雲ひとつない晴天の空、吹き抜ける心地よい風。今日は絶好のお出かけ日和と言わんばかりの快晴の中、rockは深刻な顔つきで息を切らせながら人気のない道を走っていた。向かう先はだいぶ前に封鎖された廃トンネル。
(……やばい!)
その表情には焦りの色が浮かんでいる。
Cysの身に危険が迫っていた。Cysが今現在いるであろう廃トンネルは有名な心霊スポットで、滅多なことがない限り地元の人も近づこうともしない。
そう。この廃トンネルは"本物"なのだ。しかも相当タチが悪いタイプの。
「Cys」
「ぅわっ!?」
ようやく辿り着いた廃トンネルの、中間を過ぎたあたり。目的の人物はそこに佇んでいた。
よかった。間に合ったみたいだ。安堵したrockはその場で立ち止まり、肩を大きく上下させる。Cysは少しでも到着が遅かったら自分ではもう連れ戻すことはできないほど廃トンネルの内部にいた。
「……rock?なんでここに……」
「そっちはダメだ、早く、こっち」
そう言いつつrockはCysの手を掴んで来た道を走って引き返す。Cysの後方では、もう視認したくないくらいの大量の幽霊やら何やらが蠢いてCysを手招きしていた。早くこのトンネルを出ないと。
「ね、ねぇ……rock……」
「説明は後でする。Cys、絶対に振り向いたり返事をしたりするな。前だけ見て走れ。いいな?」
そういうと、握っている手がさらに強く握られた。rockもさらに握り返す。
大丈夫。絶対に帰ろう。そんな気持ちを込めて。
しかし、しばらく廃トンネルを進みあと4分の1で出口だというあたりで突然Cysが手を振り解こうとしてきた。
「Cys!?」
「は、離せっ!やだ!」
驚きのあまり思わず手の力が抜ける。その隙にCysは繋いでいる手を振り解いて出口とは反対の方向に走り出した。
「落ち着けって!待て!そっちに行くな!」
慌てて追いかけるもCysとの距離はどんどん離れていく。Cysが進む先の夥しい数の幽霊が嬉しそうな顔で手招きをしているのを見て、rockは背筋に悪寒が走った。
(だめだ、連れて行かれる…っ!)
そう思った矢先、突然Cysの姿が見えなくなった。…まるで闇にかき消されたように。
「……え」
一瞬何が起こったのか理解が追いつかずその場に立ち尽くすし、前方をみる。すると先ほどまでいたはずの幽霊たちが一つ残らず消えていた。
連れて行かれた
今までの自分の経験上、その事実は明白だった。
「あ、あぁ…うそだ…嘘だ……!Cys……!!」
連れ帰れたはずなのに、助けられなかった。
そのどうしようもない事実を受け入れることができずにrockはその場にへたりこむ。
どうしてこんなことになってしまったんだ。
自分がもっと早く着いていれば。それとも先に説明をすべきだったのだろうか。いやそもそもあの時手を離さなければ…。
どれだけ悔やんでももう自分ではどうすることもできない静かな重たい絶望感に、知らぬ間に涙がこぼれ落ちる。
そんな様子のrockを嘲笑うかのようにトンネル内の水滴が無駄に音を立てて落ちていった。
この後rockの知り合いの除霊ができる人に来てもらってなんとかするので安心してください
Cysが戻ってこれる保証はないけど