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    【再掲】⚠️死ネタ🎈🌟
    大切な人の死を受け入れられない🎈の話。
    ぽいと画像、お好きな方で。

     カーテンの隙間から差し込むあたたかい光に誘われて目を覚ます。起き上がって洗面所に向かう。長い前髪をヘアピンで留めて顔を洗う。寝癖だらけの髪の毛を整える。目尻に赤いアイラインを引く。制服に着替える。リビングに向かい、母さんが作ってくれた朝食を摂るために椅子に座る。
     いつも通りの日々。毎朝やっていることと変わらない。ただ1点だけいつもと違ったのは「大丈夫?」という母さんの心配そうな声。「なにが?」と答えて食パンにかじりつくと、母さんは「なんでもない」と言って静かに笑った。よく分からない。
     「いってきます」と言って家を出ると、寧々が僕を待っていた。「おはよう」といつも通り挨拶をしたけれど寧々の挨拶は聞こえず、代わりに「ねえ」という小さな声が聞こえた。「ん?」
    と返事をして寧々を見ると、彼女は一瞬目を見開いて、俯いた。「なんでもない」と言った割にはなにか言いたげな雰囲気を纏わせていたのが少し気になった。
     いつもの通学路、いつもの光景。けれどなぜか、いつもしていたショーの話題が全く出てこない。寧々も喋らない。彼女といてこんなにも静かなのは初めてのことではないだろうか。ただ、辺りを見渡せばいつも通り鳥達が鳴きながら羽ばたいていて、車が道路を走っていて、サラリーマンがいて、お子さんを幼稚園に送りに頑張って自転車を漕ぐ母親がいて、珍しいことなどなにも起きていない。まるで僕達だけがイレギュラーな存在に思えて不思議な気持ちになった。

     学校に到着して昇降口で靴を履き替えていると、やけにざわついている学生達の声が聞こえてきて、いつもと違う雰囲気を感じた。
     泣いている人。驚いている人。複数の話し声。彼らがなにを言っているのかはよく分からなかった。聞こえない、とか、日本語じゃないから分からない、とかではなくて、単純に耳に入ってこなかった。不思議な感覚に身を委ねながら周りを観察していたら、寧々が「じゃあ」と言って1年生のクラスがある1階の廊下をそそくさを歩いていった。その背中をぼうっと見送っていたら、寧々は途中で白石くんと瑞希に出くわして、2人に抱きしめられていた。寧々の表情は見えないけれど、小さな身体は震えていて、白石くんと瑞希は泣いていた。
     階段を上って2年生のクラスがある2階を歩き、教室に向かう。いつも通り歩いていただけなのに、沢山の視線を浴びた。誰もが僕から距離をとった。ヒソヒソと話す声、両手で顔を覆って泣き出す女子生徒。
     イレギュラーでしかない。こんなの、いつも通りじゃない。いつも通りじゃないのに、ここにいる僕自身はいつもと変わらぬ顔で歩いている。なぜかとても落ち着いていたのだ。
     自分のクラスに入ろうと扉に手をかける。横を見る。最も人が集まっており、最もざわついている場が目に入る。引き込まれるようにそこへ向かう。

     2年A組。その教室の前の廊下。

     足取りはなぜか少し重かった。けれど、止まらなかった。止まれなかった。
    僕が近づくと、話し声はピタリと止み、奇妙な静寂が訪れた。誰も僕に話しかけようとしない。近寄ろうとしない。
    皆の目線が集中していた教室の中を覗く。
     日直と日付けが書かれた黒板。教卓。後ろのロッカー。なにもかもいつも通り。
     いつもと違うのは、1台の机。
     沢山のお菓子。手紙。周囲を囲って手を合わせる人達の姿。そして、花。
     花、花、花。……………………花。



    「本当に死んだんだ。司くん」



     口にした途端、聴覚がなくなった。なにも聞こえない。騒ぎ声も、泣き声も、なにもかも。
     次に、触覚がなくなった。自分がちゃんと2本の足で立てているのかあやふやになって、膝から崩れ落ちる。
     そして視覚が、ほんの少し、なくなった。視界が真っ暗になったわけじゃない。瞬きをするたびに、歪んだ。滲んだ。まるで一瞬で視力が低下したかのような。
     俯いたら制服のズボンが点々と濡れていた。

     イレギュラーなのは最初から僕だけだった。

     だって、仕方ないじゃないか。唐突にこんな事実を突きつけられても、僕の脳はそれを受け止められるほどの許容量はない。あるわけがない。皆みたいに涙を流したり嘆いたりできるほどの実感は湧かなかった。

     ……それじゃあ、どうして僕は今泣いている?

    『――なあ、類』

     声が聞こえた。

    『お前は本当に泣かない奴だな。オレばっかり隣で泣いてるのが恥ずかしくなるじゃないか』

     これは、2人で映画を見に行ったときの記憶。とても感動的なストーリーで、隣にいた司くんは鼻水を流しながら大粒の涙を流していた。

     この時だけではない。嫌なことがあったり、悲しいこと、悔しいこと、嬉し泣きをしてしまうようなことを2人で経験したときはいつだって、司くんだけが泣いていた。

    『どうして類はいつも泣かないんだ?』

     僕はなんと答えたか。糸を辿る。

    『司くんが隣で代わりに泣いてくれるからだよ』
    『はあ?』
    『フフ。まあ、万が一泣くようなことがあったら、その時は君に慰めてもらおうかな』
    『……まあ、背中をさするくらいはしてやろう』

    「――――あ、ぁ、あぁ、ッ」

     もういないからだ。僕の代わりに涙を流してくれる存在が。もう、いないから。
     床にうずくまって泣き叫ぶ僕を慰める人なんていなかった。背中をさすってくれる人なんていなかった。
     困るよ、司くん。僕はこれからどれほど涙を流せばいいんだ。誰に寄り添ってもらえばいいんだ。

     君がいないと、僕は枯れてしまう。
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