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    aco

    @uso80024365

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    ループ一周目(鳥束転入の一年間)の斉鳥の話を書きたくて書き始めたやつ。距離感遠い斉鳥です。

    daylight§0 斉木楠雄の独白

    朝がきて、僕は願ってしまう。静寂が耳を打つこと。この目が何も見通さないこと。何もかもがなくなって、僕だけが残ること。あらゆることができなくなったって、明日が続いて、ありふれた毎日だけがあること。けれども僕はそれはきっと無理なのだと知っていて、なのに朝、願うことをやめられない。絶望がゆるやかに僕を呑む。季節はめぐる。

    「来年はさ」
    右隣の大男が勢いよくラーメンを啜り上げたとき、左隣がそう言った。れんげにちまちまと味噌バターコーンラーメンのコーンを集めている。
    「へい、チャーシューメンおまち」
    どん、と置かれる丼には並々と醤油味のスープが注がれ、中でよく水の切られた中太のちぢれ麺が泳いでいる。上には肉厚に切られたチャーシューが五枚、ねぎが少々。ギチギチに詰められた箸立てから割り箸を引き抜き、パキンと割る。割るとき、木の繊維に沿って斜めに割れそうなのをサイコキネシスで少し力を入れて軌道修正。まっすぐに割れた箸に満足し、程よく麺を掬い上げた。
    「来年は、進路とか考えないといけないんだよな」
    集め終わったのであろうれんげのコーンを、海藤は一口で食べた。何だその食べ方は、麺がのびるぞ、と思ったが言わない。横目で見ながら、喉に詰め込むように麺を吸い込む。チャーシューを齧る。スープを啜る。噛み、飲み込む。一息つくふりをして、僕はため息をついた。
    『考えなくていい、まだ』
    そう、まだ。
    僕はこの日の海藤の記憶を消した。一応、燃堂のものも消した。そしてこのラーメン屋には二度と行かなかった。
    そして、海藤の言った"来年"も来なかった。

    春が来る。

    §1 transparent

    春は終わりの季節だ。本当なら終わるはずの地球を一年前に戻し、マインドコントロールをかけ直す。これは一年前に夢を見たときにはすでに決まっていたことで、きっと今年もそうするだろう。記憶はそのままに、あらゆる時間を巻き戻す。無理やり辻褄を合わせて、世界を終わらせないために歯車を回す。ギリギリと音を立てる歯車を抜いて、都合の良いピースにすげ替える。そうしていつかうまく歯車が廻れば、先に進めると信じて。僕は、どんな手を使っても未来へ行かねばならない。家族を、無邪気に「来年」を口にする同級生を、必ず連れて行かなければならないのだ。そのために超能力で現実を捻じ曲げることなど厭わない。危険は排除せねばならない。時間の流れは強制的で、抗う術を僕らは誰も持たない。僕の超能力が持つ時間を戻す力だって、結局時の流れを変えているわけではない。全体の時間の中で、一部の個体の状態を引き戻しているに過ぎないのだ。だから、それをやり続ければ永遠なのかというと全くそうではない。時は進む。巻き戻らない時間が僕を引きずって前へ進ませる。過去は変え得ない。僕の力は少しだけ未来に抗う程度だ。幸いにも僕の見た予知夢の未来は少しのことで変えられる。それだけが僕の支えで、そしてこの"少しのこと"というのがおそらく重要だと僕は考えている。変えすぎてはいけないのだ。時間が一本の時の流れなのだとしたら、確定した未来を変えるための分岐はできるだけ小さくあるべきであって、大きな変化は別の時間軸を生み出す恐れがある。予知夢の観測範囲から外れてはいけないのだ。だから、少しだけ、ありふれた変化をひとさじ。海にひとしずくの絵の具を垂らすように、それがどこかで未来を変える。海を染め上げるほどの変化は予想もつかない未来を新たに生み出すだろう。イレギュラーはいらない。僕の想定し得ない未来は必要ない。
    だから、そう——鳥束零太が、僕の想定し得ない存在だったことは間違いない。未だに僕は考えあぐねて、手をこまねいている。この男をどうすべきなのか。未来を大きく変えかねない存在なのか否か。
    ——排除すべきなのか、どうなのか。
    「斉木さーん」
    何でもない顔をして、僕の肩に手を置く。軽薄な言葉尻、反して熱い手のひら。ちらりと一瞥して睨め付けるに留めるが、気にしていないように鳥束は喋り続けた。こいつは、いま僕が透明化していたことなどわかりもしないんだろう。何も知らない顔をして、ペラペラと喋り出す。
    「斉木さん、知ってますか? 幽霊には、人間になりたがる奴もいるんですよ。元は人間だったのにその記憶が全部ないから、きっとちがう生き物みたいな感覚なんでしょうね。でも確かに、目の前にこんなにたくさんのものがあるのに触れもしないし、こんなたくさん人がいるのに話しかけられないなんて、なんだか檻の中に閉じ込められてるみたいですよ。なんか良い手はないんですかね」
    鳥束零太には幽霊が視える。それは間違いない事実だということを、この僕が証明してしまっている。それが問題なのではない。生まれつき視えたと言っていたから、鳥束零太が存在することは何らイレギュラーではない。だが、それが僕の前に現れ、僕を暴きたてたこと、そしていまもきっと暴かれ続けていること。知ってますか? という言葉に、この僕が「知らない」と答えざるを得ないこと。鳥束は僕の存在を暴き、透明化を晒し、幽霊は僕を隠してはくれない。その脅威をこの男は理解しないのだろう。その呆れるほど透き通った瞳を、どれだけ僕が恐れているのかを。
    『……良い手などない』
    ない、が。
    そろそろ考えなければならない。鳥束零太を未来に連れて行くのか、どうか、を。

    §2 4月10日

    忍舞の山は休火山とされているが、火山の活動が終わっているわけではないことを僕は知っている。透視をギリギリまで使うとそれが視える。ドロドロに溶け出したマントルはまるでチョコレートのようだ。これが火山ガスの泡を含み、一気に爆発する。僕はそれを抑えなければならない。単純に噴火を押し戻すだけではいけない、というのは一度目でわかった。押し戻したのが噴火口一点だったせいで、僕が押さえ込んだ位置を囲むように噴火しただけだった。あと少しで飲み込まれるところだった。今回は、マグマの含んだ火山ガスの泡を取り除き、瞬間的に冷却するという方法を取るつもりである。冷却の仕組みはパイロキネシスと同じだ。パイロキネシス、というと発火能力を想定されるが、僕のそれは発火に直結するものではない。物体の分子の振動を加速させ、発熱させるのがそれであって、すぐに発火するわけではないのだ。温度を上げれば発火する物体はそのうち発火するが、そうではない物体を燃やしたければ別途火炎を用意する必要がある。つまり、僕のパイロキネシスは分子の振動の加速であって、発火能力ではないと言える。また、加速させられるのなら、減速させることも可能だ。今回はこの膨大なマグマをパイロキネシスによって冷却する。
    噴火まであと数秒。覗き込んだマグマの海が、沸き立つように波打った。噴火の予兆だ。それを見逃さない。パイロキネシスによる冷却は、規模の割に緻密な作業だ。この冷却方法は、副産物として光を生み出す。分子の振動を操作するとき何らかの力で強い光を発するのだ。仕組みは知らない。僕は科学者じゃない。超能力を向ける。冷却する。強い光が目を灼く。僕には効かない。僕には——
    「斉木さん?」

    §3 過去=

    鳥束零太とは、観測できない歪みである。半径200メートルの外、知識の中に存在しない過去、幽霊、そこに確かにあるのに手の届かない何か。鳥束が手にできるそれを僕は手にできない。鳥束が幽霊によって過去を司るのなら、僕には"いま" "ここ"だけがすべてだった。
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