路地裏“幽霊っていると思う?”
誰もが一度は聞いたことがあるであろうお決まりの質問。答えは人それぞれだろうけど、オレはいないと思う。だって今まで見たことないし。
「まぁいたら面白そうとは思うけどね〜写真撮れたらインスタ映えしそうじゃない?」
「Cysはなんとなくそういうと思ったよ…幽霊をインスタ映えに使うな…」
ヘラヘラと笑いながら答えるCysにChoirが呆れた顔をした。
幽霊はいるかいないか
今現在様々なものがデジタルと化しているこの世界でも、そんなオカルトチックな話は消えることなく人々の娯楽として楽しまれている。現にMintCandyの3人はつい先ほどまで超人気オカルト系番組の収録にゲストとして参加していた。
今は収録が終わり束の間の休憩を楽しんでいる。
「大体心霊写真なんて撮っちゃった日にはそれこそSNSで拡散されてバズるかもしれないけどさ。でも、それはそれでヤバイでしょ」
手に持っている小説から目を離さずにchoirが話を続けた。
「あー確かにそうだよね〜怖いもんね〜」
Cysも雑誌を読みながら返事をする。
「rockはどう思う?いたら面白いと思わない?」
「んー……正直よくわかんないかな」
その答えにchoirは意外だ、と言わんばかりに顔を上げた。
「え、てっきり「いたら見てみたい〜!」とかなんとか言うかと思った」
「いや、別にいないならいないでいいじゃんって感じだし。それに……」
少し言い淀んだあと、言葉を続ける。
「幽霊っていうのは死んだ人の魂みたいなものだし、なんかそれを見るのって嫌じゃん」
とrockは手元のギターを弾きながら言った。心なしか少し不機嫌なような、この話題に触れたくないような、そんな感じが見受けられた。
「失礼します〜!MintCandyの皆さん〜!車の手配ができたので次の収録現場にお願いします〜!」
楽屋の扉がノックされた後、スタッフの人が扉を開けて入ってきた。
どうやら束の間の休憩は終わりらしい。
「もう休憩終わりか〜今日はスケジュールハードだなぁ〜…」
「まぁいいじゃんCys!次の収録で今日は終わりだし頑張ろうぜ!」
rockが肩をぽんぽんと叩きながら笑いかけてくる。先ほどまでの不機嫌な雰囲気は微塵も見られなかった。
(rockてたまにこういう感じあるよな〜…もしかしてオカルト系苦手?)
たしかに言われてみれば今日のオカルト系番組の収録時もいつもより元気がなかった気がする。
「…うん、張ろっか!」
まぁrockだって怖いものくらいはあるかと特に気にかけずに笑顔を見せる。そして3人は次の収録場所へ向かうため楽屋を出た。
「では本日の収録はこれで終了です〜!お疲れ様でした〜!」
「お疲れ様です〜」
やっと終わったか。Cysは時計をチラリと見る。収録は終了予定時刻を2時間は余裕にすぎ、現在22時過ぎになっていた。
「うっへぇ〜……結構遅くなったねぇ〜……こんな時間になっちゃったら寄りたかった店も閉まってるだろうな…」
「ほんとそれ…もう早く帰って寝たいよ……」
3人とも疲労の色が見えるが、それでもどこか満足げだった。
「よし、じゃあ帰ろう…あ、rockとCys!帰りちょっとコンビニに寄りたいんだけどいいかな?」
「いいよ〜逆にchoirは1人で帰らせると危ないからね…」
「俺も別にいいぜ〜!」
今の収録スタジオがある場所は周りにオフィスビルが立ち並んでおり、夜になると都会と思えないほど暗くなる。そのためか3人はなんとなく一緒に帰るのが恒例になっていた。
スタジオを出て、徒歩5分程度の場所にあるコンビニに向かう。
「すぐ用事済むからCysとrockは外で待っててもいいよ」
「あっ俺は新商品のチョコミントないかさらっと中覗こうかな〜」
「じゃあオレは外で待ってるね〜」
choirとrockは店の中へ入っていき、Cysは店の入り口付近で待ってることになった。
「……にしても暗いな〜…今何時なんだろ…」
スマホで時間を確認すれば22時半過ぎ。この時間だと流石に人っ子1人いない。いや自分はいるけど。
「……あれ?」
そんなことを考えていたら突然、店の右側の路地裏のような場所から幼い女の子の啜り泣くような声が聞こえてきた。
(こんな時間に…?)
気になったCysは路地裏の入り口まで移動して中をよく見てみようとしたが、暗くて何も見えなかった。
「うぅ……」
しかしやはり誰か泣いているようだ。それもかなり小さな声で。
(なんでこんなところに子供が……)
「ねぇ、どうしたの?そこで何をしてるの?」
Cysは路地裏の入り口から泣いている子に問いかけた。
「足…怪我しちゃったの…歩けないの…」
「えっ!?大丈夫?お父さんとお母さんはどこにいるのかな?」
「ぐすっ…わかんない…はぐれちゃったの…」
両親は不在、そして足に怪我をしている女の子が路地裏で泣いている。とりあえず警察を呼ぶべきか?それとも怪我の場合によっては救急車?Cysは1人で考えていた。どっちにしろ女の子のそばに行かないとどうしようもない。
「そっか……それは1人で怖かったね……とりあえずそっちに行くから足の怪我見せてもらってもいいかな?」
そう言ってCysは路地裏の中に入っていこうとした。が、突然右腕を誰かに掴まれて引き止められた。
Cysが振り向くとそこには店から出てきたであろうrockが険しい形相でCysの右腕を掴んでいた。
「えっ、ちょ、どうしたのrock」
「ダメだCys、その子に近づくな」
「どうしたんだよ急に……あの子足を怪我してるって……両親もいないみたいだからなんとかしてあげないと…!」
「ダメだ!!連れていかれるぞ!!」
はぁ?とCysは思った。rockは一体何を言っているんだと。
「いいからお前は店に戻れ!早く!」
「でも……!」
「いいから言うことを聞け!!」
普段温厚なrockがここまで焦っている。なんで?どうしたの?と困惑していると再び女の子の啜り泣く音と声が聞こえてきた。
しかしその声は先ほど聞いた声とは明らかに違う声色だった。
「ね ぇ…… た ス け て く れ る ン で し ょ …… ¿ ネ ぇ……」
女の子の声は助けを求めているようではなく、ただひたすらにCysを"連れ去ろうとしている"ように感じられた。
その瞬間、rockがCysを後ろに押し除け、庇うような形で前に出る。
「失 せ ろ」
rockが普段絶対に使わないであろう言葉を少女?に吐いた。心なしかいつもよりも雰囲気が冷たい気がする。Cysはこの奇怪な状況と訳がわからない恐怖感でただrockの背の後ろで立ち尽くしていたが、rockが言葉を吐いた後すぐに、路地裏の人の気配が消えた気がした。
「あれ、…2人ともそこで立ち尽くして何してるの?」
しばらく無言でその場に立ち尽くしていたが、choirが声をかけてきたことによりその静寂はかき消された。
「!choir…!えっと……」
「いや〜さっきそこに猫がいてさぁ〜!こっちにくるかな〜てやってたら逃げられちゃったんだよな〜!なっCys!」
choirの問いに間髪入れずにrockが話をし始めた。
「えっ…あ、…うん、そうそう!そうなんだよね〜!可愛い猫ちゃんだったよね〜!」
「え〜Cysとrockずるいな〜オレも見たかった〜…」
そう言ってchoirはがっくしと肩を落とした。
ふとrockの方を見ると先ほどまでの険しい雰囲気は全くなく、いつもの明るい穏やかなrockに戻っていた。
(さっきのは…なんだったんだ)
夢と片付けるには現実味を帯びており、現実と呼ぶには奇怪すぎる出来事だった。
「……rock、choir、帰ろうか」
「そうだね。あっ待たせてごめんね」
「全然いいぜ〜!あ〜腹減ったな〜!」
結局何事もなかったかのように3人は帰路についた。
次の日、どうしても昨日の出来事が気になりネットで検索をかけたCysは、数年前からあの地域付近では行方不明者が多発しているのをネット記事で見つけた。
しかも8割ほどの被害者の最後の目撃場所は
(……まじか…)
昨日の例のコンビニだった。