手紙狗巻君と喧嘩をした。初めての喧嘩。
最初は軽い口論だった。

「怪我したって聞いたよ？何で教えてくれなかったの？」
「…こんぶ」

狗巻君が任務で大怪我をして、
家入さんに治療して貰った事を後から知った僕は、悲しくなった。
だって…僕らは恋人同士なのに。
だから、狗巻君の部屋に行って話し合おうと思ったんだ。

「僕に言ってくれたら直ぐに治すのに…」
「…おかか」
「何で？僕ってそんなに頼りない？」
「…」

無言が肯定に聞こえて更に傷付く。

「狗巻君、ちゃんと答えてよ」
「…いくら…明太子」

もう過ぎた話しだろ？と言うニュアンス。
僕のモヤモヤが膨れ上がり、
「あ、そう…もう知らない」…だなんて、
子供みたいな台詞を吐いて部屋を出た。
それが三日前。
それから任務が忙しくて、
狗巻君と顔を合わせていない。
だから、久しぶりに高専の教室に入って…
僕は固まった。
だって教室には…狗巻君しか居なかったのだから。

「真希とパンダは任務だよ」

後から教室に入ってきた五条先生に言われて、
気不味さが増す。
無言で狗巻君の隣に座ったけれど、
あからさまに目を逸らしてしまった。
一瞬、見えた狗巻君の顔は少し悲しそうな…。
『あ…』と罪悪感が生まれる。
でも『ごめん』の一言が言えない。
そうしている内に…

「って事で！二人には特別に、座学の抜き打ちテストをやって貰いまーす！」
「え！？」
「おかか〜！」
「君達に拒否権はありませーん」

五条先生から突然の抜き打ちテスト。
驚く僕と不機嫌そうな狗巻君を無視して、
テストの答案用紙が配られた。

窓から見える青い空。
教室に入り込む日差し。
外からの風で揺れるカーテン。
時計の秒針だけが響く教室。
黒板の前に座って、任務の報告書を読む先生。
そんな空間で答案用紙と睨めっこ。
睨めっこしながら…
少し離れた隣の席が気になる。

狗巻君…怒ってるかな？
一方的に突き放した言い方…嫌だったよね？
本当は分かっているんだ。狗巻君は優しいから、
単独任務が多くなった僕に
負担をかけたくない事…。
でもね、僕は頼って欲しかった。
狗巻君が好きだから…。

そんな事を考えていると、
コツン…
丸まった紙が机の上に落下した。
え？っと驚いて隣を見る。
狗巻君の机に答案用紙が…無い。
え！？この投げられた紙…狗巻君の答案用紙！？
何で投げたの！？嫌がらせ！？
混乱した僕は、
ぐちゃぐちゃに丸められた紙を拾う。
それから、なんとなく…
ゆっくりと広げてみた。そこには…

《ごめんね》

問題が書かれている最後の空白に、
小さく書かれた文字。
胸の奥がじんわり温かくなる。

「僕も…ごめんね」

そう呟くと、
狗巻君はこちらを見てニッコリと微笑んだ。

「ちょっと、私語は厳禁だよ？…って棘…答案用紙は？」

五条先生の言葉を聞いて、
僕らは声を揃えて笑った。
狗巻君からの初めての手紙は、
初めての仲直りの証。
先生に怒られた後に、
もう一度…狗巻君に伝えよう。
僕を頼って？大好きだよ。って
そしたら狗巻君はどんな顔をするだろう…。
少し先の未来を想像して、
幸せな気持ちになった。