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    ワンライ【カレンダー】
    これからも沢山思い出作ろうね、な🎈🌟です。未来に希望を抱く彼らが書きたかったのです。

    ワンライ【カレンダー】 類はよく、机の上に置いている卓上カレンダーに予定を記入する。手持ちサイズのスケジュール帳をどこに行くときも持っていくのが面倒くさいと思う彼にとって、最も効率的かつ簡単に予定を殴り書きできるからだった。机で作業をしている途中でワンダーランズ×ショウタイムのメンバーから日程に関する連絡が来たときに、すぐに書けるところが利点である。

     ある日の夜、いつも通り次のショーで使う小型の機械をいじっているとき、類はふと、その卓上カレンダーを視界に入れた。

    「……もう3月も終わりか」

     空いている右手でカレンダーをめくろうとしたところで、あることに気がついた。それは、3月のカレンダーが自分の文字で埋め尽くされているという点だった。土日は勿論、公演がない日にも、皆で買い出しに行ったり、映画を見に行ったりと、メンバーとの数々の思い出が文字を通して蘇る。

     最も多く書かれていたのは「司くん」の3文字だった。恋人である司とは休みのたびに遊びに行っていたし、なにより類が「司くんと試したい」と思った演出や実験の全てを予定として記入していたため、「昼休み 司くん」「放課後 司くん」といった、具体的な内容を省いた文章が、特に平日に多く書き込まれていた。

     そういえば、と、類は1月と2月のページも見てみた。そこには3月と同様に、ワンダーランズ×ショウタイムや司との思い出がびっしりと記されていた。大掃除の際になぜか捨てられなかった去年の卓上カレンダーも床から拾い上げて、ペラペラと月日を戻していく。これを捨てられなかった理由がようやく分かった気がして、類はじわじわと込み上げてくる多幸感を全身で受け止めた。

    「……司くん達に会う前と、会った後で、こんなにも違ったのか」

     司と屋上で出会ったあの日を境にカレンダーに記入される文字が増えていることに気づいた類は去年と今年の卓上カレンダーを鞄に入れて、作業に戻った。

    (――大切な思い出は、そう簡単には捨てられないんだなあ)

     類はいつも以上に司に会いたいと思った。どうにかして伝えたかったのだ。卓上カレンダーを見るだけでこんなにも歓喜で満ち溢れてしまう自分の気持ちを。司と過ごす時間がどれほど自分の人生に彩りを与えているかを。

     明日の日にちには「司くん 花見」と、丁寧に記されていた。

    ***

     翌日の朝9時、桜が咲き誇る公園の通りで類と待ち合わせをしていた司は、美しい景色を穏やかな気持ちで眺めていた。

    (まさか類と2人で花見をすることになるとはな。嬉しくて、つい弁当まで作ってきてしまった)

     大きめの弁当箱が入った袋を片手に持ち、付き合い始めてから順調に仲が深まってきている自分達の現状に照れ笑いを浮かべる。

     数日前にここで偶然会ったときには非常に嬉しそうな顔で「実験に付き合わないかい?」と見たことないスピードで駆け寄ってくる類にギョッとした司だったが、さすがに今日は落ち着いてやって来るだろうと桜並木の道を見つめた。

    「……お。類ー!こっちだー!」
    「……!司くん!」

     黙っていれば誰もが二度見するほどの整った顔立ちと大人びた雰囲気をした男でいるというのに、手を振る司を見つけると類の表情は可愛らしい子どものようにパッと明るくなる。その変貌の瞬間をこの目で見た司は妙な優越感で満たされて「やれやれ」と呟き、こちらへ向かってくるのを見守る。

    (…………。歩くスピードがどんどん速くなっていないか?)

     類は駆け寄ってきたときとは違いゆっくりと歩いていたが、徐々に早足になっているのを司は感じ取り、反射的に逃げの姿勢をとった。すると類は「さすがに今日は実験なんてしないよ」と伝えてなんとか司の足を止め、彼のいる場所へと到着した。

    「おまたせ、司くん」
    「……おお……。オレの勘違いでなければ、今日のお前はすこぶる機嫌がいいな?」
    「分かるのかい?」
    「分かる」

     声のトーンが、演出を試したいときと似ているようでなんとなく違う高さだと感じて、司は頷いた。そこまで自分との花見を楽しみにしていたのかと心がじんわりとあたたかくなる。

    「よし。とりあえずあいている場所を探すか。幸い今日はそれほど混んでいないから、少し歩けばすぐ……」
    「ねえ司くん、これを見て欲しいんだけど」

     司の声を遮って、少し大きめの鞄から類が取り出したのは2つの卓上カレンダーだった。花見をする約束をしていたのにどうしてそれを持ってきたのか司には全く理解できず、「は?」と割と低い声が出てしまった。そんな司の困惑を気に留めず、類は今年のカレンダーの3月のページを開いて、司の眼前に広げた。

    「これ、君との思い出で詰まっているんだよ」

     未来のスターである自分よりも輝いているではないか、と司が思ってしまうほどキラキラした瞳で類はそう言った。司は一瞬呆気に取られた顔をしたが、まじまじとカレンダーを見つめて「なるほど」と呟いた。

    「……たしかに、オレの名前がすごく沢山書かれているな……。ああ、水族館にも行ったし、夜景も見に行ったな。……この"司くん 昼休み"というのは……。屋上でのあの実験のことか⁉︎」
    「その通り。実は事前にちゃんと予定をたてていたんだよ」
    「まるでオレが断らないと決めつけているような行動だな……」
    「その通りだろう?」
    「…………まあ」

     照れながら顔を逸らした司を愛おしく思いながらも、類は去年の卓上カレンダーも彼に見せ始めた。

    「君に出会うまでは本当に空白だらけなんだ。ほら」
    「おお、えらい違いだな、これは」
    「……君に出会えたことでカレンダーが思い出で埋まっていったんだと思うと嬉しくなって、君にも見せたくなったんだよ。だからつい、持ってきてしまった」

     「卓上カレンダーという物をここまで慈しみの目で見つめる人間はいないのではないか」と司は思った。そして自分の名前が多く記されていることで更に喜びを露わにする恋人の様子に、自分がどれほど愛されているかを実感できた気がした。

    「改めて考えてみれば、カレンダーはすごいな。記した文字は未来だが、通り過ぎれば過去となる」
    「……未来と今と過去、その全てを司くんと共有した証になるんだね」

     類は、今年の卓上カレンダーの未だ過ぎ去っていない月のページをめくって、「今年はあとどれくらい、君との思い出を描いていけるかな」と呟いた。それは未来の希望とほんの少しの不安を混ぜ合わせたような声で、考えたくもないが訪れるかもしれない「別れ」という最悪の未来を想像したうえのものだった。

    「――類、それを貸してみろ」
    「……?」

     類から卓上カレンダーを受け取った司は、突然思いついた台詞などを忘れずに記録するために毎日持ち歩いているボールペンを鞄から取り出して、今年の12月31日の部分になにかを書き始めた。

    「……よし!」
    「なにを書いたんだい?」
    「フッフッフ……。これだ!」

     勢いよく類の眼前に映し出されたのは、「オレと今年の思い出を語り合う!」という大きく豪快な文字。パチパチと瞬きをして、類は司に視線を移した。

    「オレがここに書いたことは全て現実になるんだぞ!」
    「…………。フフ、本当に?」
    「知らん!だが、きっとオレ達は12月31日にこのカレンダーを1月からめくりながら、あのときはああだった、こうだったと笑顔で語り合うに違いない!」

     「どうだ!」と自信満々に鼻を鳴らす司に心ごと持っていかれて、類は鞄を地面に落とし彼をギュッと抱きしめた。

    「……!?ちょ、ちょちょちょ、待て待て待てい!ここは公園だぞ!?周りにも人が大勢……」
    「皆、綺麗な桜に目を奪われているから、僕達なんて見やしないよ」

     「まあ僕はさっきから君しか見ていないんだけどね」と耳元で囁かれて、司の体温が一気に上がる。

    「お、前は……ッ、よくもまあ恥ずかしいことをぬけぬけと……」
    「フフ。年末に語り合うためには、沢山思い出を作らなければならないね」
    「…………そうだな」

     先程の不安はどこへやら、といった顔で類は愛しい人にすりすりと顔を近づけた。

    「よし、僕はもう一生卓上カレンダーを捨てないことにしたよ」
    「はは、最終的にいくつ積み重なるか、今から楽しみだ」

     類と司は、これからこの卓上カレンダーにどれほどの文字が詰め込まれていくのだろうと気持ちを弾ませながら、しばらく互いの温もりに身を委ねた。
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