解き放つ 間に合った、まだ叔父は部屋にいて、古いスーツケースを片手に窓辺に立っている。今にも飛び立ちそうに羽を広げて、開け放った窓の外から強い風が吹き付け、無造作に伸ばしている黒髪をさらに乱す。空はずいぶんと青い。
「待ってください!」
叔父が振り向くと、乱れた前髪の間から、かつてないほどに楽しそうな瞳がのぞく。
「よお、行ってくるよ、ナルニアちゃん」
「どこへ?」
「決まってないけど、風に乗っていく」
高らかに歌うような声だった。
「いつ帰るんですか?」
それには答えがなかった。
叔父は、カルエゴが着任するとすぐにお役御免とばかりに辞表を出した。もうずいぶん前から書かれていたらしいその紙は、すでに色褪せていたと聞く。旅立つ日を待ちわびていたのだろう。
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