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    ma_mental_juju

    @ma_mental_juju

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    ma_mental_juju

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    五悠ワンドロより。
    原作軸。本誌ネタバレあり。
    伏黒と20220319時点で単行本未収録キャラ視点。

    もしもし 空気が振動する僅かな気配に意識が浮上した。元々眠りが深い方ではないし、何より屋根があるだけマシという野宿で熟睡できるほど神経は太くない。隣で寝ていたはずの高速道路でも熟睡できると豪語する同級生の後ろ姿が遠ざかっていく。
     便所だろうと寝返りを打ち再び目を閉じたが、なんとなく気になってしまい、眠れない。体感で十分は経っているというのに戻ってくる気配もない。虎杖の今の実力的に何かあったということは考えづらい。別に連れションをするような仲ではないし、わざわざ追いかける必要なんてない。そう思っているのだが、現在は平常時ではないし、正直なところ、体よりもメンタルが心配ではある。虎杖のせいではない。虎杖のおかげで救われた命だってある。言い聞かせたし、落ち着いているように見えるが、内心は想像するしかない。杞憂ならそれでいい。起き上がると、音を立てないよう、そっと追いかけた。

    「もしもし」

     微かな声が聞こえて、足を止める。そっと覗き見ると、虎杖は誰かに電話をしているようだった。虎杖に家族はいない。善人で誰とでもすぐに打ち解けるのに、誰か特別親しい相手がいるようにも見えない。東京に来てから仙台の昔馴染みに連絡をとっている様子もなかった。高専関係者以外で親しい人物の名前を聞いたこともなければ、連絡をとっている様子も見えなかった。ただ、自分も津美紀のことを特に言わなかったし、もしかしたら、そういう誰かがいるのかも知れない。この状況なら普段とは違い、心配して連絡が取りたくなっても仕方ない。例え相手と繋がらないとしても。
     これ以上盗み聞きするのは野暮というものだろう。足音を立てぬよう、そっと踵を返して数歩。続いて聞こえてきた掠れたその声に、その音に、ぶわりと総毛立つ。聞き間違いだろうと軽く頭を振りつつも、耳を澄ます。
    「ごじょうせんせい、」
     今度こそはっきりと聞こえたその音に、足が縫いとめられたように動かなかった。

     早く、早く。元々余裕のなかったタイムリミットがさらに近づいた気がした。最強でないと虎杖は救われない。俺ではまだ最強に届かない。もしものときは乙骨先輩がいるけれど、それでもやっぱり、虎杖が求めるのは最強なんだ。だから、少しでも早く。
     いつからだ。わからない。電話なんか通じないことはわかっているはずだ。それでもせずにいられないのだとしたら。
     少しずつ壊れていく虎杖を止める術は自分にはない。だから、少しでも早くあの人を解放しなければ。虎杖の心が完全に壊れる前に。

     猫のように静かな足音が近づいてきて、すぐ近くで止まった。とさり、と小さく草の上に腰を下ろす音にゆっくりと目を開く。
    「虎杖」
    「伏黒、ごめん。起こした?」
    「……お前、どこに電話してたんだ」
    「先生にさ、なんかの間違いでもいいから繋がらないかなって、つい。なんか癖みたいになっちまって」
    「……そうか」
     それ以上何も言えない。
     ただ、一人でも多くを救うために五条の奪還は絶対だ。
     
     そして誰よりもお前を救うために。


                   ***


     虎杖と行動を共にするようになって気づいたことがある。時折、スマートフォンをいじっている。誰かに連絡を取ろうとしているのだ。はぐれたという仲間と連絡が取りたいんだろうか。

     まさかこんなところで会うとは思わなかった。こんなクソみたいな状況に訳がわからないまま巻き込まれて、しかも東京で、田舎の知り合い、というか、地元の有名人、西中の虎。喧嘩じゃ負け知らず。かといって、不良ではない。身体能力が半端なく高く、正義感が強いのか、見ず知らずの他人を救うために、高校生にいきなり喧嘩をふっかけてくるような、頭のおかしい中学生。お互い顔見知り程度だと思っていたが、残念ながら、向こうはこちらのことを覚えてはいなかった。認識されていなかったというのが正しい表現かも知れない。

    「電話は通じないぜ」
     わかっていると思うけれど、一応伝えておく。聞かれているとは思わなかったんだろう。弾かれたように虎杖が振り向いた。気配を消すのは、ここで生きていくために覚えた処世術のようなものだ。虎杖自身の警戒が緩んでいるんだろう。この状況の中、警戒は解くべきではないだろうが、人間だもの。仕方ない。だいたい、こいつの戦闘能力の高さを考えれば、よほどの相手でない限り、隙をつくことさえ難しそうだ。とてもじゃないが相手にならないし、相手する気もない。少しはこの中に長くいるから、教えてやれることもあるかも知れないが、こいつにできるアドバイスなんてほとんどないだろうし、必要もなさそうだ。
    「わかってる。サンキュ」
     にかっと笑う顔を見ていると、さっきまでのやけに大人びた表情とは違い、年相応に見える。
    「んじゃ、行きますかー。甘井」
     仕切り直した虎杖の声にさっきまでの弱さを多分に含んだ色はなかった。



    「もしもし」
     聞き逃しそうな小さな小さな囁きなのに、引き裂かれる痛みに耐えるような声だった。恋人や好きな人だろうか。今、東京はめちゃくちゃだから、心配なんだろうな。ただの通りすがりの誰かのために本気で怒れるやつだから、懐に入れた大事な人に何かあったのなら、一番に飛んで行きたいのだろう。状況が許さないだろうけれど。
    「……せんせい」 
     ああ、世話になっている先生が心配だったのか。教師かな。クソばっかりだと思っていたけれど、虎杖のような善人からすれば、恩師のような相手がいるのかも知れない。
     解決して元通りになる魔法なんてないことはわかっているけれど、それでも祈らずにはいられないような悲痛な叫びだったから、聞こえないことにした。

     早くなんとかなればいいな。俺も、お前も、お前の大事な人も。
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    Replies from the creator

    ma_mental_juju

    DONE五悠ワンドロより。
    S(少し)F(不思議)な話、かも知れないし、遠い過去の記憶かも知れない。暑い夏の話。
    サマーバケーション「あっちぃ」
     鬱陶しいほどの蝉の合唱。刺さるほど痛い陽の光。体中にまとわりつく湿気が不快で、五条は顔を顰めた。こんな日に外へなんて出るなんて正気の沙汰とは思えない。任務でなければ絶対に出るもんか。汗でべったりと貼りついたシャツの首元を持ってパタパタと動かしてみるも、暑い空気がほんの少しかき回されるだけで、いいことなんて一つもなかった。

     情報収集が主だったから、昼間の人通りが多い時間に動くしかなく、それなりに目立たないように服装もいつもより身軽にシャツとジーパンにスニーカーとサングラスで無難にまとめている。と言っても、身長と髪と目の色のせいで結局目立つので、たいした意味はない。

     今日はこれ以上の収穫は見込めないだろう。特級呪物の回収が今回の任務で、万が一封印が解けていたときのための保険という名の嫌がらせで五条に振られた。無理無理、今日は無理。伊地知に車を回させようとスマートフォンを尻ポケットから取り出すと画面は真っ暗でうんともすんとも反応しない。電池が切れている、なんて、最強にあるまじきミスである。
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