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    ma_mental_juju

    @ma_mental_juju

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    ma_mental_juju

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    五悠ワンドロより。
    原作軸。アニメ以降のネタバレあり。両片思い。

    香り 最初にその香りを意識したのはほんの些細なことだったように思う。教室で休み時間に雑談していて、釘崎に買い物に荷物持ちとして参加するようにと厳命された。服にバッグ、それに好きなブランドの新しい香水が出たとかなんとか言われて、雑誌を見せられた。それをたまたま通りかかった五条が見て、香水談義に花を咲かせていると思ったら香りの話になった。
    「先生ってなんか甘い香りすんね」
    「そう? 今はお菓子持ってないよ」
    「甘いもんばっか食べてるからよ」
    「そうかなあ」
    「そういう感じじゃなくて」
    「加齢臭ですか」
    「ひどい!」
    「違うと思う。でもこの甘いの俺は好き!」
    「悠仁はかわいいね!」
    「やめなさいよ、淫行教師!」
    「香りなんてするか?」
     くん、と犬のように鼻を鳴らして目の前の五条の香りを大きく吸い込めば、どん!と抱きつかれて、やっぱりふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐった。花のような、爽やかで甘さを含んでいる香りは五条がそばにいるとき、何故か虎杖にだけ強く香った。
     伏黒と釘崎と五条とまだ会って間もなかったけれど、ずっと仲の良かった間柄のようにみんなで笑い合った優しい記憶。

     その後、地下室生活でそれまでよりももっとその香りが身近になった。忙しいながらもしょっちゅう地下室に顔を出してくれていたから、一緒に並んで映画を観たソファや、あまりにも疲れてそうだったから無理矢理押し込んだベッドにまで香りがするようになった。そうしてそばにいるうちに、距離の近さのせいか、自分の服や自分からも五条の香りを感じるようになった。地下室にいる間中、何処にいても五条の香りに包まれているようで、それが当たり前になって、地下室から出て自分の部屋に戻ったとき、違和感を感じたほどだった。それを五条に伝えれば、なんだか嬉しそうにしていた。
    「うわあ、それはクルね!」
    「くる?」
    「まだ、わかんなくていいよ」
     そう言って頭を撫でられて、やっぱり甘い香りがした。
     
               *

    「悠仁」
    「……せんせい?」
     自分を下の名前で呼ぶ相手なんて、亡くなった祖父をのぞけば、五条しか居なかった。ほんの少し前までは。だから、若い男の声に思わず呼びかけてしまったが、違うことはわかっていた。だって、あの懐かしい香りがしない。何処からもしない。自分自身からも感じ取れなくなってしまった。五条と合わなくなってまだそれほど時間が経ったとも思えなかったが、あの優しい日々がずっと遠かった。
     休憩をとっているうちに少し眠っていたらしい虎杖を心配そうに覗きこんでくる相手は敵だったはずなのに、それももう曖昧だ。
    「そろそろ行けるか? もう少し休ませてやりたいが」
    「いや、いい。行こう。脹相」

     休んでいる時間なんて必要ない。一体でも多く呪霊を減らして、それから、先生を……。

     あの甘い香りが香水だったのだろうか。それとも五条自身の体臭だったのだろうか。何故、虎杖には強く香ったのか。何故、五条は嬉しそうだったのか。
     今は確認する術もない。
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    ma_mental_juju

    DONE五悠ワンドロより。
    S(少し)F(不思議)な話、かも知れないし、遠い過去の記憶かも知れない。暑い夏の話。
    サマーバケーション「あっちぃ」
     鬱陶しいほどの蝉の合唱。刺さるほど痛い陽の光。体中にまとわりつく湿気が不快で、五条は顔を顰めた。こんな日に外へなんて出るなんて正気の沙汰とは思えない。任務でなければ絶対に出るもんか。汗でべったりと貼りついたシャツの首元を持ってパタパタと動かしてみるも、暑い空気がほんの少しかき回されるだけで、いいことなんて一つもなかった。

     情報収集が主だったから、昼間の人通りが多い時間に動くしかなく、それなりに目立たないように服装もいつもより身軽にシャツとジーパンにスニーカーとサングラスで無難にまとめている。と言っても、身長と髪と目の色のせいで結局目立つので、たいした意味はない。

     今日はこれ以上の収穫は見込めないだろう。特級呪物の回収が今回の任務で、万が一封印が解けていたときのための保険という名の嫌がらせで五条に振られた。無理無理、今日は無理。伊地知に車を回させようとスマートフォンを尻ポケットから取り出すと画面は真っ暗でうんともすんとも反応しない。電池が切れている、なんて、最強にあるまじきミスである。
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