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    現パロ夏五。
    社畜サラリーマンの夏油がある日見つけた喫茶店のマスターを営んでいる五条に恋をして…?というハートフルでほのぼのしたお話(当社比)の続編です。
    前作をご覧になっていない方は是非そちらからどうぞ→ https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19005270

    後ほどピクシブにておまけの話もつけて再掲します。

    イベント開催おめでとうございました!

    ハニーミルクの恋ー2ー■■■



    夕陽が、都会の街を橙色に染め上げている。
    閑散とした住宅街。どんどん幅が細くなっていく道路。利用者のいない静かな公園。
    すっかり見慣れた風景を、夏油傑は今日も歩く。お気に入りの、あの店に行く為に。



    チリンチリン。ガラス張りのドアを開くと入店のベルが鳴り響く。音に気付いたアルバイトの青年が「いらっしゃいませー!」と元気よく駆けてきた。夏油の顔を見るとハッとして「お疲れ様です、お好きな席どーぞ!」と一言付け加えた。彼にはすっかり顔を覚えられていることに気恥ずかしさを感じながらも、夏油は奥のテーブル席へと向かった。

    少し前までは、窓際のカウンター席の方が外の景色も見られるし良いと思っていたのだが、最近はもっぱらテーブル席が夏油の定位置となっていた。その理由は単純に、ここだと店内を一望できるからだ。
    厨房へ続く通路の方をチラリと見ると、一瞬だがスラリとした白髪の長身が姿を覗かせた。今日も顔が見れた…と夏油は嬉しさに胸をときめかせた。

    『喫茶 茈』へ初めての来店からおよそ二ヶ月が経っただろうか。店のコーヒーの美味しさと、それを手ずから生み出す美しいマスターにすっかり一目惚れをした夏油は、以降夕方の仕事帰りに時々訪れるようになった。
    と言っても、頻度としてはせいぜい週に一回行く時もあれば、行かない時もある、といった具合だ。『喫茶 茈』は夏油にとって、仕事で疲れた心を癒してくれるオアシスの場なのだからもっとあしげく通いたい気持ちはあったが、それであのマスターに「常連」認定されてしまったら…という恐れがあった。
    確かに、自分は彼に一目惚れをした身だ。好きになってしまった気持ちに嘘はつかない。しかし夏油はあくまで喫茶店には癒しを求めに来ているだけなので、マスターとどうこうなろうなんて微塵も考えていなかった。
    芸術品のように美しくて幻想的な容姿のマスターを一目見て、彼の淹れたコーヒーを味わって、満たされた心で「明日も仕事を頑張ろう」と気持ちを切り替えて帰宅する。夏油にはそれだけで充分だった。きっと、推しのアイドルに認知されたくない一般人のファンの気持ちってこんな感じなんだろう。

    最も、先程出迎えてくれたバイトの青年には既に顔を覚えられているのだが。彼の仕事はホールがメインなのだろう、夏油が店に行くと大抵は彼が接客を担当していたし、自然と覚えられてしまうのも仕方がないことではある。
    気さくな彼はマスターとも仲が良さそうだし、「あのお客さん最近たまに来るよね〜」くらいの話題にされているかもしれない。だからどうなる訳でもないが、自分の存在が認知されるのは嬉しいようで、しかし恐れ多くて恥ずかしい、複雑な気分だった。

    いやいや、折角来たのだから今は余計なことに頭を悩ませず癒しのひと時を楽しまないと。夏油はかぶりを振り、気を取り直してテーブル脇のメニュー表を手に取った。
    いつもはブレンドコーヒーを一杯だけ頼むのだが、贔屓にしている店なのに毎回コーヒーだけというのも失礼な気がして、今日は思い切って軽食も頼んでみようと決めていた。その為に今日の昼食は軽めに済ませておいたので、空腹と仕事の疲れでいつも以上に夏油の体はクタクタだった。
    だからこそ、今日初めて食べるメニューにワクワクと逸る気持ちが抑えられないのもひとしおで。夏油は早速メニュー表を開いてじっくりと見始めた。

    メニューに乗っている軽食はケーキにスコーン、プリンなどのお菓子系がほとんどだが、サンドイッチやカレーなどの喫茶店には定番な食事もいくつかある。
    今の空腹状態ではケーキやサンドイッチだけじゃ物足りないな。たまには明るい内からがっつり食べてしまうのもアリかな?後で夜に小腹が空くかもしれないけど、ビールとつまみなら家にあった筈だし…でもご飯もスイーツもってアレコレ一気に注文すると作るの大変かな…などと色々頭を悩ませていると。

    (…これ、何だろう)
    ふと目に留まったのは「月替りプレート」というものだった。
    メニューの説明には「その季節にピッタリなお食事3点を一つのお皿に乗せてご提供します」とだけ書かれていた。
    カフェやレストランでよくある日替わりランチみたいなものなんだろう。しかも、プレート料理ならサンドイッチを一つ食べるより満足感が充分にありそうだ。
    よし、試しに頼んでみようか。そうと決まれば、と顔を上げると丁度カウンター側にいたバイトの青年と目が合う。青年は察しよく注文用のメモを片手に夏油の席へやって来た。
    「すみません、この月替わりプレートと、食後にブレンドコーヒーを1つ」
    「はーい、月替わりプレートと、コーヒーですね。食べ物のアレルギーとかないですか?」
    「大丈夫です」
    「じゃあ少々お待ちください!」

    気さくな青年は元気よく注文を受けると、厨房の方へ駆けて行った。夏油はお冷を一口飲みながら、スマートフォンでニュース記事を見つつゆっくりと食事が出来上がるのを待った。

    相変わらず、店の中は閑散としており夏油の他には年配のお爺さんが一人と、スーツを着た三十代くらいの男性客が一人、黙々とコーヒーを飲みながら新聞を読んだりしていた。
    その静かな雰囲気と、控えめな音量で流れるクラシック曲、厨房奥から時折聞こえるバイトの青年とマスターの話し声、そして調理の音…。その全てが重なり合う空間は、夏油にとって居心地が良いもので、食事を待っている時間さえも至福のひと時だった。

    やがて、ふわりと良い匂いが漂ってくる。これはデミグラスソースの匂いだろうか。食欲をそそる香りに、夏油の胃はきゅぅぅ、と空腹を助長させた。
    ああ、どんな料理が運ばれて来るんだろう?ワクワクと浮き足立つ気分でしばらく待っていると。

    「お待たせいたしました。月替わりプレートです」
    「!」
    低いけれど、透き通るような声。バッと顔を上げると、意中の相手が目の前にいた。
    基本は接客メインのバイトの子達が配膳も担当しているのだが、店の中が忙しくない時はこうやってマスターが配膳してくれることもある。それが今日だったようで、夏油は間近でマスターの姿を拝めたことに「なんてラッキーな日だ!」と心の中でガッツポーズをしたのだった。

    マスターは柔らかな微笑みで、出来立ての料理をコト、とテーブルに置いた。
    運ばれてきた大きな皿に乗っていたのは…ほかほかと湯気を立てている焼色が綺麗なホットサンドに、レタスとプチトマトが添えられたポテトサラダ、それから小さめのスープボウルに並々と入った、これまた湯気の立ったビーフシチュー。三品が盛り付けられたワンプレートは、実に彩り豊かだった。
    (わ…すごい、美味しそう…!)
    最近薄ら寒さを感じるようになってきた初冬にピッタリの温かそうなメニューだ。目の前に漂ういい匂いに夏油が目を輝かせた、その時。

    ぐうぅぅうぅぅ~~~……。

    何とも間抜けな音が聞こえた。その出どころはどうやら夏油のお腹からで。空腹で限界だった胃袋は、それを訴えるように音を鳴らしたのだった。
    夏油は慌てて隠すように腹部を抑える。ヤバイ、今のは格好悪すぎるっていうか、まるで食い意地張ってるみたいだろ。もう少し我慢してくれよ、私のお腹…!羞恥心にみるみる顔が熱くなり、今すぐこの場から消え去りたい気持ちに駆られた。

    一緒に大きなお腹の音を聞いていたマスターはキョトン、と呆けた顔をしていたが、やがてふふっと柔らかな笑みを浮かべて。
    「お腹空いてると、鳴っちゃいますよね。僕もお昼前とかよく鳴らします」
    そう、優しく言った。死ぬほど恥ずかしい思いでいる夏油に気を遣ってくれたのだろう。夏油は申し訳なくてより恥ずかしく思う反面、自分のことを気にかけてくれたマスターの優しさが嬉しくて堪らなくもあった。

    「ビーフシチューの器は熱いので、火傷に気をつけて下さいね」
    「あ、は、はい。ありがとうございます」
    「ふふ、ごゆっくりどうぞ」
    もう一度ニコリと微笑んで、マスターは厨房へと戻って行った。情けない姿を見せてしまったな…と夏油は落ち込みつつも、気を取り直して料理が冷めない内に頂こう、とスプーンを手に持った。

    まずはビーフシチューを一口。湯気を立てて熱々のそれを掬って、ふぅふぅと息で冷ましてからパクッと口に入れた。
    「…!うわ、濃厚…」
    思わず声に出してしまう程に、このビーフシチューはデミグラスソースの味が濃厚だった。けれど後を引くような重たいこってりさは無く、さらさらと幾らでもいけそうな食べやすい
    味だった。
    中に入った牛肉やじゃがいもも、口の中で溶けるように柔らかい。ついお代わりをしてしまいたくなる美味さだった。

    次はホットサンドに手を伸ばす。三角の形に切られたサンドイッチの中には、ハムとスクランブルエッグが挟んである。勢いよくかぶりつくと、まずは焼いた食パンのさくさくとした食感があって、そのままゆっくり咀嚼すると、温まったハムとふわふわなスクランブルエッグが口の中を満たしてとても幸せな気持ちに包まれる。中にはケチャップとマヨネーズが塗り込んであり、それがまた絶妙にマッチしていて美味しかった。

    サラダの方も、余分な味付けがなくさっぱりしており、箸休めに丁度良い。夏油は手を止めることなくパクパクと食べて、あっという間にプレートを空にしたのだった。
    もう少しゆっくり食べれば良かったかなぁと名残惜し気にしつつ、お腹も程良く膨れて一息ついていると、今度はバイトの青年が食後のコーヒーを運んで来た。

    陶器のカップに入ったつやりとしたブラックコーヒーを、コクリと飲む。苦すぎず飲みやすい、変わらないコーヒーの味は一口飲むだけで、夏油の心をほっとさせる。
    (…あぁ…やっぱりここにいると、癒される…。幸せだ…)
    夏油はその日、ウットリと目を細めていつも以上に至福の一時に身を委ねていた。



    「ごちそうさまでした。…美味しかったです」
    「いえいえ、ありがとうございました」
    会計を済ませて、いつものように美味しかった食事とコーヒーへのお礼を述べてから、夏油は喫茶店を出た。

    家への帰り道を歩く夏油の心は、穏やかに凪いでいる。
    どれだけ仕事で疲れていても、どれだけ日常生活で嫌なことがあっても。『喫茶 茈』へ行って、美味しいコーヒーを飲んでマスターの笑顔を見るだけで、マイナスな気持ちは吹き飛んで、明日も一日頑張ろうと思えてしまうのだ。
    二ヶ月前、毎日のようにくたびれていた自分には想像もしない出会いだっただろう。いや、今でも重労働なんてクソくらえ、今すぐにでも辞めてやりたい、という気持ちが消えた訳ではないが。それでも、心の余裕が生まれた今は日々が充実しているとさえ思えた。

    これからも末永く通って行けたらいいな。夏油はマスターの優しい気遣いと柔らかな笑顔を思い出しながら、足取り軽く帰路に着いた。



    ーーーーーーーーーーーーーー



    「……ふーーーん」
    「ん、あれ?釘崎いつの間に来てたん?」

    アルバイトの虎杖が、客席の食器を下げて厨房に戻ってみると。同じバイト仲間の釘崎が足元にしゃがんで、ホール側を覗き込むように見ていた。
    釘崎の視線の先には、丁度会計をしている我らが店主、五条と…その客であるお団子頭が特徴的な、サラリーマン風の男性がいた。

    「あ、そうそうあの人だ!ほらこの間言ってた、塩顔のイケメンなお客さん!最近よく来てくれるんだよな〜、もうほぼ常連さんでさ」
    「……あれは、『恋』ね」
    「へ?なに、なんて?」

    釘崎はニヤリと面白そうに笑う。流石は女の子と言うべきか、ただの客である夏油の淡い恋心を察したのは、彼女一人だけだった。
    釘崎が楽しげに笑う意図を理解していない虎杖は、今はまだ首を傾げてハテナマークを浮かべるばかりだった。


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    ⚠単行本0巻及び~11巻までのネタバレ、捏造を含みます。
    ⚠シモネタ会話が頻繁に出ます。
    ※ご報告なく加筆・修正行う場合があります。ご了承ください。

    R-18は下記リンクから
    【余命一週間。 五日目。】
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16505460
    余命一週間。 五日目。(全年齢)5日目。

    腕の中にあったぬくもりが消えている事に眉を顰める。居ないとわかっていながらも目を開けないまま何もない隣を弄る。部屋のあたたかさとは逆にすっかり冷えたシーツが腕に擦れる。少し気持ちいい。
    ……すっかり?
    いつもならもう少しあたたかみが残っていたはず。
    私はぼんやりと目を開けて時計を見た。

    「………………え?」

    いつもより早く起きてしまったのかと思ったが、毎日悟が起こしに来る時間を1時間も越えていた。閉まっている寝室の扉を見つめる。気配を探るもリビングで物音はしない。

    悟が居ない?…………まさか倒れてる?

    一気に目が覚め焦燥に駆られた私は飛び起きてリビングへと向かう。
    ダイニングテーブルには既に朝食の用意が済んでいた。全てにラップがされており、味噌汁を閉じ込めたラップの内側に雫が数滴付いている。既に冷めているようだ。悟の姿はどこにもない。死角になっていた台所の床に倒れてないかと確認するも居ない。そこでようやく、風呂場から水音が聞こえるのがわかった。
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