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    もちこ〜そよ風を添えて〜

    へけ

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    POIPOI 12

    ※前回のSSを読まなくてもわかりますが、一応祓本夏五の続きになっています。
    (前回のはポイピクに投稿してる「祓本密着24時」です

    #夏五
    GeGo
    #リハビリ
    rehabilitation

    「かっこいいって言えよ!」『ええ、そうですね。悟はいつもかっこいいんですよ』
     まただ。
    『はい。ああ、時々は喧嘩して拗ねたりしますけどね。でも基本的にかっこいいですよ、彼は』
     また。
    『え、悟の顔について? んー、高校時代から一緒だからあまり意識したことはなかったけど。当時もかなりモテていたし、かっこいいんじゃないですか?』
     ほら、またそういう。

    「ッあー! なんでだよー!」
     俺はソファーに寝転がってスマホを弄っている傑へと声を荒げた。突然の声に傑の肩がビクリと震えて、ソファーの背もたれに顔を乗せてむくれる俺を振り返る。
    「え、急になに」
    「なんでー! この雑誌でも、ラジオでも、生放送でも〜ッ!」
    「だからなに」
    「俺のことかっこいいっていうんだよ!」
    「え? 悟はかわいいよ」
    「それだよーーーーッ!」

     俺の悩みはもっぱらこれだった。
     あのあとーー祓本密着番組で俺たちの休日が赤裸々に明かされたあと、SNSは荒れに荒れた。それだけに留まらず、どこからか下世話な雑誌が根も葉もないゴシップを出すという話も出てきたため、事態が思わぬ方向に傾く前に俺たちは先手を打つことにした。
     つまり、翌日の生放送で
    「私たち、実は付き合ってます」
    「そ〜いうこと。毎日べったりよ」
     と、互いの肩を抱きながらカミングアウトしたのだ。
     もちろんその日のウェブニュースとトレンドは総なめしたが、最終的にファンの意見は「まあ、夏油には五条しかいないしな」派と「だな、五条には夏油しかいないしな」派が融合し拍手喝采で幕を閉じた。一部コアなファンの間では「傑まじで来世まで愛してるので今日から呪霊です」(俺たちのネタでよく登場する呪霊という架空キャラがいる)という層で密やかな葬式が開かれたらしいが、知ったことじゃない。ともあれ、俺と傑は公認カップル。硝子もご満悦。伊地知は胃薬が手放せない、という日常が戻ってきたわけだが。

     やはり、公認ともなると雑誌の取材や番組での質問は、俺たちの関係について掘り下げるものばかりになった。
    『夏油さんと五条さんの出会いって?』
    『告白はどちらから?』
     なかには、
    『夜って、どうされているんですか?』
     なんて答えたくもない質問が次々と飛んでくる。
     もともとそう言う類の受け答えが不得手な俺に代わって、取材などはほとんど傑が引き受けていたから、持ち前の胡散臭い笑顔とよく回る口でその手の質問もうまく躱していた。
     だが、問題はピンの仕事のときだ。
     とある雑誌で傑のオフショット(抱かれたい男ナンバーワン記念らしい)とともに、ショートインタビューが掲載されることになった。もちろん俺にまつわることも結構聞かれるわけだが傑の回答はというと、
    『悟? 朝はとても強くていつも頼りきりなんです。朝の悟はかっこいいですよ』
    『料理も上手でね、かっこいいでしょ。悟のロールキャベツは絶品ですよ』
     挙げたらキリがないのだが、傑の回答で目に止まったのは“かっこいい”の文字だった。
     俺はひとりきりのオフ日、傑が置いていったその雑誌をパラパラ捲りながら、それはもうめちゃくちゃ感動した。さらに、その晩放送した傑がピンで出演した番組でも、ラジオでも、とにかく“かっこいい”が連発するのだ。
     傑が俺に直接かっこいいなんて、言ってくれた記憶がないのに。まさか。
    「あいつ、恥ずかしがり屋だから面と向かって言えねぇんだな……よし!」
     本当は俺のことをかっこいいと思っているのに、傑は本人に向かって言うことができないでいるのだ。そんなの互いにとって不健康だ。言いたいことはちゃんと言わねば。
     おれはひとり、リビングのど真ん中で思い立って、ある作戦を決行することにした。
    「題して、傑にかっこいいって言わせてあげよう作戦〜!」
     そうと決まれば、善は急げだ。
     今日はラジオの収録を終えて、十二時前には帰ると言っていた。早速思いつく限りの“かっこいい”を実践してやろうではないか。



     時刻は十一時五十五分。
     待ち構えていれば、ガチャリと玄関の鍵を回す音がする。
    「いくぜ! 作戦開始だ」
     俺は急いで玄関まで走り、壁に片手をつけた状態で傑を待った。このまま壁ドンする作戦だ。そして疲れた傑は少女漫画のごとくドキドキして、思わず口から漏らすだろう。甘い吐息と“かっこいい”を。

    「ただいま〜、って。悟なにしてるの?」
    「ん? おかえりハニー。疲れただろ?」
     俺はドアを閉めて立ち尽くす傑をそっと壁へと誘い、顔を挟むように両手を壁につけた。
    「傑。お、か、え、り」
     渾身のキラーフェイスを作って、傑を見下ろしながら囁く。すると傑は一瞬驚いたような顔をして
    「ただいま、悟。ふふ、かわいいことをしてくれるね」
    「え」
    「ごめん、汗臭いだろう。私シャワー浴びてくるから」
     傑は笑いながら俺の腕を暖簾のごとく退けると、そのままバスルームへと消えていってしまった。
    「な、な……」
     俺は壁ドンの体勢のまま、その場に立ち尽くす。
    「なんでだよーーーッ!」
     なんで? あれで落ちないやついる? どう考えても、さっきの俺世界で一番カッコよかっただろ。腰砕けってやつじゃないのか。
     叫んでも返ってくるのはシャワーの音だけだし、もう結論を先に言ってしまうと、その晩俺は傑に腰が立たなくなるまでめちゃくちゃに抱かれたし、喘いだし、かわいいねって百回は言われた。
    「よし……次だ」

     そして翌朝。
     寝起き最悪な傑が目覚める前に起きた俺は、腰の痛みと戦いながら次の作戦を練っていた。壁ドンがダメなら床ドンか? いや、それじゃ同じ展開になる気がする。となるとーー傑が苦手なものをスマートにこなす姿を見せるのはどうだろうか。たとえばまさに今、寝起きドッキリ作戦だ。
    「思い立ったら即決行、よし!」
     というわけで、俺は隣ですやすやと寝息を立てている傑の耳元に唇を当てた。
    「傑、起きて」
    「んっ、んうぅ〜」
    「起きないとさ、」
    「んぇ? さとる、」
    「襲っちまうぞ」
     でた! 渾身の襲っちまうぞだ。今のは効いたはず。俺だって伊達に芸人をやってない。演技力はかなりあるほうだし、恋愛ドラマにだって出たことがある。こういうシチュエーションにはウィスパーボイスの「襲っちまうぞ」が一番効くことなど、この世の誰より知っているはずだ。さあ傑はどうなった。
    「え、」
     俺は自信たっぷりで眼下の傑を見やる。
     すると案の定、傑は瞳を潤ませながら濡れた唇で俺のことを見つめーーていない。
     なぜか急に覚醒した顔で、その瞳には昨晩見せた獰猛さを孕ませながら唇には薄い笑みを浮かべている。
    「おはよ、悟。朝から熱烈なお誘いだね」
    「ん、え?」
    「昨晩のじゃ足りなかった?」
    「あ、いや……え?」
    「ふふ、安心して。いまからたっぷり愛してあげるから」
     言いながら傑は俺をベッドに押し倒して、何度も口付ける。
    「すぐ、ちょっと待て、ッん」
    「待たない」
    「んぁ、ちょ、あッ」
    「ん、かわいい、さとる」
     このあと、昨夜に引き続きしこたま喘がされた俺を置いて、「仕事に遅れるから」とさっさと着替えた傑は部屋を出ていってしまった。

    「なんでだよーーーッ!」
     そして話は冒頭に戻る。その晩、帰宅した傑がソファーでリラックスしている姿を眺めながら昨日実行した作戦を思い出したが、やはり納得がいかない。俺めちゃくちゃかっこいいことしただろ。
    「だからなに」
     背後から背もたれに顔を乗せる俺を撫でながら、傑は半身を起こした。
    「なにに怒ってるの、悟は」
    「なにって、お前ッ」
    「ほら、言ってごらん」
    「なんで、」
    「ん?」
    「なんで、お前インタビューで俺のことかっこいいって言うの!」
     傑に頬を撫でられながら、俺は頬を膨らませた。そんな俺の姿を見て、傑の顔が歪んだかと思うと次の瞬間思い切り吹き出した。
    「えっ、ふふっ、なに、そんなことで怒ってたの?」
    「別に怒ってねえよ」
    「かっこいいって言われるの嫌だった?」
    「違う、その逆!」
    「ちゃんと説明してほしいな」
     説明と言われてしまうと、なんとなく自分から話すのが恥ずかしくなって言葉を濁してしまう。そんな俺の様子に、傑はまっすぐこちらを見ながら優しく問うてきた。
    「ほら、言って?」
    「だって、お前かっこいいとか言いながらかわいいしか、言わねえ……じゃん」
     照れ臭くて言葉尻がどんどん小さくなってしまう。日本語的に成立しているか微妙のワードチョイスだったが、傑は言葉の意味を少し考えて、そしてやがて納得したように「ああ!」と手を打った。
    「だって悟はかわいいから」
    「かっこいいんじゃねぇのかよ」
    「うーん、それはね」
     傑が俺をソファーのほうに誘うように手招きする。俺はそれに従うように、ソファーに寝転がる傑のうえにかぶさるように横になった。顔が近づいて、傑の吐息が頬に触れる。
    「悟にかわいいっていうのは、愛してると同じ意味だよ」
    「え?」
    「だから、猿や一般人に悟がかわいいなんて気軽に言いたくない気持ち、わかるだろ?」
     言いながら傑は俺と目が合うようにじっとこちらを見る。
    「な、お前恥ずかしいやつ!」
    「ふふ、なんとでも言ってくれ。それにね」
     言いながら傑は、俺の腰、胸、そして首から顔にかけて触れて、最後に軽く唇を落とした。
    「悟はかっこいいよ、こんな私の隣にいてくれるんだ。それだけで十分かっこいい」
    「んだよ、それ」
    「いずれ分かるよ」
     そう言われながら、ぎゅっと抱きしめられると、もうなんだかどうでもよくなってしまう。
     結局“かっこいい”んだか“かわいい”んだか、よくわからなかった。でも傑なりの理屈があるらしいし、きっとそれは俺たちにとって正しいことなんだろう。
    「じゃあさ」
     それならば、と思い立ってみる。
    「ん?」
    「俺は傑のことかっこいいって思ってるから〜」
    「そうかい? ありがとう」
    「これからインタビューで、かわいいって言うわ!」
    「それは違う」

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    もちこ〜そよ風を添えて〜

    TRAINING祓本夏五です!
    珍しく酔ってベロベロになった傑を悟が介抱する話。
    ※以前投稿した、祓本密着企画の世界線です!(読んでなくてもわかります)
    馬鹿な恋人「ただいまぁ」
    「さ〜とるっ」
     仕事終わり、月曜の二十二時。玄関でのことだ。
    「悟〜! 随分遅かったじゃないか」
    「うっわ、酒くさ!」
    「え〜、臭くないよ〜」
     祓ったれ本舗という漫才コンビを組んで数年。「漫才界のシンデレラ」と呼ばれた俺たちはデビューしてからトントン拍子で売れっ子になっていき、お笑いの仕事はもちろんのこと、容姿や言動も相まってかラジオ、雑誌、ニュース番組と、朝から晩まで引っ張りだこだった。
     そんなわけで、ピンでの仕事もかなり増えてきた昨今だが、比較的真面目な印象を売りにしている傑と違い、俺は深夜のバラエティやラジオに呼ばれることが多かった。
     朝はニュース番組でコメンテーターとして出演する傑、昼間は二人で生放送、夜はゴールデンタイムの番組にゲストで呼ばれる俺、といった調子で、俺たちが会えるのは大抵昼間だけ。それも現場でようやく顔を合わせて収録して即別行動、といった具合だから、なかなかゆっくりと会うことも難しい。
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    お題【マーメイド/生霊/胸】
    さしす。八百比丘尼を保護しろという任務を命じられた三人のお話です。
    人魚と紫陽花 人魚の呪霊が流す涙を体内に取り込むと、長生きが出来る。
     そんな噂が非合法の骨董マーケットの間で立ったのは、俺たちがまだ高専一年の夏に差しかかった頃のことだった。古式ゆかしい八百比丘尼が現代に現れたのなら、伝承通り肉を食えばいい。でも何故今回は肉でなく涙なのか。俺にはそれが分からず、傑も不思議そうな顔をしていたように思う。
    「それで今回の俺たちの任務は?」
    「八百比丘尼の保護」
    「あぁ、面倒臭そうだなぁ……」
     そんなこんなで、俺は傑と二人で八百比丘尼を探す羽目になったのだった。
     でも、八百比丘尼は、人魚はすぐに見つかった。彼女が自分から、俺たちが学ぶ高専に近づいてきたからだ。彼女は教室で多分涙なのだろう、透明な液体が入った瓶を下げた胸元にナイフを置いて、生霊みたいな顔をして、「もう、私を殺してください」と言った。いや、俺たちが命じられたのはあんたの保護でそういう物理的な殺害じゃない。というか不老不死なのにナイフで刺せば死ぬのか。俺はそれを疑問に思ったが、教室にいる誰もがそれを尋ねなかった。
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    おはぎ

    DONEWebイベ展示作品①
    テーマ「シチュー」教師if
    一口サイズの風物詩 ふと顔を上げると部屋に差し込んでいたはずの明かりが翳り、窓の外では街頭がちらほらとつき始めていた。慌てて家中のカーテンを引きながら、壁にかかる時計に目をやればまだ時刻は十七時を回ったあたり。日没がすっかり早くなったものだと季節の移り変わりを感じる。
     今日の夕食はどうしようか、悟の帰宅時間を思い出しながらテレビに目をやると、そこには暖かなオレンジの光に包まれた食卓が映っていた。
    「あ、そうだ」
     私は冷蔵庫の中身を覗くと、そそくさと買い出しに出かけた。

     ◇

    「たっだいま~」
    「おかえり」
     はー疲れた、と呟きながら悟が帰宅する。彼が帰ってきた途端に部屋の中が賑やかに感じるのは私だけだろうか。少しだけ感傷に浸ったような心地で「急に冷えてきたでしょ」と声をかけると「全然分かんなかった! でも確かにみんなコート着てたかも!」と洗面所から大声が返ってくる。がたがた、ばしゃばしゃ、様子を見ずとも悟が何をしているのか物音だけで手に取るように分かる。これは私の気持ちの問題ではなく、存外物理的にうるさくなっているだけかもしれないな、と苦笑した。
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