「温かい。すごいな、お前の手は。なんでもできる」
思わぬアイテムの登場で明るい表情のヒュンケルの顔をじっと見ると、ラーハルトは椅子から立ち上がった。素早く、刃物と砥石をまとめると、壁にかけた外套を羽織った。
「やはり俺もいく。町に一泊すれば帰り道を気にしないですむ。宿が満室なら、町の外で火を焚いて、あるだけの布にくるまって寝てもいい」
「いいな、それ。旅してた時みたいだ」
間もなくして、二つの人影が山道を下る。雲ひとつない空が東から柔らかな赤に染まりはじめた。
《終》